「キャリア採用」として募集する企業が増えたワケ
卒業予定の学生を対象にした新卒採用と異なり、中途採用では就業経験のある人材をターゲットにしています。一方、キャリア採用においても同じく就業経験のある人材が対象です。
これまでは「中途採用」という言い方が主流でしたが、最近では「キャリア採用」という表現が広まってきています。
その背景には、「中途」という表現を避けたいという意図がありました。「中途」という言葉には、ネガティブな響きが含まれます。「途中で入ってきた」「新卒とは異なる存在」といった意味合いを連想してしまうことから、新卒採用者と中途採用者の間に溝が生まれたり、中途社員がどこか疎外感を持ってしまったりする可能性があります。
そこで代わりとして使われるようになったのが「キャリア採用」です。
新卒採用では求職者の将来的なポテンシャルを見極める一方、中途採用はこれまでに培ってきたスキルや実績といったキャリアをもとに判断します。その違いから、「中途」ではなく「キャリア」と言い換えられるのではないか、ということになり、「中途採用」ではなく「キャリア採用」と打ち出す企業が出てきました。
新卒採用を「ポテンシャル採用」という場合もありますが、「新卒」にはネガティブな意味合いが含まれないため、現在でもそのまま広く使われています。
中途採用とキャリア採用の違い
中途採用・キャリア採用ともに、就業経験のある人材が対象ですが、厳密には一部の対象者が異なります。
新卒として入社した後、数年で離職する「第二新卒」の割合は増加傾向にあります。早期離職であっても、就業経験があるために第二新卒も中途採用に該当します。ただし、第二新卒は、新卒に近いかたちのポテンシャルで採用する企業が多いでしょう。
そこで、前職での経験を基準にしているキャリア採用では、第二新卒を含まないのが一般的です。
中途採用に該当するのは、スキルや知識が豊富な実務経験者から第二新卒のような若手の求職者まで様々です。中途採用は、キャリア採用よりももう少し幅が広いといえるでしょう。
つまり「中途採用」と「キャリア採用」の違いは、単純に言葉の印象だけではありません。「中途」という言葉がネガティブな可能性を秘めているからといって、安易に「キャリア」と言い換えるのではなく、企業側はこれらの違いをふまえて使い分ける必要があります。
企業側はどのように使い分けるといいのか
「キャリア採用」として募集すると、経験やスキルが浅い求職者は「自分にはキャリアがないから」と敬遠してしまう可能性があります。採用活動において、応募のハードルを高くしすぎないことが重要です。キャリア採用という表現の方が良いとされる流れであっても、安易に使わないように注意しましょう。
たとえば「キャリア採用」としながらも、第二新卒や未経験者も歓迎する場合には、募集要項にその旨を記載する手もあります。もちろん「中途採用」と言ったからといって、必ずしも求職者から悪い意味に捉えられるわけではありません。誤解を招かないために、最初から「中途採用」として募集するのも一案です。
どちらの言い回しを使って募集するかは、企業次第といえるでしょう。いずれにせよ、それぞれがもつ意味の違いや背景をふまえて募集を行うのが重要です。言葉ひとつとはいえ、丁寧に選定しながら採用活動を進めるようにしましょう。
<取材先>
人材研究所 代表取締役社長 曽和 利光さん
京都大学卒業後、リクルートに入社。人事部のゼネラルマネージャーとして培ったスキル・ノウハウと、2万人の面接経験を融合しワンランク上の人材を採用する独自手法を確立。その後、生命保険会社、総合不動産会社で一貫して人事領域で活躍し、2011年に株式会社人材研究所設立。著書に『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)などがある。
TEXT:成瀬瑛理子
EDITING:Indeed Japan + ノオト