代理店契約とは
メーカーが商品を消費者に販売する方法には、様々な形態があり得ますが、その中の1つが代理店販売の方法です。そのほか、メーカーが直接販売をしたり、代理店という名称の取引先を特に定めずに卸売業者、小売業者を通じて一般消費者に販売したりする方法(一般的な卸取引)などもあります。
- 直接販売……メーカーが自社店舗やサイトなどから消費者に直接販売する
- 代理店販売……代理店を通じて商品を販売する
代理店販売において、メーカーが代理店に対し、自社商品の販売を許諾または委託する内容の契約を「代理店契約」といいます。
代理店契約に法的な定義はありませんが、特定メーカーの商品のブランド力を活用して販売を行う場合に用いられるケースが多いでしょう。
ディストリビューター方式とエージェント方式
代理店契約には下記の2種があります。
◆ディストリビューター方式
販売代理店がメーカーから商品を買い取り、自由に価格を設定して顧客に販売する方式です。販売代理店の利益は、購入時と売却時の商品価格の差によって生まれます。
たとえば100円で仕入れた商品を200円で販売した場合、売上は200円で、利益は100円です。一般的な卸売取引と同様で、取引によって生じる損益は、販売代理店に帰属します。「販売店契約」と呼ばれることもあります。
◆エージェント方式
消費者に商品を売るのはメーカーであり、販売代理店はあくまでメーカーの窓口として商品の販売に関わる方式です。商品の販売価格はメーカーが設定します。販売代理店は仕入れは行わないため、売れ残った在庫などはメーカーが引き取ります。
販売代理店は、商品の売約数などに応じて、メーカーから手数料の支払いを受けるのが一般的です。たとえば手数料が売上高の10%だった場合は、100円の商品を売れば10円が代理店の売上になります。業界や企業によっては「代理店契約」という名称は、エージェント方式のみを指す場合があります。
独占代理店契約とは?
代理店契約のなかには「独占代理店契約」もあります。
独占代理店契約は、その代理店に特定の商品の取扱いを独占させる契約です。一般的に、エリアや期間を設定して契約を取り交わします。
◆代理店側のメリット
他の業者が代理店として同じ商品を販売することで、代理店間で売り上げが分散するのを避けられます。
◆メーカー側のメリット・デメリット
メーカーにとっては、独占代理店契約が販売店の意欲向上につながることがメリットといえます。一方、代理店の販売能力やモチベーションが低い場合には、商品が売れず在庫を抱えるリスクもあります。メーカーは、独占代理店契約を結ぶか否かを代理店の状況などから慎重に判断する必要があります。
代理店契約と再販売価格の拘束の関係
販売価格の設定を誰ができるかによって、独占禁止法で違反行為とされている「再販売価格の拘束」との関係が変わります。
◆ディストリビューター方式
販売価格の設定は、一度商品を買い取っている販売代理店が自由に行えます。メーカーが代理店に対して希望の販売価格を提示することは問題ありません。
しかし、メーカーが価格を指示したり、希望通りの販売で売らないと取引を停止したりするなどの行為は「再販売価格の拘束の禁止」にあたり、違法です(独占禁止法2条9項4号)。
◆エージェント方式
メーカーが販売価格を設定できます。そのため、再販売価格の拘束にはあたりません。
代理店契約を結ぶ際の注意点
◆契約の方式を理解する
先述したように代理店契約には明確な法律の定義がなく、「販売代理店」という言葉だけではディストリビューター方式とエージェント方式のどちらなのかがわかりません。そのため、それぞれの方式を混同して代理店契約を結んでしまい、在庫の取り扱いや再販売価格の拘束などをめぐってトラブルになる可能性があります。「系列店」「特約店」などの名称も同様です。まずは契約の種類や内容を理解した上、名称の意味などを契約書に盛り込むなどして、誤解のないように契約を結びましょう。取引の流れや物流、金銭の流れを明確にすることが大切です。
◆競合品の取り扱いについての取り決め
販売代理店は「並行して競合他社の商品を販売したい」と考えるケースがあります。一方、メーカーにとっては、競合他社商品の販売を認めると自社商品の売上減少につながる可能性があるため、「競合商品を販売することを禁止したい」と考えるケースがあります。特に、販売競争が生じやすい同一地域においてはこの傾向が顕著になります。メーカーがこのような「競合品の取扱い禁止」をすることは、場合によっては「排他条件付き取引」にあたり違法になる場合もあります(独占禁止法2条9項6号ニ、一般指定11項)。契約の前に競合商品の取り扱いについて決め、独占禁止法に抵触しないかを確認し、契約書に記載しておくことが重要です。
◆賠償責任についての取り決め
消費者や顧客からの商品に関するクレームや法的責任について、どちらがどの範囲で対応し、最終的にどのように責任を分担するのかを事前に決めておくことが不可欠です。商品に関しての製造物責任は製造者であるメーカーが責任を負い、エージェント方式の場合はメーカーが売主となり売買契約上の責任もメーカーが負うため、販売代理店には法的な責任は生じない場合がほとんどです。
他方で、ディストリビューター方式では、販売代理店が商品を仕入れて販売するため、販売代理店の直接の販売先との関係では売主としての責任を負うことになります。顧客対応の窓口や費用の分担については詳細に契約内容に定めておきましょう。
◆直接販売に関する取り決め
メーカーは代理店を起用した後に直接販売を行いたいと考える場合もありえますが、販売代理店としては自己の売上の減少につながりかねないとしてメーカーに直接販売をしてほしくないと考えるケースが予想されます。メーカーが直接販売をすることを可能とするかどうかという点は、契約交渉の重要なポイントとして認識しておきましょう。
◆最低購入数量の取り決め
最低購入数量とは、ディストリビューター方式において販売代理店が、メーカーから最低限仕入れる商品の数量を指します。
ディストリビューター方式の代理店契約では、メーカーが販売代理店に対して最低購入数量を課し、それが達成できない場合に不利益な取扱いとなる条件を定めるケースがあります。最低購入数量に売上が満たない場合、販売代理店にとってはノルマとして重荷になり得るため、あらかじめ双方が納得するかたちで契約交渉を行う必要があります。また、売れ残った商品について、メーカーへの返品が可能か否かも事前に決めておく必要があります。
代理店契約においては、まずは名称や用語の意味を双方で明確に定義することが重要です。そのためには、事前に綿密な交渉を行い、行き違いやトラブルがないように契約を進めましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年8月時点のものです。
<取材先>
弁護士法人北浜法律事務所 弁護士 籔内俊輔さん
公正取引委員会事務総局審査局での勤務経験を持つ。2011年に幹事の一人として立ち上げた「実務競争法研究会」では、問題になりやすい国内外の独占禁止法(競争法)に関するトピックについて自由闊達な議論を行っている。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




