シフト強要とは
「シフト強要」とは一般的に、シフト制で働いている労働者に対し、本人が休みを希望しているにもかかわらず使用者(企業)がその意思に反して勤務を命じることをいいます。
「シフト強要イコール違法」と認識している人は少なくないかもしれませんが、違法性のあるなしに関係なく、「シフト強要」の言葉を使うことがあります。つまり、シフト強要は必ずしも違法というわけではありません。
シフト強要が違法になるケースとならないケース
シフト強要が違法であるか否かは、使用者と労働者との間で交わされた雇用契約の内容によります。
◆違法となるケース
雇用契約上の所定労働日を超えて、使用者が労働者に労働を強制すること
雇用契約の内容を超えたシフト強要は違法なため、労働者はシフトに入ることを拒否することができます。もし、拒否したことを理由に使用者が労働者を解雇すれば、労働契約法16条の「違法な解雇」に抵触し、解雇権の濫用であるとして無効となります。たとえ繁忙期でも無理な出勤は認められません。
◆違法とならないケース
たとえば、所定労働日を週5日として雇用契約を締結し、契約上、年末年始やお盆の期間を休日・休暇として設定していない場合に、週5日の雇用契約の範囲内で年末年始やお盆の期間に使用者がシフトを作成し、労働者に勤務を命じること。
使用者は雇用契約の範囲で労働者に勤務するよう求めることができ、労働者はそれに応じなければなりません。正当な理由なく労働者が企業の命令に応じなかった場合、労働者は業務命令違反に問われる可能性があります。
シフト強要とパワーハラスメントの関係
違法なシフト強要はパワーハラスメントに該当する可能性があります。パワーハラスメントとは、「優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、就業環境を害すること」(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)をいいます。
代表的なパワーハラスメントの行為類型に、業務上、明らかに不当なことを要求する「過大な要求」があります。たとえば、「休みたければ代わりの人を自分の責任で探すように」といった、本来労働者が従う義務のない指示は正当とは認められません。人手の確保は使用者の義務です。
パワーハラスメントは「不法行為」(民法709条)に該当するケースが多く、訴えが認められた場合、企業は民事上、損害賠償責任を負うことになります。シフト強要に従わない場合は危害を加えるなどの告知をする極端なケースでは、「脅迫罪」(刑法222条)や「強要罪」(刑法223条)が成立する可能性もあります。
シフト強要によるトラブルを避けるための注意点
繰り返すように、シフト強要が違法であるか否かは雇用契約の内容によります。特にアルバイトやパートなど短時間労働者との契約では、週の所定労働日数や勤務する曜日等を契約書上、明確に決めていないケースも少なくありません。
労働条件通知書の交付は使用者の義務であり(労基法15条)、労働条件を明確に決めていない場合のリスクは使用者が負うことになります。まずは、労働者との契約内容を明確にしたうえで、その内容を考慮して人手を確保するようにしましょう。
所定労働日数の定めの有無にかかわらず、労働者との合意に基づき、繁忙期などに一時的にシフトの日数を普段より増やすことは可能です。
ただし、先に述べたとおり、所定労働日数を超えて強制的にシフトに入れることはできません。また雇用契約の範囲内であったとしても、労働者が不公平感を抱く結果になるとモチベーションや労務管理において悪影響が生じます。
お盆や年末年始など一般的に休みを希望する人が多い時期に人手を確保するには、時給を上げるなど労働者にインセンティブを持たせるための工夫が必要です。
※記事内で取り上げた法令は2022年2月時点のものです。
<取材先>
森・濱田松本法律事務所 シニア・アソシエイト弁護士 秋月良子さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト