タイムカードの押し忘れを理由とした減給の違法性
タイムカードの押し忘れを防止するためとはいえ、「打刻漏れ1回につき○円の罰金・減給」「打刻漏れ3回で1日欠勤扱い」などといったペナルティは、労働基準法第16条に違反する可能性があります。
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」
(労働基準法第16条「賠償予定の禁止」)
金額が明示された「打刻漏れ1回につき○円の罰金・減給」は明らかに違法です。また「打刻漏れ3回で1日欠勤扱い」も直接金額が明示されていないだけで、日額相当の違約金を定めていると判断されます。
労働基準法第16条に違反した場合、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が課されます(労働基準法第119条1号)。
タイムカードの押し忘れと就業規則の関係
「打刻漏れ1回につき○円の罰金・減給」などのペナルティは認められませんが、懲戒処分として「減給処分」を行うことは可能です。
頻繁にタイムカードを押し忘れる従業員に対して何度注意しても改善が見られない場合、その従業員を服務規律違反として懲戒処分の対象とすることができます。その懲戒処分の一つとして減給処分が可能です。ただし、就業規則等において、あらかじめその旨を定めておく必要があります。
タイムカードの押し忘れを懲戒処分の対象とする際の注意点
タイムカードの押し忘れを懲戒処分の対象とする場合、以下の2点に注意してください。懲戒処分である以上、厳格なルールに従って処分を下す必要があります。
◆懲戒処分の注意点
1.明確性の原則
就業規則等において、タイムカードの押し忘れや不正打刻が懲戒の対象となることを、あらかじめ明確に定めておきます。
2. 相当性の原則
懲戒処分は、処分の対象となる事由と処分の内容が釣り合ったものでなくてはなりません。タイムカードの押し忘れが1~2回程度で、いきなり重い減給処分を下すことはできません。まずは口頭で注意し、それでも改善されない場合は始末書を提出させるなど、手順を踏んだ対応が必須です。
減給処分が相当だと判断した場合でも、減給処分の上限を定めた労働基準法第91条に従う必要があります。労働基準法第91条では、減給処分における2つの上限を定めています。
◆減給処分の法的ルール
1.1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはいけない
平均賃金1日分の給与が1万円の場合、1回あたりの減給処分の上限は5,000円です。
2.総額が一賃金支払期における賃金の総額の1/10を超えてはいけない
【例:月給20万円の従業員に、1カ月に5回の減給処分を下す問題が発生した場合】
1回あたりの減給処分の上限が5,000円だった場合、1に照らし合わせると、その月は2万5,000円(5,000円×5回)の減給が可能となります。しかし、一賃金支払期における賃金の総額の1/10を超えてはいけないルールがあるため、月給20万円の従業員に対しては2万円までしか減給できません。
なお、労働基準法第91条を超える減給処分を下すと、30万円以下の罰金となります(労働基準法第120条1号)。
タイムカードの押し忘れを予防するための方法
タイムカードの押し忘れに対する処罰を就業規則等に定めても、それだけで押し忘れがなくなるわけではありません。さまざまな工夫を凝らすことも重要です。
1.打刻ルールの明確化と周知
タイムカードの押し忘れの原因として、従業員に打刻の習慣が根づいていない可能性があります。定着させるには、タイムカードの打刻ルールを明確にして、何度も周知する必要があります。たとえば、職場内の目立つところに「タイムカードを押しましょう!」などの貼り紙をするのは有効です。特に押し忘れの多い従業員には、自分の作業場にメモを貼らせることも検討しましょう。
2.タイムレコーダーなどの設置場所を見直す
業務の導線上にあるか、わかりやすい場所にあるかなどを確認してください。作業場所の付近にない、目立つ場所にないなど、設置場所に問題があると押し忘れにつながりやすくなります。
3.タイムレコーダーなどの機器自体を見直す
打刻機器の処理手順が複雑、時間がかかるなどの事情があると後回しにしてしまい、そのまま忘れてしまう可能性があります。そもそものシステム自体を見直す必要があるでしょう。最近の勤怠管理システムは、利用できるデバイスとしてパソコン、スマホ、タブレット、ICカードなどがあり、その手軽さが押し忘れの防止につながります。
4.押し忘れの際のルールを厳格化する
押し忘れた場合には、その都度、修正申請書を作成させて上司の承認印を必要とするルールを徹底しましょう。従業員は面倒な作業を回避するために、意識的に押し忘れを減らそうと努力するはずです。
タイムカードの押し忘れを修正する際の注意点
タイムカードの押し忘れを放置していると、従業員のモラルが低下していき、やがて不正打刻が横行することになります。本当は遅刻なのに押し忘れと申告したり、他の従業員に代理打刻してもらったりする従業員も出てくるかもしれません。
そういったことを防ぐためにも、特に上記4の「押し忘れの際のルールを厳格化する」は重要です。タイムカードの押し忘れが発生した際の修正ルールとして、以下の対応をおすすめします。
◆手書きの場合
その都度、書面で修正申請書を作成させ、上司の承認印を必要とするルールを徹底してください。
◆クラウド勤怠などオンラインの場合
上司は従業員にその都度、事実関係を確認して承認ボタンを押すようにしましょう。場合によっては手書き同様、書面での修正申請書を要求することも必要です。
厳格なルールによって、従業員は面倒な手間を回避するために意識的にタイムカードの押し忘れを減らそうと努力すると同時に、不正打刻の抑止にもつながります。
※記事内で取り上げた法令は2022年3月時点のものです。
<取材先>
弁護士法人ブレイス 弁護士 渡邉直貴さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト