農業と福祉を組み合わせた事業を展開し、障害のある人もない人も、個性を生かして働ける会社づくりに取り組む「株式会社ココトモファーム」(本社・愛知県犬山市)は、「誰一人取り残さない」とするSDGsの理念に合致する取り組みを続けています。自身も発達障害で苦労した経験を持つ、代表の齋藤秀一さんに、障害をマイナスとして捉えず、それぞれの特性を生かす働き方の工夫について聞きました。


農業×福祉で社会課題の解決を目指す


――ココトモファームを立ち上げた経緯を教えてください。
 
私自身、発達障害で子どもの頃から生きづらさを感じてきましたが、パソコンの販売会社に就職して業績を上げたことで、パソコンに救われたという思いを抱きました。そのパソコンを使って何かできないかと、「株式会社ネットアーツ」というITソリューションの会社を立ち上げました。その後、ネットアーツを母体に、障害のある児童を対象にした放課後デイサービス事業を手掛ける「まなぶ」という会社を運営しました。そのなかで、障害のある子どもを持つ親が、子どもの就業に対して大きな不安を抱いていることを知り、障害者の就労の場を提供できないかと立ち上げたのがココトモファームでした。
 
担い手不足が社会課題となっている農業と、就労の場を必要としている福祉を組み合わせ、収益が上がるよう、生産から加工、販売までを手掛ける6次産業化したことが特徴です。具体的には、愛知県犬山市の水田8.6ヘクタールで収穫される米を加工し、米粉100%で作るバウムクーヘンを愛知県内・4店舗で販売しています(2021年11月現在)。従業員60人のうち約1割が発達障害や軽度の知的障害など何らかの障害がある人で、「ココでトモだちになろう」というコンセプトを掲げて、すべての人が輝ける職場を目指しています。

その人の特性に合った業務を探る


――採用する際に重視している点や、担当業務の決め方を教えてください。
 
採用を決めるときに最も重視しているのは、仕事に真面目に取り組めるかどうかです。ココトモファームでは、障害の有無にかかわらず同一労働・同一賃金で、障害があってもその人が会社にとって一番役に立つような働き方や持ち場を考えています。
 
そもそも、障害といっても知的障害、身体障害、精神障害、発達障害など様々です。さらに発達障害のなかでも、自閉症スペクトラム症(ASD)と多動症(ADHD)はまったく異なるように、それぞれの特性はかなり幅広いです。ココトモファームでは、「障害のある人にはこの仕事」と一律で決めず、本人の希望を聞きながら、実際に業務に取り組んだ結果を踏まえて配置を決めています。
 
――仕事をスムーズに進めるためには、人間関係の構築が大切だと思いますが、その点はどのように工夫していますか?
 
従業員が、それぞれの障害の特性を知ることを重視しています。たとえば、自閉症スペクトラム症(ASD)の人は、突然の予定変更があるとパニックに陥ってしまうのですが、周囲の人がそれを知らないとトラブルになりかねません。そうした状況を防ぐため、全社員に対して、あらかじめ資料を使って障害の特性を学ぶ社内研修を行っています。ASDの人も1日のスケジュールが決まっていて指示手順があれば、こだわりを持って正確な仕事ができるので、周囲がこのような特性を理解しているかどうかで職場環境や生産性に大きな違いが生じると考えています。

他者理解が、様々なメリットを生み出す


――多様な仲間と仕事に取り組むなかで重要なのは、相手を理解することなのですね。
 
他者を理解することが最も重要なポイントです。たとえば相手が仕事を指示通りにできなかった場合、「指示を理解できていないのか、理解できたのに技術的に難しくてできなかったのか」などの原因を考えられるようになり、問題が発生したときの対処方法が見えてきます。
 
さらに、こうした考え方を自分にも照らし合わせると、自身の得意不得意が分かるので、自己理解につながります。従業員全員が自己理解を深めることで、互いの強みを生かして相手の弱みをカバーし、助け合えるようになるのです。自発的に動く力も身に付くため、生産性向上にもつながっています。
 
――他者や自己を理解する仕事の姿勢は、業績にも影響を与えていますか?
 
こうした考え方は、お客様への対応にも変化を生み出しています。クレームが寄せられたときも、ただ謝ることだけを考えるのではなく、何が原因だったのかを考えるクセがつき、業務改善につながっています。多様な人材が集まり、一人一人が輝ける職場を目指すことで、業務の好循環を生み出しています。
 
――ココトモファームの、今後の抱負や展望を教えてください。
 
私たちの取り組みは、障害者雇用という課題解決の観点からは、まだまだ小さな動きです。だからこそ、私たちのような取り組みや考え方を世の中に広めていきたいです。今後は、観光農園を運営するなど、さらなる成功事例を生み出し、そのノウハウを伝えていきます。
 
一概に“障害者”と言われますが、生活する上での難しさがあるだけで、その人自身に「障害」があるわけではありません。だからこそ、様々な工夫で職場や生活における障害を取り除いていけば誰しもが生きやすい世の中になっていくのではないでしょうか。

 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年10月時点のものです。
 
<取材先>
ココトモファーム 代表取締役 齋藤秀一さん
<プロフィル>
2001年にインターネットサービス業のネットアーツを設立。同社を母体に、2015年に障害者通所支援事業などを手掛けるまなぶを、2019年にココトモファームを設立した。著書に自身の経験を綴った『発達障害でIT社長の僕」(幻冬舎メディアコンサルティング)がある。
 
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト