グローバル人材とは
グローバル人材の定義は様々ですが、「グローバル」(global=世界的な、地球規模の)という言葉の通り、国境や国籍を超えて海外の企業で活躍する人材のことです。ここでいう海外の企業とは、外国にあるその国の企業と、海外に支社などを持つ日本企業の両方を指しています。
海外で活躍する日本人の人材と、日本企業で活躍する外国人の人材いずれもが該当しますが、本記事では、外国人のグローバル人材の採用と育成について解説します。
なぜ必要とされているのか、その背景
グローバル人材が必要とされるようになった背景には、主に次の点が挙げられます。
- 世界経済の変化や通信技術の発達によるグローバル化
- BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)やVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)など、新興国の経済成長による市場の変化
- 人材不足による外国人労働者受け入れの拡大
- 国内市場の縮小により、海外市場を求めて進出する日本企業の増加
このような背景から、異なる文化圏の人々と交流や取引を行う際に、両国の橋渡し役として円滑なコミュニケーションの実現を担う役割としてグローバル人材が必要とされています。
グローバル人材に求められる能力
グローバル人材に求められる能力はどのようなビジネスシーンで活躍するのかによって異なりますが、主に次の3点が必要とされます。
◆語学力
国境の壁を超えて円滑なコミュニケーションを取るために必要な能力です。世界共通言語である英語が扱えることが望ましいとされています。また、外国人が日本企業で働くためには日本語能力が必要ですし、ビジネスを展開する国の言語を使える人材を活用することでより意思疎通がしやすくなります。
語学力は資格や経歴などで判断しやすく、採用や育成の指標となりやすいのもポイントです。
◆コミュニケーション能力
幅広い文化や価値観の相手と接するにあたって、相手に合わせて適切なコミュニケーションを取る能力が求められます。言語能力のほかにも、論理的思考力や感情表現力、他者を受け入れる柔軟さなど、総合的なコミュニケーション能力が必要です。
◆相手国と自国の文化や歴史、価値観に対する理解力
たとえばベトナム企業と取引を行う場合には、ベトナム現地の文化や歴史、価値観をよく知る人材を活用・育成することが重要です。自国の文化や歴史などに対する豊富な知識も求められます。また、異文化の価値観の違いなどに対して柔軟に対応できる能力も重要といえるでしょう。
グローバル人材を育てる前に必要なグローバル戦略
近年、外国人の人材採用が増えていることから、いわばトレンドのような感覚でグローバル人材の誘致や育成を捉えている企業もあります。しかし、グローバル人材の育成を行う前に、企業のグローバル化を見据えた戦略が必要不可欠です。そのためには、次のような段階を経た人材育成が重要となります。
1.自社を分析する
自社の強みと弱みを分析した上で、強みを生かしたビジネス展開の計画を立てます。トップや経営陣だけで行うのではなく、社員とともに分析を行うことで新たな発見があることも多いでしょう。
2.徹底した調査とストーリー作りを行う
海外進出を目的とするなら、なぜその国を選んだのか、その国にはどのようなニーズがあるのかを調査します。仮に海外で日本食ブームが起こっていても、日本の料理をそのまま持ち込めば売れるとは限りません。日本人の思う日本の魅力と、外国人が感じている日本の魅力が異なることは多々あります。現地の人々の声を聞き、自社の特色とローカライゼーション(環境に適合させること)を意識したストーリーを作ることが重要です。
国内において、インバウンド向けのビジネスを展開する時も同様です。
3.戦略を実行しながら人材を育成する
戦略の実践に合わせたグローバル人材の誘致・育成を行います。ストーリーに沿った結果に結びついているかを定期的に見直し、教育や訓練を繰り返しながら試行錯誤を重ねていきます。
戦略を練り、実践していく上で、次の点がポイントです。
- チーム経営を意識して行うこと
- 従来の経営手法にとらわれず、現地の人々や人材とのコミュニケーションを積極的に取り、信頼関係を結んでいくこと
グローバル人材を育てるには
◆その国の文化や特性を知る
外国人をグローバル人材として誘致・育成する場合は、その人の出身国の文化や特性を知ることで自社に合った人材を獲得しやすくなります。
一例を挙げると、インドでは各州で言語が違うため、多言語を扱える人が多くいます。そのため、言語を習得する能力や、IT教育のレベルが高く、エンジニアとしての能力に期待できる側面があるといわれています。一方で、インドは中短期雇用の文化が強く、4~5年で離職していく傾向が強いといわれています。長く働いてほしいのであれば、その人が求める環境や待遇を理解し、交渉を行う必要があります。
◆文化の違いを踏まえてルール化を行う
外国人をグローバル人材として受け入れるには、下記のように、文化の違いを踏まえた上でルール化することが重要です。
- 社内文書(雇用契約、社内規定、就業規則、出張規定)の翻訳版の作成
- 採用時に職務分掌(職務の責任と役割)を明文化して説明する
- 時間感覚や商習慣、日本文化における暗黙のルールを明文化する
- 人事の透明性を高め、定期的なフィードバックの機会を設ける(人事評価の公開や昇給基準の数値化など)
働きやすい環境づくりにおいては、家賃補助や初期費用の分割、連帯保証人または住宅借り上げの対応など、住宅に関する福利厚生制度も整えます。
◆離職を減らすポイント
国の文化によっては、外国人のグローバル人材は数年での離職率が高い傾向にあります。長く働いてもらうためには、企業から下記のような働きかけが必要です。
- 短期間でもキャリアアップできるロードマップを作成する
- 旧正月など母国の帰省スケジュールにあわせて1~2週間の休暇を認可する
- 欠勤控除や有休付与などの労務規定について詳細に説明を行う
- 保険や税金の説明、ビザ更新や永住権取得の支援を行う
- 部署異動および転勤の説明を行う
海外進出や海外市場をターゲットとする企業が増える中、今後グローバル人材の活用はますます重要になっていくでしょう。外国人のグローバル人材を育成するためには、文化の違いなどを知り、社内で人材を受け入れて活躍できる環境を整えていくことが大切です。
※記事内で取り上げた法令は2021年10月時点のものです。
<取材先>
立命館大学経営学部教授 守屋貴司さん
博士(社会学)。一般財団法人アジア太平洋研究所上席研究員。研究専門分野は、人的資源管理、キャリアデザイン、事業承継研究。著書は『人材危機時代の日本の「グローバル人材」の育成とタレントマネジメント「見捨てられる日本・日本企業」からの脱却の処方箋』(晃洋書房)など。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト