従業員に費用を負担させるのは違法?
コンビニエンスストアやレストランなど、業務に際して従業員に制服の着用を義務付けている業種は少なくありません。こうした備品を自腹で購入させる場合、雇用側はあらかじめ労働条件の1つとして、制服の購入を明示する必要があります。
これは労働基準法の第15条第1項、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」との規定に基づいています。そして明示すべき内容については、労働基準法施行規則の第5条第1項において、「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項」と明記されています。
つまり、事前にその旨を明確に伝えているのであれば、備品を自腹で購入させることは違法にはあたりません。
費用を給与天引きする際の注意点
こうした費用を給与から天引きする際には、とくに注意が必要です。なぜなら、労働基準法第24条では企業に対し、「賃金支払いの5原則」が定められているためです。
これは「通貨払いの原則」「直接払いの原則」「全額払いの原則」「毎月1回以上払いの原則」「一定期日払いの原則」の5項目によって、雇用側に対して賃金支払いのルールを設定するものです。このうち「全額払いの原則」では、使用者や労働者に対して賃金の全額を支払わなければならない原則が明示されています。源泉所得税や社会保険料など法令で定められているもの、あるいは労使協定によってあらかじめ取り決められているもの以外の給与天引きを認めていません。そのため、備品の購入を労働者が同意していたとしても、給与から天引きすることが労使協定によって取り決められていなければ違法となります。
そのほかにも、たとえば親睦会などの会費や、会社が従業員に貸し付けた金額の返済、給与を振り込む際の手数料などの天引きも、同様に「全額払いの原則」に反します。
雇用側が気をつけるべきこと
不要なトラブルを避けるためには、従業員に費用負担が発生する場合、労働契約を結ぶ前に同意を得て、就業規則に明記しておくこと。そして、何らかの理由で給与からの天引きが発生するのであれば、あらかじめ労使協定を結んでおくこと。企業側はこの2点を徹底しなければなりません。
また、労働基準法第16条では、「使用者は、労働者の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定められています。つまり、営業職の従業員に対して企業側がノルマを課すことは違法にはあたりませんが、ノルマ未達成を理由にペナルティを課すことは禁じられています。そのため、たとえばクリスマスケーキの販売数が12月25日を過ぎても予定数に達しなかった場合に、残った在庫を従業員に自腹で購入させることは違法となります。
企業にとって従業員は、利益を獲得するための貴重な戦力。従業員に負担を強いることは、人材の定着率にも影響し、長い目で見れば決して得策とは言えません。それが不当なものであればなおさらでしょう。
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也さん
TEXT:友清哲
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