コロナの影響により、状況が変わった業界も
新型コロナウイルスの影響により、2020年は従来と異なる動きを見せる業界も少なくありません。
たとえば教育サービス業は、オンライン授業の実施や家庭学習の補完として需要が高まり、人手不足が起こるようになりました。また、電気通信業でもリモートワークの増加などによって同様の事態が起こっています。このように、需要の急増は人手不足の一つのパターンです。
一方、企業活動が制約される中で、人手不足が緩和したケースも多く見受けられました。たとえば出版・印刷業界では、イベントの中止や延期によりポスター制作などの需要が減少したことから人手が余っている傾向にあります。
ただし、感染拡大直後から少しずつ持ち直している現在、再び人手不足を感じる企業が緩やかに増えています。
人手不足に悩まされやすい業界
一般的に、人手不足が起こりやすい業界は「離職率が高い」「需要に対して働き手が少ない」「給与水準が低い傾向にある」といった特徴があります。
たとえば、以下のような業界が挙げられます。
◆介護業
令和元年度「介護労働実態調査」によると、約6割の従業員が介護業界の人手不足を実感しています。介護業界の人材が不足する大きな要因として、少子高齢化の問題が挙げられます。介護を必要とする高齢者が増加する一方、介護を行う若者の数は減少しています。まさに需要増による人手不足の典型です。今や、介護職の人手不足は社会的な問題になっているといえるでしょう。
国としても、人手不足の解消に向けて対策を講じています。たとえば、厚生労働省は、求職者が公共職業訓練を受けて介護職に就く場合、1人につき上限20万円を貸し付ける制度を設ける方針を固めています。一定期間働けば返済が免除されるため、介護職の人材を増やすための一助となるかもしれません。
◆飲食・サービス業
飲食・サービス業は、業界全体の需要に比べて給与所得の水準が低い傾向にあります。さらに、休日や深夜帯に勤務せざるをえない形態であり、労働環境が悪くなりやすい点も人手不足に陥る原因のひとつです。特に生活スタイルや余暇の充実を重視する若者の価値観の変化が向かい風となっています。
そこで、近年では業界全体として賃金をアップさせる動きや、フレキシブルな働き方を制度化するような事例が多くが見られていました。
しかし、コロナの影響を大きく受け、休業や営業時間の短縮などの制約を余儀なくされました。飲食業の倒産(負債1,000万円以上)は2020年の1~10月の累計で730件(前年同期比9.2%増)に達しています。
当面、給与水準を改善するのは極めて難しい状況にあるといえるかもしれません。
◆建設業
建設業界で人手不足が起こる原因として、震災復興や世界的なイベントの開催などの建設需要が一時的に高まっている一方で、新卒採用の減少や離職率の上昇によって若い年代の労働者が減っていることが挙げられます。さらに、建設業界で働く人の高齢化が見られており、若年層の働き手が少ないことから、高齢の労働者がある時点で一斉にリタイアした後にはさらなる本格的な人手不足が起こるのではないかと懸念されています。
◆専門・技術職
また、業界だけでなく、職種においても状況は異なります。一般的な事務系の仕事ではそれほど人手不足感は高くないものの、市場において希少な専門的な仕事では人手不足感が強くなっています。特殊なスキルを要する場合は採用競合が多く、新たな人材の雇用が難しい側面もあるでしょう。そのため、採用だけで人材獲得を考えるのではなく、スキルをもった人材を社内で中長期的に育成し、人材不足の緩和に向けた取り組みを行うことが重要です。
人手不足を解消するには、改善すべきポイントを見極めること
社会情勢によっても、各企業を取り巻く環境は変わっていきます。状況に応じて適切な対策を講じる必要があるでしょう。
人手不足を解消するには、労働環境や待遇の改善をはじめ、企業のブランディング、社内の業務を見直すことなどの策が挙げられます。自社の場合、どのような点を改善できるのか見極めることが重要です。業界の動向をふまえながら、適切な取り組みを考えていきましょう。
参考:
介護労働安定センター『令和元年度「介護労働実態調査」の結果』
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2020r02_chousa_kekka_0818.pdf
東京商工リサーチ『2020年1-10月「飲食業の倒産動向」調査』
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20201111_01.html
監修:人材研究所 代表取締役社長 曽和 利光さん
TEXT: 成瀬瑛理子
EDITING:Indeed Japan + ノオト