職場で管理監督者がラインケアを実践するために必要なこと

管理監督者がラインケアをしているイメージ

職場のメンタルヘルス対策の一つの手法である「ラインによるケア(以下、ラインケア)」。管理監督者が部下の異変に気付くことで相談対応を行い、職場環境の改善などに取り組むものです。メンタルヘルスについて専門知識のない管理監督者が適切に対応できるのか、ラインケアの実践にはどのようなことが必要かといった疑問について、複数の企業で保健師として活動する藤吉奈央子さんにお答えいただきました。

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「自分が異変に気付く」という管理監督者の意識が大切

――そもそも、メンタルヘルスの専門家ではない管理監督者が部下のケアをすることは可能なのでしょうか?
 
実は、ラインケアを行う管理監督者に必要なのは専門知識よりも「自分がケアするのだ」という意識かと思います。というのも、ラインケアは部下の変化に気付いて、産業医や主治医など専門性を持った人につなぐことがその役割なので、不調そのものに対する知識が必要というわけではありません。何かおかしいと気付けるかどうかが一番大切なのです。
 
そのためには部下の普段の様子を知っておかなければなりませんし、ただ見ているだけでなく日頃からコミュニケーションを取ることも必要です。部下の様子をさりげなく観察し、様子がおかしいと思ったら、部下が相談しやすいような雰囲気をつくってください。
 
そもそも管理監督者は従業員の安全配慮義務があるので健康管理も大切な任務です。そのことを再認識してもらうことも大切です。逆に、部下の能率が落ちている、残業が増えたなど労務管理のポイントから不調を早期発見することは、医療職ではできない管理監督者ならではの強みだと言えます。
 
――ラインケアを実践するにあたり、研修の実施などの取り組みは必要でしょうか?
 
管理監督者は、ラインケアの意義や効果を知っておく必要があるので、eラーニングなどを活用して学ぶことをおすすめします。私のような産業保健師が企業の安全衛生委員会に参加して、ラインケアの意義や効果などを監督管理者の皆さんにお伝えする方法もあります。
 
ラインケアが明記された「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が施行されたのは2006年のことで、施行当初は比較的取り組みが活発だったように感じていますが、近年はラインケアをはじめ、4つのケアがあるということが浸透していない企業も多いので、もっと啓発が必要だと感じています。
 
――管理監督者が担う、具体的な取り組みの流れを教えてください。
 
まずは、部下の不調を発見したら話を聞きましょう。その上で企業内外の医療関係者に相談しながら、本人の労働時間や業務内容を軽減・精査し、職場環境全体の改善にも取り組むといった流れです。状況に応じて、当事者が仕事を休む場合もあるので、その場合は外部の相談窓口を活用して復職のケアにも取り組んでいくことになります。前述の通り、管理監督者はメンタルヘルスの専門家ではないので、自分のできる範囲をふまえて企業内外の専門家にうまく頼ることが大切です。

 

心配していることを伝え、相談の聞き役に徹する

――これらのケアを実践する上で注意すべきポイントを教えてください。
 
まず早期発見につなげるために大事なのは、上司が部下に「不調が改善する方向にサポートをしたい」という意思を伝えることです。部下が上司に相談するとなると、自分の査定に影響があるのでは、仕事を任せてもらえなくなるのではなどと身構えてしまうでしょう。相談を聞くときには「私はあなたのことが心配で、サポートしたいと思っている」ということを全面に伝えるようにしましょう。相談によって知り得た健康情報などの個人情報は、正当な理由なく第三者に漏らしてはいけません。
 
また、相談を受ける際は、相手の話を聞かずについ自分がしゃべってしまうことがないよう「相談時間の8割は聞き役に徹する」ことを心掛けてください。せっかく話そうとしているのに聞いてもらえないと、相談者は心のシャッターを下ろしてしまいます。世代間のギャップや考え方の違いもあるので、つい「自分たちのときは、もっと厳しかった」などと言ってしまいがちですが、全部納得して聞かなくてもよいので、とにかく話を聞く「傾聴」の姿勢を徹底しましょう。
 
――相談を受ける側の管理職のケアはどうなりますか。また、上司と部下の関係があまり良くない場合はどうすれば良いでしょうか?
 
確かに、管理職の人たちから「自分たちのケアは誰がしてくれるの?」という疑問もよく聞きます。ラインによるケアがないので、セルフケアや事業場内外の専門性を持った人たちによるケアを頼ることになります。
 
また、管理監督者と部下の関係が必ずしも良好とは限らないので、チームや部署間の横の連携を活用し、別のチームや部署の管理監督者に相談できるようにしておくことも効果的です。管理監督者もお互いにサポートし合えるため、負担が軽減されて良い効果が期待できます。

 

早期発見が、本人にも会社にもメリットをもたらす

――ラインケアを実践する管理監督者や、経営層へのメッセージをお願いします。
 
ラインケアを機能させるためには、経営層の協力も重要です。経営層が管理監督者に対し「あなたたちが重要なんだ」と声をかけて意識させることで、管理監督者に自覚が生まれラインケアを機能させていく――そういった好循環が生まれてほしいです。
 
ラインケアは、本人の健康のためにも会社のためにも有益なことです。しかし、ラインケアが機能して早期発見につながったとしても、当事者が自分の状態の深刻さに気付かず、指摘されたことを迷惑だと捉えるケースも少なくありません。対処しても当事者から感謝されないのは辛いことですが、長期的に見ると、放置すればもっと大変になるケースも考えられます。時間が経ってから感謝されることも多いので、ラインによるケアに取り組む管理監督者の皆さんは、信念を持って本人のためだと思う行動を実践してください。

 

 

<取材先>
Harmony~Life&Work~ 代表 藤吉奈央子さん
 
関西を中心に複数の企業で保健師として活動。産業看護職の育成に関わる傍ら、人事労務担当者・経営層向けの研修講師なども行う。また、大阪産業保健総合支援センターで相談員・両立支援促進員として大阪府内のがん拠点病院を中心に“治療と仕事の両立”に関する相談対応や医療職向けのセミナーなども実施している。
 
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト

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