再販売価格の拘束とは
◆独占禁止法が禁止する行為
再販売価格の拘束は、独占禁止法2条9項4号で禁止されている不公正な取引方法の一つです。具体的には、メーカー等が、指定した価格で販売しない小売業者等に対して、卸価格を高くしたり、出荷を停止したりして、小売業者等に指定した価格を守らせることを指します。
「再販売」とは、生産業者から商品を購入した卸売・小売業者が、再度その商品を消費者に販売することです。
◆禁止される背景とは
自由競争経済の下では、小売業者等は商品の販売価格を自ら決定できてしかるべきであると考えられています。メーカー等が、小売業者等の間での値引き競争により価格が崩れ、ブランド力が低下することを恐れて小売業者等に対して価格を決定して守らせようとすることで、価格競争が阻害されて、消費者に被害が及ぶことを防ぐために、再販売価格の拘束は禁止されています。
再販売価格の拘束が認められるケースはあるのか
◆一部の著作物は例外となる
書籍、雑誌、新聞、音楽CDやレコードなどの著作物の一部に関しては、再販売価格の拘束を禁止するルールを適用しない旨が独占禁止法で定められています。このような出版物などは定価販売を許容することでさまざまな出版物が販売されることにつながり、多様な文化を維持できると考えられているからです。
◆「正当な理由」がある場合
公正取引委員会は「再販売価格の拘束が行われる場合であっても、『正当な理由』がある場合には例外的に違法とはならない」としています。(公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」)
たとえば令和2年、コロナ禍でマスクや消毒液が品薄になった際、「新型コロナウイルス感染症への対応のための取組に係る独占禁止法に関するQ&A」において、小売業者が不当な高価格を設定しないように期間を限定して、メーカーらが小売業者に対して一定の価格以下で販売するよう指示する行為は、消費者の利益となり正当な理由があると認められる旨の回答をしています。
とはいえ「正当な理由」とされる例外は存在するものの、明確な基準が定められているわけではありません。メーカー等は慎重な判断と行動が必要であるといえます。
再販売価格の拘束になりがちな例
◆再販売価格の拘束になる例
該当する具体例は次の通りです。
- メーカー等が小売業者等に対して希望小売価格で売らなければ卸さない仕入れをしない、出荷を停止する、取引条件を悪くするなど不利益を与える。また、それらを示唆して圧力をかける。
- メーカー等が小売業者等で自社製品を安売りしているのを見つけて、ロット番号などから卸売業者を突き止め、価格を希望小売価格に戻すように指示する、あるいはそれを理由に取引を止める。
- メーカー等が、小売業者であるA社がメーカー等の指示した価格を守って販売しないためA社に対して出荷停止したのを知ったB社が、自社も取引を失うのを恐れて該当商品の販売価格を上げる(A社に対する行為が他社への圧力と認められる)。
◆希望小売価格を伝えることは再販売価格の拘束にあたる?
メーカー等が小売業者等に対して「メーカーはこの価格でも売れると思っている金額を参考までにお伝えします」と希望小売価格や参考価格を伝えることに問題はありません。ただ、その価格で売ることを強要するのは再販売価格の拘束に該当するので注意が必要です。
独占禁止法違反とならないようにするために
◆再販売価格についての理解
メーカー側は「一度売った製品の価格はコントロールできない」ことを大前提として理解しましょう。独占禁止法への知識がないために、意図はなくても違反をしてしまうケースがあります。
◆希望価格で売れる方法を選ぶ
自社で決めた価格で販売をしたい場合は次のルートで販売するのも方法の一つです。
- 自社店舗や自社ネット通販で商品を販売する
- 自社の子会社(出資割合が50%超)などを通して自社の流通網を整備し、そのルートで販売する
- 小売業者等や代理店に自社商品を預けて販売してもらい、売れ残ったら在庫を引き取る「委託販売」を利用する
◆誤解を与える言動を避ける
希望小売価格を告げただけのつもりが、小売業者等にとっては販売価格を強要されたと感じることもあります。特にメーカー側の立場が強い場合、小売業者側からすれば販売価格に関する指示を守らされている(圧力をかけられている)ととらえられやすいので注意しましょう。
再販売価格の拘束をした場合はどうなる?
公正取引委員会は、再販売価格の拘束をした事業者に対して行政処分の「排除措置命令」を行います。再販売価格の拘束をやめることを命令したり、再発防止のために取締役会決議をもって違反をやめたことの確認や再発防止のための定期的な研修や監査などを命令したりします。
10年以内に2回の再販売価格の拘束をおこなった事業者には、2回目の違反の際に課徴金が課される決まりです。しかし、実際に再販売価格の拘束において課徴金が課されたケースは今のところはありません。
小売業者等に対する再販売価格の拘束は、各事業所の営業部門などが独断で行っていることもあります。会社全体で独占禁止法についての知識や情報を共有し、トラブルを回避しましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年6月時点のものです。
<取材先>
弁護士法人北浜法律事務所 弁護士 籔内俊輔さん
公正取引委員会事務総局審査局での勤務経験を持つ。2011年に幹事の一人として立ち上げた「実務競争法研究会」では、問題になりやすい国内外の独占禁止法(競争法)に関するトピックについて自由闊達な議論を行っている。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




