経営の悩みを社員と分かち合えれば、人が集まる会社になる [第8回]不確実な時代に「人を活かす経営」とは?

 

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第8回 経営の悩みを社員と分かち合えれば、人が集まる会社になる


いま、長引くコロナ禍の影響で、サービス業をはじめとする多くの企業が苦難を強いられています。政治や行政の取り組みが後手に回っているなかで、経営のかじ取りに苦戦し、経営者の悩みはつきません。
 
しかし、窮地に陥った時に、経営者が一人で悩みを抱え込み、自らを追い込んでしまうと、判断力を失い、周囲との冷静なコミュニケーションも取れなくなります。そうした経営者の様子に、現場の士気も低下し、焦るほどに負の悪循環に陥ることにもなりかねません。
 
そこで、悩める経営者は、危機を突破するために社員といかに向き合うべきか。FeelWorks 代表・前川孝雄さんが、自ら支援した企業事例を交え、考察します。

 
 

コロナ禍で政治の機能不全が中小企業を追いつめている


上場企業において、会社経営に取り組む経営者は資本家である株主と別人格であることが多く、株主から任期付きで雇われている立場です。しかし、中小企業経営者、ことにオーナー経営者は、常に一人で悩みを抱え込むリスクが高いものです。それは、自らが資本家でありかつ経営者で、会社経営の全ての責任とリスクを一手に背負っているからです。オーナー経営者は私財を投じている場合も多く、会社経営のかじ取りを自ら担い、常に全方位の対応と判断が求められるなかで、疲弊しがちなのです。
 
いま、その中小企業経営者の多くが、これまでにない苦境に立たされています。その実状は、コロナ禍2年目に入っての、中小企業の休廃業や倒産の増加傾向に顕れ始めているのです。
 
政府のコロナ対策は常に後手に回り、中途半端な形で緊急事態宣言やまん延防止措置を繰り返してきました。経営支援の各種助成金や給付金は、当初手続きの遅れこそあれ、暫くは有効でした。しかし、それらで補える期間をはるかに超えた営業自粛が続き、飲食、宿泊、観光などのサービス業は動きを止められた状態で1年以上が経ちました。もはや、我慢の限界を大きく超えているのです。
 
大企業なら、事業や人員の縮小を図りながら、これまでの蓄財で何とか耐え凌げるかもしれません。実際に、数年先のアフターコロナのビジネスモデルへの転換も見据え、中期経営計画を立て直し、準備に転じ始めています。一方で、体力に限りのある中小企業にその余裕がないこともあるでしょう。政治の機能不全によって、ぎりぎりの状態へと追いつめられているのです。

 
 

現場社員に悩みを打ち明け、声を聴くことで起死回生したサービス業経営者


経営者は切羽詰まった苦境に立つと、目の前の経営のやり繰りに精一杯で身動きがとれず、もがき苦しみます。しかし、経営者が悩みを一身に抱え込むほど、余計に視野は狭まり、解決策が見えず、袋小路から抜け出せないものです。では、状況打開のために、いかに対処すべきでしょうか。
 
ここで、私が営む会社がかつて支援した一つの企業事例から考えてみましょう。
 
その企業経営者は、あるフランチャイズのフィットネスクラブのオーナーでした。まだコロナ禍以前の話ですが、人口減少が進む地方都市で、経営が次第に苦しくなるなか、対応に苦慮していました。フランチャイズ本部からは、ルール遵守の運営と一定の売り上げが求められますが、クラブの利用は伸びず、業績は下降線です。このままでは社員の雇用すら守れないと、夜もゆっくり眠れません。夜な夜な厳しい業績を見つめ、一人で対策を考えては、翌日の朝礼で現場スタッフに指示を飛ばします。しかし、上意下達の申し渡しにスタッフの反応は鈍く、経営者が必死に発破をかけても空回りするばかりでした。
 
そこで私は、次のようにアドバイスをしました。現場スタッフに会社の経営状況や経営者の悩みを率直に打ち明けて、スタッフ一人ひとりの声に耳を傾け、その意見をクラブ運営や経営に取り入れてはどうかと。しかし経営者にとっては「経営の悩みを社員に打ち明けるなんて」と、驚いて困惑した様子でした。
 
