親事業者の義務と禁止事項
――下請業者を守るために定められている下請法。大前提となる、親事業者の義務と禁止事項を教えてください。
親事業者の義務と禁止事項は以下のようになります。
◆ 義務
- 書面の交付義務
- 書類作成・保存義務
- 下請代金の支払期日を定める義務
- 遅延利息の支払い義務
◆ 禁止事項
- 受領拒否の禁止
- 下請代金の支払遅延の禁止
- 下請代金の減額の禁止
- 返品の禁止
- 買いたたきの禁止
- 購入・利用強制の禁止
- 報復措置の禁止
- 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
- 割引困難な手形の交付の禁止
- 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
- 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
必要事項を網羅した3条書面の作成
――親事業者に課せられる義務として、「書面の作成、交付義務」というものがありますが、これは具体的にはどのような内容ですか?
親事業者が果たすべき義務のなかでも、もっとも重要なのが発注書面の作成・交付です。これは、トラブルを未然に防ぐために必要なもので、親事業者は下請事業者に対して発注内容を明確にした書面を交付しなければなりません。書面には細かな取り決めがあり、以下の項目をすべて記載する必要があります。
- 親事業者及び下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
- 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
- 下請事業者の給付(※)の内容
- 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)
- 下請事業者の給付を受領する場所
- 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日
- 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが、算定方式による記載も可)
- 下請代金の支払期日
- 手形を交付する場合は、手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
- 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払い可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
- 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
- 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日及び決済方法
※給付…下請事業者が、親事業者から受注して製造・作成等した商品等を引き渡したり、役務を提供したりすること。
これらの項目は、下請法の第3条に定められている内容を網羅するため、これらを基に作成する書類は「3条書面」と呼ばれています。多くの項目がありますが、すべての内容さえ網羅すれば書類の様式は自由です。公正取引委員会や中小企業庁のホームページに必要な項目や書面のサンプルなども掲載されているので、そちらを参照の上で作成してください。
公正取引委員会・中小企業庁「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック ポイント解説 下請法」P20より書面の例
幅広い「買いたたき」の内容に注意
――一方で、親事業者の禁止事項の中に「買いたたき」の項目がありますが、これはどのような内容でしょうか。
買いたたきとは、「発注する物品や役務に対して、通常支払われる対価に比べて、著しく低い下請代金を不当に定めること」とされています。これは、禁止事項のなかでも幅の広い項目です。通常の対価よりも安い金額を設定する以外に、納品後に通常の価格を下回る金額で下請代金を決めることも該当する可能性があります。また、取引条件の中で納品期間を決めていたのに、それよりも短い期間で発注した場合も該当する恐れがあります。短い期間で仕上げることは工数が上がることになるので、料金が高くなるのは当然となり、買いたたきに該当します。
私が実際に相談を受けた中で、20年間も同じ金額で親事業者から仕事を受注していたという下請事業者もありました。20年の間に物価は大きく上昇しているので、下請事業者の大きな不利益につながることであり、買いたたきに該当する事例の一つです。
――下請法違反に該当する具体的な事例は、他にどのようなものがありますか?
トラックで物品の輸送業務を発注していた親事業者が、下請事業者に高速道路料金を支払っていない事例があります。親事業者は、「プロだから高速道路を使わなくても時間通りに到着できるはずだ」という考えだったようです。しかし、時間通りに到着するには高速道路を使わざるを得ない場面は多く、下請事業者が大幅なコストを負担していました。これは明らかに下請法違反となります。
また、保険を取り扱っている親事業者が、下請事業者に対して保険の加入を強要した事例もありました。さらに、下請事業者がそれを断ったため、その報復として取引を停止された事例もありました。保険加入の強要は違反ですし、それを断ったからと報復措置を取ることも違反です。
――親事業者が下請法に違反した場合の当局の対応や罰則は、どのようなものになりますか?
公正取引委員会や中小企業庁は、下請取引が公正に行われているかを把握するため、親事業者、下請事業者に対して書面調査や立ち入り調査を行っています。こうした調査や下請事業者からの報告によって違反を発見した場合、まずは適正な状況の回復を求めるとともに、再発防止措置を執り行うよう勧告が行われます。この勧告が行われた場合には、原則として事業者名や内容が公表されます。
さらに親事業者が発注する書面を交付する義務、取引記録に関する書類の作成・保存義務を守らなかった場合には、違反行為をした本人のほか、会社も50万円以下の罰金に処せられます。ほかにも、虚偽の報告を行ったり、公正取引委員会などの立ち入り検査を拒んだり、妨害した場合も同様に50万円以下の罰金に処せられます。
親事業者は下請事業者を尊重し、下請事業者は知識を身につける
――親事業者、下請事業者が相手事業者と良好な関係を保つために抑えておくべきポイントを教えてください。
親事業者には、「下請事業者がいてくれるから仕事が成り立っている」と改めて考えてほしいです。親事業者には、具体的なコスト削減の数値目標を掲げている企業も多く、それらのしわ寄せが下請事業者に及んでいるケースも少なくありません。業務をアウトソーシングして効率化を目指そうとする世間の動きは高まってきているので、下請事業者を大事にしなければ、いずれ下請事業者から親事業者の元を離れ、足元をすくわれることにもなりかねません。
一方の下請事業者は、下請法に関する知識をしっかり身につけておくことが必要です。公正取引委員会のホームページには、法律の概要や、よくある質問などもあり、さまざまなケースについての説明が記載されているので参考にしてください。
日々の業務に追われて、そこまで手が回らないかもしれません。そうした場合には、弁護士や行政書士などのプロに任せることもひとつの方法です。専門家それぞれで得意とする業界、分野があるので、自社にマッチする方にまずは相談してみましょう。
下請法に関する相談については、公正取引委員会および中小企業庁の相談窓口が全国にあるので、公正取引委員会のホームページなどから調べて問い合わせてみてください。
(参考)
公正取引委員会・中小企業庁「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック ポイント解説 下請法」
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/pointkaisetsu.pdf
公正取引委員会「下請法の概要」
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html
※記事内で取り上げた法令は2022年1月時点のものです。
<取材先>
クオーレ労務経営 代表 戸川一秋さん
社会保険労務士、行政書士、採用定着士。クオーレ労務経営の代表コンサルタントとして、企業法務、労務管理、採用相談、就業規則の作成やリスク対策など、幅広く企業の人事労務、企業法務関係のサポートに取り組む。
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト