「パタハラ」のない職場へ 育児・介護休業法改正で企業が取り組むべきことは

育児をする男性のイメージ


厚生労働省の調査によれば、女性は育児休業の取得率が80%を超えているのに対し、男性は12.65%にとどまっています。近年では男性の育児休業をためらわせるような言動「パタハラ」も問題になっています。2022年4月から段階的に施行されている改正育児・介護休業法では「産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)」が創設され、企業には男性も育児休業を取りやすい雇用環境の整備を求められています。法改正に伴って企業が取り組むべきことについて社会保険労務士法人出口事務所代表の出口裕美さんに伺いました。

 
 

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男性の育休取得への無理解が「パタハラ」を生む


――男性が育児休業を取りづらい原因の一つに、職場での「パタハラ」があると言われています。
 
妊娠や出産を機に退職することなく、産前・産後休業や育児休業を取得して仕事を続ける女性が増えるにつれて「マタハラ(マタニティハラスメント)」が社会問題になりました。「出産や育児のために休まれるのは迷惑だ」と伝えたり、不当な配置転換などを行って、育休を取らせづらくするようなハラスメントです。
 
現在では、出産後に仕事を続ける女性は珍しくなくなりました。共働きの夫婦の増加は、育児や家事を女性と同じように担う男性が増えたということでもあります。育児休業の取得を望む男性に対するハラスメント「パタハラ(パタニティハラスメント)」も生じている現状があるのでしょう。
 
マタハラと同じく、育休取得を理由に不利益な扱いをすることはもちろん、「奥さんは何をしているの?」「男なのに休むの?」と悪気なく聞いてしまうことも、育休の取得をためらわせる「パタハラ」だと言えるでしょう。
 
――周囲の無理解が、男性の育休の取得や育児参加を妨げているとも言えそうですね。
 
そうですね。2022年4月から施行されている改正育児・介護休業法は、男女ともに希望に応じて仕事と育児を両立できるよう、育児休業を取得しやすい雇用環境を整えるよう企業に求めています。企業にとっては、パタハラを起こさない職場づくりのきっかけになるのではないでしょうか。

 
 

育児休業を取得しやすい雇用環境を


――育児・介護休業法はどのように改正されたのでしょうか。
 
まずは「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」が義務づけられました。具体的には下記の4つの施策のうちのいずれかを実施すること(複数が望ましい)とされています。

 

  • 従業員向けに育児休業に関する研修を実施する
  • 育児休業に関する相談窓口を社内に設け、それを従業員に周知する
  • 自社の育休取得事例を収集し、事例を掲載した書類を配布したりイントラネットに掲載して従業員が見られるようにする
  • 育児休業に関する制度と、取得促進についての企業の方針を記載したポスター等を啓示する


また、従業員から妊娠・出産の申し出があった場合には、個別に育休の制度を周知し、育休取得の意向があるかを確認しなければなりません。特に下記の4つは必ず社員に伝えるべきと定められています。
 
(1)育児休業および新たに創設された「産後パパ育休」制度の内容
(2)社内の育児休業・産後パパ育休の申し出先
(3)育児休業給付に関すること
(4)育児休業・産後パパ育休期間に従業員が負担すべき社会保険料について
 
たとえば、第一子の出産では、従業員本人もいつ、どれくらい育児休業を取得すればいいのか分からないものです。先に育児休業を取得した社員がいれば、取得時期や期間についての事例を示したり、アドバイスをもらう機会を設けたりすることをお勧めします。
 
また、有期雇用の従業員が育休取得をする要件が緩和されました。以前は有期雇用の場合は「(1)引き続き雇用された期間が1年以上 (2)子が1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない」という2つの条件を満たすことが必要でした。今回の改正では(1)の要件がなくなりました。就業規則に(1)が記載されている場合には、削除する必要があります。

 
 

「産後パパ育休(出生時育児休業)」とは?


――新たに創設された「産後パパ育休」とは、どんな制度ですか?
 
「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、従来の育児休業とは別に、子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能な育児休業です。さらにこの4週間を2回まで分割して取得することが可能です。子どもが産まれてすぐの時期に2週間の「産後パパ育休」を取得し、4週間は職場に戻った後、再び2週間の「産後パパ育休」を取得する、ということも可能になります。
 
さらに、産後パパ育休では、労使協定を締結していれば休業期間中の就業も可能とされています。産後パパ育休中だけれど特定の曜日だけ働く、半日勤務といった働き方もできます。
 
また、子どもが原則として1歳になるまで取得できる育児休業も、2回まで分割して取れるようになりました。これにより共働きの夫婦が育休期間を交代して取る回数を増やすことも可能です。

 
 

妊娠・出産を祝福し、支え合える企業に


――柔軟に育児休業を取得できるようになる一方、職場には人員配置に工夫が求められそうです。
 
これまでの育児休業では女性が1年ほど続けて取得するパターンが多く、該当部署で1年間だけ有期雇用の従業員を採用したり、派遣社員でカバーしたりしてきました。しかし今後は、2週間ずつ2度休む、何週間かおきに育児休業を取得、となると従来通りの方法だけで休業する社員が担っていた業務をカバーすることは難しいでしょう。
 
ただし、出産予定日が分かってから育児休業を取得するまでには数カ月間あります。法律上、産後パパ育休の場合は休業の2週間前までに申し出ればよいとされていますが、企業は従業員や従業員の家族の妊娠・出産が分かったら、できるだけ速やかに報告してもらい社内の体制を整えておく方が望ましいでしょう。
 
たとえば、各企業で「妊娠報告書」のような書類を用意してはどうでしょうか。育休取得希望の有無に加えて、出生時育児休業の取得希望の有無、どの病院で出産予定かなども聞きます。早めに情報共有をすれば、本人と職場で育休前の引き継ぎや育休中の連絡の取り方なども話し合っておくことができます。
 
また、妊娠・出産はプライベートなことでもあり、多くの人に知らせたくないと考える従業員もいるでしょう。情報の公表時期や社内の誰までならば共有しても大丈夫かということも本人と確認しておきましょう。
 
――育児休業をめぐるコミュニケーションを通して、仕事の進め方や従業員の働き方について考える機会にもなりそうですね。
 
育児休業を取得する従業員が増えれば人員不足に悩み、それぞれの事情に合わせる大変さを感じる企業も少なくないと思われます。しかし育休に限らず、病気やけがで急に社員が休まなければならない事態は常に発生する可能性があります。社員同士で困ったときに協力し合える体制を構築し、性別を問わず誰でも育休が取れるようにすることは、企業にとってリスクヘッジとなります。
 
また、2023年4月からは従業員1,000人超の企業に対し育児休業等の取得率の公表が義務づけられます。中小企業においても、育休取得率の低い企業は求職者から「困ったときに休ませてくれない会社」という印象を持たれかねません。従業員が育児にも仕事にも打ち込めるよう、パタハラを起こすことなく、心から「おめでとう」と周囲が祝ってあげられるような体制を整えていくことが企業には求められているのではないでしょうか。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2022年5月時点のものです。
 
<取材先>
社会保険労務士法人出口事務所 代表 出口裕美さん
企業のパートナーとして、人事労務のあらゆる業務をサポートしている。全国社会保険労務士会連合会の代議員や東京都社会保険労務士会の常任理事も務める。
 
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト

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