労働者協同組合法とは? 協同労働の基本を解説

手を組む3人の男女のイメージ

「労働者協同組合法」とは、働く人が自ら出資して運営に関わる「協同労働」を実現する法律です。2022年10月1日に施行されると、日本での働き方の選択肢が増えるともいわれています。協同労働の働き方がどのようなメリットやリスクをもたらすのか、堀法律事務所の弁護士である福田隆行さんにお聞きしました。

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労働者協同組合法とは

◆働く人が出資して運営できる組織

労働者協同組合とは、労働者協同組合法(2020年法律第78号/一部を除き2022年10月1日から施行)に基づいて設立された法人を指します。組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織です。3名以上の発起人がいれば、組合を設立できます。協同労働の働き方自体は今までにもありましたが、法律が施行されることで組合に法人格が認められるようになりました。

協同労働とはどういった働き方なのか

◆企業での働き方との違い

・一般企業(株式会社)

企業が労働者を雇用し、使用者の指揮命令のもとで労働者が働く。出資と労働、運営(経営)がそれぞれ分かれている。

・労働者協同組合

働く人自らが出資して運営に携わる。運営(経営)には、組合員の意見が反映される。

◆労働者協同組合法施行の背景

介護や福祉などの分野で協同労働を実践している団体は以前から存在しています。これまで協同労働を位置付ける法律がなかったことから、これらの団体は、法人格を持たずに任意団体として活動したり、必要に応じてNPO法人や企業組合といった法人格を取得したりして事業を行ってきました。しかし、法人格を持たないと団体として契約の主体にはなれず、土地や建物などの資産も団体名義では所有できないという問題があります。
 
NPO法人は組合員の出資ができないことや、設立や維持のための手続きが煩雑であること、企業組合は営利法人であることなど、既存の法人格には一長一短があります。そこで協同労働を位置付けるための新たな法律が求められていました。

◆労働者協同組合の要件

労働者協同組合法では、労働者協同組合の「基本原理その他の基準及び運営の原則」として、下記の要件を定めています。

1.組合員が任意に加入し、または脱退できること

組合員はいつでも自由に組合に加入、脱退が可能です。加入の際には、組合が定める出資をすれば組合に加入できます。現在協同労働を実践している団体では、出資金は1口数千円から10万円以上など様々です。

2.組合員との間で労働契約を締結すること

組合と組合員の間で労働契約を結ぶと、一般の企業と同じく労働者の権利を得ることができます。

3.組合員の議決権および選挙権は、出資口数にかかわらず平等であること

組合員は、出資口数にかかわらず、一人一票で経営に参加します。

4.組合との間で労働契約を締結する組合員が総組合員の議決権の過半数を保有すること

たとえば組合員数が10名の組合の場合、最低でも労働契約を締結する組合員は6名以上必要です。

5.剰余金の配当は、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行うこと

余剰金は、組合員それぞれの出資金額によらず、どれくらい事業に従事したかをもとに配当することを定めています。

◆事業の一例

労働者協同組合の事業領域は広く、労働者派遣事業が禁止される以外は基本的に制限がありません。労働者協同組合は、地域課題に取り組むことが期待されており、現在、協同労働を実践している団体が行っている事業も下記のような地域課題の解決を目的にしているものが中心です。労働者協同組合法の施行後も同様の事業を行う組合が増加することが期待されます。

  • 介護施設の運営など介護・福祉関連事業
  • 学童クラブなどの子育てサポート事業
  • 自立支援など、困窮者支援関連事業
  • 農産物の加工などの地域づくり関連事業

 

労働者協同組合の設立で期待できること

◆働き方の選択肢が増える

副業や兼業の一環として労働者協同組合で働くことが、従業員のキャリア形成につながる可能性があります。また、働く時間なども相談して決められるため、勤め先の仕事と両立しながら、多様な経験を得る機会につながることが期待できます。

◆やりがいをもって働ける

主体的に働き、自分達で仕事を作り出していくことができるため、仕事をする意味を見出しやすくなります。また、人手不足が進む地域の介護や子育て事業、緑化活動など、地域課題の解消に寄与し、多様な分野で活躍することでやりがいや満足感を得ることが期待できます。

◆シニアの活躍

労働者協同組合は、地域が抱える課題の解決を期待されていることから、経験が豊富な定年退職後の人の活躍の場として期待できます。

◆後継者問題の解消

労働者協同組合は事業分野が広く、幅広い人が参加しやすくなるため、後継者が不足している産業の担い手を増やせる可能性があります。また、後継者がいない中小企業において、労働者が出資して労働者協同組合を作り、事業継承の受け皿となることが期待できるという考え方があります。

労働者協同組合のリスク

◆労働条件の悪化

労働者協同組合は、出資・運営(経営)・労働が一体となっているため、運営と労働のそれぞれの立場で利益相反が起きた場合は、賃金や労働条件が不当に切り下げられるリスクがあります。

◆合意形成の難しさ

労働者協同組合の運営(経営)は、組合員の意見を反映して行われます。そのため、合意形成に時間がかかることもあります。事業において迅速な決断が求められるような場面では、対応が遅れてしまうことが懸念されます。

◆「名ばかり理事」への懸念

労働者協同組合法では、原則として組合は組合員との間で労働契約を締結することが定められています。しかし理事の職務のみを行う組合員や、監事である組合員は例外とされています。
 
同法では、労働契約を締結する組合員は過半数以上であればよいと定められているため、たとえば組合員の総数が100名のうちの49名を理事や監事とすることも可能です。その場合、労働者性を有しているにも関わらず、理事であるがゆえに労働契約が結ばれず、不当に安い賃金や、長時間労働を強いられるケースが考えられます。そのため、理事や監事の数が総組合員の1割を超えることがないようにすることが望ましいとの内容の指針を定めることが検討されています。
 
労働者協同組合法は、施行前の新しい法律のため、現在もさまざまな議論が続いています。働き方の多様化に伴って、働く人の権利の保護も課題となってくることを知っておく必要があるでしょう。


※記事内で取り上げた法令は2022年1月時点のものです。
 
<取材先>
堀法律事務所 弁護士 福田隆行さん
 
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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