引っ越し費用、住居の補助などの確認を
転勤は、会社の命令で実施されるので、会社が一部費用を負担することになります。人事担当者は引っ越し費用の負担割合、転勤先の住居費用の補助割合などを確認しましょう。単身赴任の場合、企業によっては帰省の交通費や新生活をスタートさせるための支度金として手当が支給される場合もあるので、その内容を確認しましょう。転勤する当事者に手当の内容についてきちんと説明しておくことも大切です。
転勤を受け入れたくない人が増加傾向に
昔は男性が働き、女性が専業主婦で家を守るという家庭が主流でしたが、共働きが増え、女性も自身のキャリアを積むことを重視する時代です。さらに子育てや親の介護、パートナーの仕事や体調など家庭の都合も優先されるようになっているので、転勤を命じられたときにそれらを理由に断るというケースも増えつつあります。
一方で、最近は若い世代を中心に、そもそも転勤がある企業を選ばない人も増えているようです。大手企業に内定したものの、全国転勤が嫌で、最終的に内定を断って他企業に就職したという話を聞いたこともあります。企業側にも転勤の廃止や希望勤務地を選択できる動きも出てきています。
転勤を命じる前に本人に確認を取っておけば、大きなトラブルは避けられますが、中には裁判に発展してしまう事例もあります。社会情勢の変化に伴って価値観が変化するなか、「従えないなら辞めてください」という企業中心の方針では済まないケースも出てきているので、トラブルに発展しないように対応策を考えることが必要です。
転勤にまつわるトラブルを回避するには
◆従業員と向き合い、状況を把握する努力を
トラブルを未然に防ぐために重要なのは、従業員の家庭環境などをしっかり把握しておくことです。たとえば、家族が病気を抱えていて転勤できない事情があるかもしれません。また、子育て中といっても近くにサポートしてくれる親がいる家庭もあれば、遠方で親の助けを借りることができない家庭もあり、状況は千差万別です。ひとくくりにして考えないで従業員一人一人の背景を把握し、どの場所なら働けるかを確認した上で、その条件に企業がどこまで配慮できるかを検討することが必要です。
また、子育てや介護を抱えている従業員だけが転勤を免れるとなると、一部の社員が優遇されていると捉えられてしまう可能性もあります。転勤に関わることだけでなく、たとえば「語学を学びたい」「資格を取りたい」といったキャリアアップにつながる希望など、多面的にヒアリングを行うことで、それぞれに合った労働条件を話し合う機会を設けましょう。
◆従業員の「権利」だけでなく、「義務」も明確化しておく
一方で、社として果たしてもらうべき義務があることを、社員に対し明確に掲示しておくことも大切です。「転勤はなしでOK(権利)。だけど、転勤ありの人よりも経験が限られるため、昇進昇格に限界がある(義務)」など、権利と義務の両方を全社員に「見える化」しておくことで、各従業員が不公平感を抱くことなく、納得感を持ってそれぞれの業務に当たることができるでしょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年9月時点のものです。
<取材先>
社会保険労務士事務所 代表 出口裕美さん
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト