会社への帰属意識が生まれ、離職率低下につながる
――社員寮を運営する上で、決めておくべき最低限のルールにはどのようなものがありますか?
当社が運営を請け負っている社員寮の事例を見ると、お風呂やランドリーなどの共有スペースの使用時間、食事の時間帯や火気の取り扱いなどの安全面での取り決め、また外泊時の届け出、訪問者が立ち入ることができる範囲など、最低限のルールを設定しています。寮生が気持ち良く生活するために必要なルールと考えていますが、これ以上細かく定めてしまうと、入寮者が面倒に感じたり息苦しく感じたりすることもあるので注意が必要です。
また、食事を提供する寮の場合は、その日の食事が必要か不要かを確認しなくてはいけません。当社では2022年春から寮と寮生の連絡を行うためのアプリを導入し、その日の食事が必要かどうかアプリ上でスピーディーに確認を取っています。
加えて、このようなアプリを導入するメリットとしては、宅配便の確認や消防点検、寮内イベントのお知らせなどの連絡がスムーズになる点です。体調が悪いときも迅速に非接触で連絡できるので、今のコロナ禍の状況にも合致していると思います。こうした仕組みやサービスを活用できると、より入寮者に負担が少ない運営が可能になるでしょう。
――入寮条件や退寮条件については、どのように定めるべきでしょうか?
当社の寮を利用している企業の傾向を見ると、入寮条件を「入社して3~5年、もしくは25歳くらいまでの単身者」と設定する企業が多いようです。こうすると年齢や入社年数のほか結婚などでも一定数が退寮するため、寮生は自然と循環し、新たな社員が入寮できるようになります。
もちろん、企業によって幅があり、30歳、40歳までという社もありますし、年齢に関係なく単身赴任の従業員を受け入れている企業もあります。いずれにしても入寮を決める前に上限年齢を説明し、入寮するまでの期日も決めておくとよいでしょう。
退寮に関しては、退職時はいつまでに退寮しなければいけないかということや、規則に違反した場合や結婚した場合などの規定をきちんと定めておきましょう。
人間関係を築くことがトラブル回避につながる
――社員寮で起きるトラブルにはどのようなものがありますか?
一般的に多いトラブルとしては、男性寮、女性寮と分けている社員寮で、異性を部屋に呼んでしまったという規律違反や酔っ払って寮の設備を壊してしまったという例でしょうか。
一室だけを会社が借り上げて寮として使う場合では、隣人と騒音問題で口論となり、トラブルに発展してしまうケースなどがあると聞きます。
――こうした問題を防ぎ、大きなトラブルに発展させない工夫はありますか?
建物全体が社員寮となっている場合、入寮者同士の騒音問題には、寮長が間に入って注意するのがいいでしょう。なぜなら日頃から挨拶を交わし、世話になっている寮長に対しては当事者も素直に注意を聞くことができるからです。
これは寮長が寮生のことを家族のように思いやるため、お互いの信頼関係を醸成し、トラブルが起きにくい、また起きても大事になりにくい環境を生み出しているのではないでしょうか。寮長と寮生の人間関係を築くことによって、トラブル回避をもたらす効果は大きいと感じています。
寮生の代表を選ぶことで円滑な運営に
――円滑な社員寮運営を進めるコツがあれば教えてください。
私たちの経験から大切だと感じているのは、寮生のなかから代表となるリーダーを立てることです。その人が中立的な立場で、会社の人事側の意見と寮生側の意見を聞いて、互いに共有し、調整役を担うことによってスムーズな運営が実現しています。企業によっては人事担当者が入寮して、リーダーの役割を担うケースもあります。
もう一つは、寮費をなるべく安く抑えることです。当社が運営している企業の事例では、約8千円~2万円に設定している企業が多いです。安く提供することによって、利用者の満足度が上がり、「寮に迷惑をかけないようにしよう」といった気持ちが生まれるのでしょう。
また、寮生を対象にイベントを開催している社員寮では、寮生同士の親睦が深まり、スムーズな運営につながっていると感じます。コロナ禍の現在はオンラインが主流ですが、資産運用のノウハウや写真の撮り方など仕事や趣味に関する幅広いセミナーや講座を開催しています。以前は、サッカーワールドカップを寮生みんなで観戦するといったイベントやバーベキューなども実施していました。寮生同士のコミュニケーションが深まる機会をつくることも良好な寮の運営に役立つと感じています。
<取材先>
共立メンテナンス レジデンス事業支援部 川野太郎さん
1979年創業。創業時より社員寮や学生寮の運営を手掛け、現在は各種コンセプト寮など幅広いスタイルにも対応し、全国に500棟以上を展開。自社の管理栄養士監修のメニューを全国の寮で提供するなど、長年のノウハウを生かしながら各企業の社員寮の運営を担っている。
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト