労働保険概算確定保険料申告書とは
労働保険概算確定保険料申告書(※1)とは、労働保険料(雇用保険料・労災保険料)を納付するための申告書です。労働保険料について前年度の確定保険料と今年度の概算保険料額を計算し、集計額に基づき申告書を作成します。あくまで「納付のための申告書」であり、申告書の提出だけではなく、保険料の納付まで行う必要があります。
※1……正式名称は「労働保険 概算・増加概算・確定保険料 石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」
◆労働保険とは
労働保険には下記の2つがあります。
1. 雇用保険
従業員が失業した場合などに必要な給付を行い、従業員の生活及び雇用の安定を図るとともに再就職の援助を行うことなどを目的とした雇用に関する制度です。雇用保険料は従業員と企業とで負担します。
2. 労災保険
業務中や通勤による従業員の負傷・疾病・障害または死亡に対して、従業員やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。また、保険給付のほかに、労働福祉事業も行っています。 労災保険料は雇用主である企業が全額負担します。
労働保険概算確定保険料申告書を提出しないとどうなる?
◆延滞金や滞納処分などのペナルティ
労働保険概算確定保険料申告書を提出しないと労働保険料の納付ができません。督促による指定期限である納期限までに労働保険料を完納しない場合、保険料とは別に延滞金が課されます。延滞金は、法定納期限の翌日から納付されるまでの日数に応じて、保険料額に年14.6%を乗じて計算します(最初の2カ月間は軽減措置あり)。それでも納付しない場合には財産の差し押さえによる強制処分がなされます。
◆労災保険の費用徴収
労働保険料の未納期間に従業員が労災事故や通勤災害に遭った場合、被災労働者への保険給付はなされますが、企業はその保険給付に要した費用の一部(最大40%)を保険料とは別に徴収されます(労働者災害補償保険法第31条)。
◆助成金が支給されなくなる
雇用に関する各種助成金は、労働保険の雇用保険料を財源として支給されています。労働保険料が納付されていない企業は、助成金の支給対象になりません。多くの助成金制度は雇用保険を財源としているため、保険料の未納がある場合は、助成金が支給されなくなります。
◆競争入札の参加ができなくなる
労働保険料が完納されていない場合、労働保険料を支払った証である「労災・雇用保険料等納入証明書」が交付されません。この書類が無いと、公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が必ず受けなければならない審査である「経営事項審査」が受けられず、建設業者は競争入札に参加できなくなります。
申告書の提出から納付までの手順
1.申告書を作成する
(1)前年分に確定した対象賃金と、その額に対する確定保険料を計算し「保険料・一般拠出金算定基礎額」欄と「確定保険料・一般拠出金額」欄に記載します。
(2)今年度分の従業員の給料の概算額と、その額に対する概算保険料を計算し「保険料算定基礎額の見込額」欄と「概算・増加概算保険料額」欄に記載します。
(3)前年度の概算額から確定額を差し引き、その金額に今年度の概算額を加算した金額が納付額となります。確定保険料の計算については、申告書に同封されている「確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」を利用すると計算しやすくなります。
参考:「令和4年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方」より「10 申告書の記入にあたって」(厚生労働省)
2.申告書を提出する
6/1~7/10までの間に、労働保険料概算確定保険料申告書を提出します。提出方法は下記のいずれかとなります。
- 管轄の労働局へ来署
- 管轄の労働局へ郵送
- 各府省に対するオンライン申請・届出等の手続の窓口サービス「e-Gov(イーガブ)」での電子申請(事前の登録が必要)
- 金融機関へ来店(現金納付を同時に行う場合のみ提出可)
労働保険料概算確定保険料申告書の提出にあたって添付書類などは不要ですが、建設業等は別途書類の提出が必要な場合があります。
3.労働保険料を納付する
◆現金で納付する
労働保険料を現金で納付する場合は、納付期限日が7/10と申告書の提出期限日と同日であるため、申告と納付を同時に行うケースが多いようです。納付書は申告書に付属しています。
◆口座振替で納付する
口座振替の場合、第1期分の労働保険料は9/6に引き落としとなります。事前の口座登録が必要なため、厚生労働省ウェブサイトか管轄の労働局等から口座振替申込用紙を入手し、必要事項を記入して金融機関の窓口へ提出します。現金納付より期日に余裕があることや、納め忘れを防ぐメリットがあります。
◆延納(分割納付)も可能
労働保険料は、下記に該当する場合、保険料を3回に分けて分割納付することが可能です。
- 概算保険料が40万円以上の場合(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は概算保険料20万円以上)
- 労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合
申告書作成や納付のポイント
◆端数は切り捨てる
労働保険料の計算の際、1円未満の端数が出た場合は切り捨てとなります。
◆労働保険対象賃金の範囲を把握する
労働保険料概算確定保険料申告書は、対象賃金の集計が煩雑といわれています。特に労働保険の対象となる賃金が細かく分けられているため、しっかり把握しましょう。
引用:「令和4年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方」より「7 労働保険対象賃金の範囲」(厚生労働省)
◆出向者の労働保険料の計算
出向者がいる場合、雇用保険に関しては出向元の賃金に含め、労災保険に関しては出向先の賃金に含めて計算します。出向先の企業に出向者の労災対象額を伝える必要があります。
◆事業主控に受理印をもらっておく
労働保険概算確定保険料申告書には提出用と事業主控え用があります。建設業者などは下請けで仕事を受注する際などに、元請け業者から労働保険料の申告・納付が行われているかを確認するために受理印が押された労働保険概算確定保険料申告書の事業主控えの提示を求められることがあります。
郵送で申告書を提出した場合は、切手を貼った返信用封筒を同封し、受理印を押した事業主控を返送して手元に置いておきましょう。電子申請で提出する場合は、公文書に受理印が押されています。
◆労働保険料の還付がある場合は
労働保険料の還付がある場合、労働保険料概算確定保険料申告書には還付額を記入する欄があります。しかし、申告書に記入しただけでは還付金は戻ってきません。還付の請求をする場合は、労働局から「労働保険料一般拠出金還付請求書」を取り寄せて提出する必要があります。
労働保険料概算確定保険料申告書に計算違いなどの誤りがあった場合は、修正申告が必要です。集計は慎重に正しく行い、期限内に労働保険料概算確定保険料申告書の提出と納付を済ませましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年9月時点のものです。
<取材先>
社会保険労務士法人名南経営 社会保険労務士 三好奈緒
大学卒業後、大手自動車関連会社の総務人事部在職中に社労士資格を取得し、名南経営に入社。日常的業務は主に中小企業を中心とした顧客の各種人事労務相談に対応している。新卒から現在に至るまで一貫して給与・社会保険に携わっていることが強み。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト