1年単位の変形労働時間制を導入前に知っておくべきこと

ホテルで働く女性のイメージ

労働時間を1年単位で調整する「変形労働時間制」には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
 
1年単位の変形労働時間制が適している業種や導入時の注意点について、小林労務 大阪オフィス所長で社会保険労務士の小松容己さんに伺いました。

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変形労働時間制とは

原則として、労働時間は「1日8時間、1週間40時間」と労働基準法で定められています。これを超えた場合は時間外労働となり、企業は労働者に残業代を支払わなければなりません。
 
一方で、繁忙期と閑散期があるように、業務の多忙さに大きな差がある業種もあります。そこで、より柔軟な働き方を実現するために設計されたのが「変形労働時間制」です。
 
変形労働時間制とは、週・月・年単位で労働時間を柔軟に調整できる制度です。具体的には「1週間単位」「1か月単位」「1年単位」の変形労働時間制がそれぞれあります。ここでは「1年単位の変形労働時間制」について解説します。
 
1年単位の変形労働時間制とは、「1か月を超え1年以内の一定期間において、週労働時間が平均40時間を超えない範囲で労働時間配分を調整できる」制度です。

 

1年単位の変形労働時間制のメリット

変形労働時間制を導入することによって、企業には次のようなメリットとデメリットがあります。
 

◆企業側のメリット

  • 年間を通して繁忙期と閑散期とで、労働時間の調整が可能になる
  • 上記の場合、残業代や休日出勤手当を削減できる
  • 年間を通して労働時間や休日のシフトを組むことが可能になる

 

◆企業側のデメリット

  • 年間休日をあらかじめ作成する必要がある。休日の変更は原則不可。ただし、想定外の業務が発生し、どうしても休日の変更をしなければならない場合は変更も可能である
  • 前提として、就業規則に休日を振り替える規定の記載が必要となる
  • 毎年、労働基準監督署への勤務カレンダー等の提出義務がある

 

1年単位の変形労働時間制に向いている業種

1年単位の変形労働制に向いている業種は、季節によって業務量に大きな開きが出る業種や業界です。具体的には、次の業種において「1年単位の変形労働時間制」が採用される傾向にあります。
 

  • サービス業(プールやスキー場、旅館、飲食業)
  • 百貨店・デパート
  • 製造業

プール場は夏季に、スキー場は冬季にそれぞれ人が集中する繁忙期となりますが、それ以外の季節はほぼ閑散期となります。旅館はゴールデンウィークや夏・冬の長期休暇に、飲食業は年末年始や歓送迎会シーズンに混み合うため、その時期に人手が必要となるでしょう。
 
百貨店やデパートもお中元やお歳暮や催事、セールなど、年間を通じてどの時期が多忙になるかが業務の性質上、あらかじめ見通せます。製造業のようなものづくりの現場も同様です。

 

1年単位の変形労働時間制導入の流れ

企業が「1年単位の変形労働時間制」を導入する際には、具体的に次の5つの事項を労使協定で締結し、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。

 

1. 対象となる労働者の範囲

労働基準法上の定めはないが、対象となる労働者の範囲を明確に定める。特定の部署や職種のみを対象にすることも可能。

 

2. 対象期間、および起算日

対象となる期間は1か月を超え、1年以内に限る。また、何月何日をスタート(起算日)とするかを定める。

 

3. 特定期間

対象期間中の特に業務の繁忙な期間を「特定期間」として定めることができる。ただし、特定期間に連続して労働させる日数には限度がある。

 

4. 労働日および労働日ごとの労働時間

労働日および労働日ごとの労働時間は、対象期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えないようにする。

 

5. 労使協定の有効期間

1年単位の変形労働時間制を適切に運用するためには、対象期間と同じ1年程度とすることが望ましいとされる。

 

導入時に注意すべきポイント

変形労働時間制は対象となる期間が長ければ長いほど、労働者に長時間労働を強いる可能性が生じます。そのため、1か月単位の変形労働時間制と比べると、1年単位の変形労働時間制は要件が厳しいという特徴があることを前提として理解しておきましょう。
 
対象期間における1日、および1週間の労働時間の限度は次のように決まっています。

 

  • 1日の労働時間の限度は10時間である
  • 1週間の労働時間は52時間である

さらに、対象期間が3か月を超える場合は、次の点も気を付けなければなりません。
 

  • 労働時間が48時間を超える週は連続3週以下にすること
  • 対象期間を3か月ごとに区分した各期間において、労働時間が48時間を超える週は週の初日で数えて3回以下であること

変形労働時間制を導入するためには、労使協定の締結や就業規則の見直し、勤怠システムの選定が必要となります。諸条件を十分に吟味した上で、実態に合わせて導入するかどうかを検討しましょう。

 
<取材先>
社会保険労務士法人 小林労務 大阪オフィス パートナー社会保険労務士
小松容己さん
 
東京都出身。明治大学経営学部卒業。2016年に株式会社小林労務に入社し、20年に「社会保険労務士」登録。22年3月、大阪オフィスの所長に就任。社会保険や労働保険手続き、給与計算実務、就業規則の作成・精査をはじめ、雇い主と従業員間のトラブル対応やセミナー講師等、多数実績あり。
 
TEXT:阿部花恵
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


 
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