現場スタッフは、経営のことや仕事の改善など考えてもいない。ましてや、経営者がスタッフに弱音を吐いては示しがつかず、余計に不安がるばかりだろうというのです。私は、そんなことはない、現場スタッフなりに気づいていることや、考えていることは必ずある。何かいいアイディアも出るはずだと話しました。経営者は半信半疑でしたが、すでに万策尽きていましたから、駄目元でやってみることにしたのです。

 
 

スタッフの提案が顧客満足を押し上げ、職場も活性化


その後、経営者は現場スタッフ一人ひとりと面談し、何度か対話を重ねました。すると、初めは経営者の変化に戸惑い、口が重かったスタッフたちから、次第に経営やクラブ運営への意見や、仕事の改善へのアイディアが出始めました。経営者は、スタッフたちが意外にも仕事や顧客のことをよく把握し、思案していたことに驚かされたといいます。
 
実は、経営者自身、本部に決められた運営ルールで固く縛られ、仕事の改善の余地などないと諦めていました。しかし、スタッフからは、顧客カルテの運用見直しや、利用者への声かけ活動など、小さなホスピタリティ面の工夫を含め、様々なアイディアが出されたのです。
 
経営者は、当初それらの効果に懐疑的でしたが、ここは思い切ってスタッフたちに任せ、提案を取り入れることにしました。
 
すると、次第に利用者からの評判も高まり、口コミで新たな利用者も増え始めました。スタッフも、自分たちのアイディアが採用され実行できることにやりがいを感じます。また、何よりも、利用者から日々受け取る感謝の言葉やアンケート評価にモチベーションが高まっていきました。現場が活気づき、スタッフの姿勢や表情が明るくなると、それが利用者に好印象を与えるという好循環も生まれました。こうして、取り組み開始から約半年後には、これまで右肩下がりだった業績が反転し、徐々にV字回復に向かい始めたのです。
 
私は、以上の報告を語ってくれた経営者の晴れやかな表情に安堵するとともに、この企業の将来に明るい希望を感じたのでした。

 
 

経営者とて万能ではない。弱みをさらけ出す勇気を持とう


この事例から読み取れるのは、経営者が難局にぶつかった時に、全てを一人で抱え込み悩むのではなく、現場の社員たちを信じて頼り、知恵と力を借りてチームで困難に立ち向かうことの大切さです。何といっても社員は現場で日々顧客と接し、顧客ニーズを直接受け止め、工夫や改善ができる第一線にいるのです。経営者がいくら頭で想像し考えても、社員たちの肌感覚には敵いません。
 
また、社員のモチベーションの面でも、上意下達の指示に従うだけの働き方では、やらされ感がまん延し、現場は無気力、無関心に陥ってしまいます。これに対し、自ら創意工夫や努力をした結果、顧客からの反応や手応えが返ってくることで、「人のために動く喜び」である働きがいを実感できます。上司や同僚との信頼関係や承認し合える関係のなかで働くことも、働きがいにつながるのです。
 
そのためには、経営者が自分の弱みをさらけ出す勇気を持つことです。もちろん、最終的な意思決定を下し経営全般に責任を持つことは、経営者の免れられない役割です。しかし、優れた経営者とて万能ではなく、弱みもあれば不得手もあります。経営者一人が頑張り通し、全てを抱え込むことで、かえって組織の可能性を封じ、限界を定め、社員の成長すらも押し留めてしまうのです。経営者も一人の人間として、社員の持つ力や優れた面に素直に頼り、日々の仕事や職場運営について共に考え、よりよい仕事を一緒に創り出していこうとする姿勢が大切なのです。そのことが、この事例のように顧客満足と業績向上、そして社員一人ひとりの働きがいと職場の活性化につながるのです。
 
こうして、企業としての魅力と評価が高まることは、社員の職場へのエンゲージメントと定着率を高めます。また、近年話題のリファラル採用(社員の友人・知人など紹介による採用)に見られる、口コミや紹介による新たな人材確保の道も開けるかもしれません。
 
経営者とスタッフが組織の目的やビジョンを共有することができ、働きがいを分かち合いながらチームで顧客や社会に貢献できる企業に、人は集まるのです。

 
 
 


株式会社FeelWorks代表取締役 前川 孝雄氏
Profile
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
 
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・バワハラ予防講座」「eラーニング・新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)等33冊。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)

 

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