エンジニア採用が難しい理由・難しい市場
エンジニア採用が難しい理由をひと言で言えば「需要と供給のバランスが崩れているから」です。経済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果(平成28年6月10日)」によると、2030年にはIT人材が最大で約79万人不足すると試算されています。
2010年代後半から、企業では、IT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進が必須となり、また、セキュリティーなどに対するニーズも高まっていることから、IT人材への需要がどんどん高まっています。その一方で、日本ではIT人材の供給が減少していくと予測されています。結果、需要と供給のバランスが合わず、エンジニア職では求人倍率が高くなっているのが現状です。
また、近年のエンジニア採用の大きなトレンドとして、採用力のある大手ITベンチャーなどが、経験者を重視して採用を行っていることも、エンジニア採用を難しくしている理由の1つです。これまで、プログラミングスクールで学んだ未経験者を採用していた企業も、最近は、戦力になるまでの時間や教育コストを考慮し、未経験者の採用を控えるケースが増えています。
そういった背景から、エンジニアの経験者採用では獲得へのハードルがいっそう上がっていると言えます。
エンジニア採用と他の職種の採用の大きな違い
難しいと言われるエンジニア採用で人材を獲得するには、まずは他の職種との採用における違いを認識しておくことが大切です。ここではエンジニアの経験者採用における特徴を紹介します。
◆企業文化・理念よりも技術や事業が重視される傾向がある
一般的に、転職を考える際には、自分が抱えるキャリアの課題を解決できる転職先を探します。転職のきっかけや目的となる思想は、大きく分けると4つあります。1.企業理念、2.事業内容/業務内容、3.人/文化、4.待遇/働き方です。
このなかでも、特にエンジニアは、「2.事業内容/業務内容」を軸に、転職をすることが多い傾向があります。エンジニア側は、その企業がどんな技術を使い、どんな事業を行うかという点に興味を持つことが多いため、企業側としては理念や企業文化、待遇などで差別化しづらく、業界や業種の垣根を越えて、大手ITベンチャーなど採用力の高い企業と戦う必要が生じてしまいます。
◆エンジニア経験者は副業・業務委託を経て、正社員になる場合が多い
エンジニア職の経験者採用では、副業や業務委託で複数社の業務に携わり、そのなかから相性の良い会社に正社員で入るというケースが多々あります。
そのため、副業や業務委託からスタートできる雇用形態を準備することも必要です。そして、加わってもらった後に、どれだけ良い従業員体験を提供できるかが、正社員として採用できるかのカギを握っています。特に売り手市場のエンジニアの経験者採用においては意識しておきたい点です。
◆採用活動に現場(エンジニア職の社員)を巻き込む割合が大きい
エンジニア職の領域は専門的になるため、人事などの採用担当者には分かりづらいという特徴があります。そのためエンジニアの採用やその後の定着のためには、エンジニア職の社員を巻き込み、協力してもらうことが重要です。
エンジニア採用における人事の役割
エンジニアの経験者採用においては、社内のエンジニアを巻き込むために、人事としては大きく以下の2つを意識しておきましょう。
◆社内エンジニアの当事者意識を醸成して参加意欲を高める
1つ目は、社内のエンジニアが「採用活動に協力したい」と思ってくれるような、参加意欲を高める声かけを行うことです。
たとえば、「あの企業は、エンジニアが自らエンジニアを紹介することで、信頼できる仲間と一緒に新しい機能を開発したそうですよ。あなたも一緒に新しい機能開発ができる環境作りをやりませんか?」と、エンジニアの向上心に呼びかけます。業務の負担が大きい場合は「優秀な仲間が増えたら、業務がラクになりますよ。一緒に増やしませんか?」と問いかけてみます。
さらに、経営層との調整も必要ですが、採用への協力を制度評価や給与に紐づけることができれば、さらなるモチベーションアップにもつながります。
◆「よく分からない」「面倒」といった不安や課題の払拭
もう1つは、「面接のやり方なんて分からない」「採用に関わるのは面倒くさい」といった不安や課題などのネガティブな感情を取り除くことです。
面接で魅力的に話す方法や相手を引きつける方法とともに、どんなスキルを見極めれば良いかを社内エンジニアに共有しておきましょう。見極めるべきスキルは、大きく「ミッションフィット(企業の経営理念に合っているか)」「カルチャーフィット(企業の文化や価値観に合っているか)」「スキルフィット(専門知識や技術が合っているか)」の3つです。
特に、スキルフィットに関しては、人事の担当者には把握できないことも多いので、見極めは社内のエンジニアに行ってもらうとスムーズでしょう。
また、面接の人数が多いとエンジニアの負担になります。事前にエンジニアと履歴書での選考ではどういう人を通すか、すり合わせを行い、人事側である程度見極めを行うことで、協力してくれるエンジニア側の負担を軽減することも重要です。履歴書では見極められない個人のスキルを定量化するようなサービスもあるので、利用するのも1つの方法でしょう。
忙しい現場のエンジニアを採用に巻き込めるかどうかが、獲得が難しいエンジニア採用での大きなカギを握っています。巻き込むことができれば、技術ブログでの発信や採用資料の作成など、採用活動に広がりが生まれ、質の向上も期待できるでしょう。
<取材先>
HeaR株式会社 代表取締役 大上諒さん
2016年にコンテンツマーケティング企業に入社。30社以上のメディア運営に携わる。2018年にHeaR株式会社を設立。「青春の大人を増やす」をミッションに複数のHRサービスを展開中。
TEXT:武田明子
EDITING:Indeed Japan + ミノシマタカコ + ノオト