引抜行為は懲戒解雇の対象になる? 引抜行為の違法性について解説

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ある従業員が競合他社へ移籍する際に、同僚や部下を引き連れていくことがあります。企業はこうした引抜行為に対し、ペナルティを課すことができるのでしょうか。
 
引抜行為の違法性や企業にできる引抜行為防止の対応策について、森・濱田松本法律事務所シニア・アソシエイト弁護士の蔦大輔さんに伺いました。

 
 

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引抜行為とは


「引抜行為」とは一般的に、ある組織に所属している者が、他社への転職、または独立した事業者として活動を開始するにあたって、所属している組織の従業員を勧誘して、一緒に転職したり独立したりすることをいいます。
 
また、退職した後に元同僚を転職先企業や自身の事業に勧誘する行為や、競合他社の優秀な人材を勧誘するヘッドハンティングなども引抜行為にあたります。ただし、引抜行為に対する法律上の定義があるわけではありません。

 
 

引抜行為の違法性


引抜行為の違法性を考える場合、次の2つの観点を考慮する必要があります。
 
1.時系列の観点……引抜行為を行ったのが在職中なのか退職後なのか
在職中の労働者は労働契約に付随する義務として、使用者に対し「信義に従い誠実に、権利を行使し、義務を履行しなければならない」という「誠実義務」を負います(労働契約法3条4項)。つまり、労働者は企業に対して不当に損害を与えないようにする義務があり、引抜行為はこの義務に違反する可能性があります。
 
2.役職の観点……引抜行為を行った者が取締役なのか
企業の取締役は会社のために忠実に職務を行う「忠実義務」(会社法355条)、「競業避止義務」(会社法356条)、「善管注意義務」(会社法330条、民法644条)を負っています。引抜行為はこれらの義務に違反する可能性があります。
 
しかし、引抜行為がただちにこれらの義務に違反し、違法となるわけではありません。引き抜かれる従業員にも、退職の自由および職業選択の自由(憲法22条)があるからです。企業は引き抜かれる側の従業員の権利を保障しなければならず、引抜行為が違法かどうかは、従業員の職業選択の自由と企業の利益を天秤にかけて検討する必要があります。
 
また、退職後の従業員や退任後の取締役には、上記の法的義務は適用されません。これらの引抜行為を制限するには、別途の合意が必要です。

 
 

引抜行為を行った従業員や元従業員に対する罰則は可能?


引抜行為を行った従業員や元従業員に対してペナルティを与える場合、就業規則など社内規程にそれらが定められているかどうかが重要になります。違法な引抜行為が懲戒事由にあたることや、違法な引抜行為を理由とした退職金の返還に関する条項をあらかじめ定めておく必要があります。
 
ただし、それらの条項が合理的なものであることが前提です。裁判に発展し、条項に合理性がないと判断されれば、社内規程の該当箇所が無効とされる可能性もあります。
 
前述したように、引き抜かれる従業員には退職の自由および職業選択の自由が保障されています。単なる転職の勧誘を超えた「社会的相当性を欠く引抜行為」と解されるかどうかは、主に以下の要素を考慮して判断されます。

 

  1. 転職する従業員が企業で占める地位
  2. 企業内部における待遇
  3. 引き抜いた人数
  4. 従業員の転職が企業に及ぼす影響
  5. 転職の勧誘に用いた方法(退職時期の予告の有無、秘密性、計画性など)


たとえば、取締役兼営業本部長だった者が、計画的に慰安旅行と称して部下を集めて転職を促し、事前の予告をすることなく内密に20名以上の部下を連れて競合他社に転職したというケースでは、引抜行為が違法であるという判断がなされています(東京地判平成3年2月25日判決労判588-74)。
 
直近では、2022年2月に大手監査法人の元業務執行役員が別の監査法人に移籍し、部下の勤務条件について交渉するなど積極的な働きかけがあったとして、社会的相当性を逸脱した背信的な引抜行為があったと判断された例もありました。

 
 

企業ができる引抜行為防止の対策


企業にとって人材を引き抜かれることは損失です。引き抜かれた元従業員の担当していた顧客が奪われる可能性もあるので、それを阻止する必要もあります。
 
引抜行為を防止するには、就業規則やその他社内規程に、引抜行為の禁止について明確に定めるとともに、違反した場合は懲戒事由になることを明示的に定めておく方法などが考えられます。
 
また、退職金に関する規程を整備しておくことも考えられます。懲戒事由が発生した場合や違法な引抜行為があった場合に、退職金を減額することができる旨の規程や、一旦支払った退職金の返還請求を行うことができる旨を記載することも一つの対策です。
 
特に退職する従業員に対しては、規程で定めておくだけではなく、引抜行為の禁止等について、個別に誓約書を提出させることで抑止力になると考えられます。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2022年2月時点のものです。
 
<取材先>
森・濱田松本法律事務所 シニア・アソシエイト弁護士 蔦大輔さん
 
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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