過重労働とは
一般的に過重労働とは、長時間の残業や頻繁な休日出勤・出張などにより、長時間労働が続いている状態を指します。過重労働が続くと、従業員の心身に負担がかかり、放置すれば疾患や過労死を招くことにもなりかねません。
過重労働に対して明確な法的定義や基準は設けられていません。しかし、労働基準法では時間外労働の上限が定められており、この上限に近づくにつれ、過重労働に該当する可能性も高くなると考えられています。
◆時間外労働の上限規制
まず、労働時間の上限は原則1日8時間、週40時間と定められています。企業が労働者の代表と協定を結ぶことで、この時間を超えて働く「時間外労働」が可能になります。時間外労働の上限は月45時間・年360時間であり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることは認められていません(労働基準法36条4項)。臨時的な特別の事情があり労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を守る必要があります。
- 時間外労働が年720時間以内であること
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であること
- 時間外労働と休日労働の合計について、2カ月平均・3カ月平均・4カ月平均・5カ平均・6カ月平均が全てひと月当たり80時間以内であること
- 時間外労働が月45時間を超えるのは年6カ月を限度とすること
過重労働に関する企業へのペナルティ
先述したように過重労働そのものについての法的定義がないため、罰則はありません。しかし、上記の時間外労働の上限規制を超えた場合は、企業に6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
過重労働を引き起こす原因とは
過重労働を引き起こす原因としては、下記のような点が挙げられます。
- 仕事量に対して人員が足りていない(慢性的な人材不足)
- 営業職などに課せられるノルマが過剰である
- 特定の業務ができる人員が限られている
- 「定時で帰りづらい雰囲気がある」「長時間働く人が評価されやすい」など企業の社風
過重労働に対して企業がとるべき対策
◆人材不足の解消
仕事量と人材のバランスが崩れると、過重労働を引き起こしやすくなります。長時間労働が多い部署については、他部署からの異動や新規採用など、人材の補充を検討しましょう。
◆勤怠管理を徹底する
長時間労働を防ぐことが過重労働の予防につながります。勤怠管理ソフトを活用して、残業や休日出勤などの時間外労働が長くなっている従業員をチェックしましょう。日頃から各部署のリーダーと共有し、長時間労働の傾向がある場合は早めに対策することが必要です。
◆「属人化」を防ぐ
過重労働を防ぐためには、常に忙しい部署や残業の多い部署などを把握し、従業員の業務内容や業務量を見直しましょう。特に、ある業務の進め方や進捗状況などを特定の担当者しか把握できていないいわゆる「属人化」の状態になっているケースが多く見受けられます。この場合、特定の従業員が過重労働に陥りやすくなるため、業務マニュアルの整備や業務責任の分散などで業務効率を上げ、過重労働を回避しましょう。
◆社風を見直す
「残業が多い人の方が頑張っている」「上司が帰るまで帰りづらい」という風潮のある企業は、従業員が過重労働になるリスクが高まります。まずは経営者やリーダーの意識を改革し、ワークライフバランスを視野に入れた働き方について理解を深めることが重要です。
時間外労働の上限規制を守ることは、企業にとって最低限の義務です。労働時間だけに目を向けるのではなく、従業員の心身の健康を守るという意識を持つことが重要です。従業員に困った事があった場合は、上司に相談できるよう、常日頃からコミュニケーションを取るなどして、働きやすい環境整備を心がけましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年10月時点のものです。
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 歌代将也さん
大手製紙メーカーで人事労務、経営企画、財務、内部統制、労働組合役員など、様々な職種や業務を経験し、在職中に社会保険労務士やFPの資格を取得。退職後、2019年に「うたしろFP社労士事務所」を開設し、人事・賃金制度作成のアドバイスや、各種研修・セミナー講師などを行っている。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
