
様々な測定機器を製造し、自動車排ガス測定装置は約8割、半導体製造装置向けのガス流量制御装置は約6割と、ニッチな分野で圧倒的な世界シェアを誇る株式会社堀場製作所。同社は、世界のライバルを凌駕する高い技術を支えている「人財」を、経営の最重要項目の一つとして位置づける。
元祖学生ベンチャーである堀場製作所が社員の採用で重視するのが、自社が大切にしているチャレンジ精神。それを伝えるため、採用サイトでは社是である「おもしろおかしく」を前面に打ち出した情報発信を行う。
京都に本社を置く企業らしく独自の哲学を掲げ、唯一無二の存在として世界で勝負する同社。今後も成長していくために、どのような「人財」を求め、中途採用に向けてどんな情報発信をしているのか、グローバル人事部採用チーム チームリーダーの島津悠貴氏に聞いた。

自社の根底にある「おもしろおかしく」を伝え、共感できる「人財」を求める

――堀場製作所では、テクノロジーを生み出すのは人であり、人材が財産とされています。その「人財」を採用するに当たり、重視するポイントを教えてください。
島津:「人財」にまず求めるものは「チャレンジ精神」です。堀場製作所は“元祖学生ベンチャー企業”ですから、そこは大切にしたいと考えています。そのうえでキャリア採用では、やはりスキルや専門性、職歴やグローバルでの活動歴などを見ることになります。
それは採用サイトでこだわった冒頭のキャッチにも現れています。採用サイトを作る際、求職者に「堀場製作所は他社とは違う、もっと詳しく知りたい」と思ってもらうには、何をアピールするべきなのか議論しました。
その結果、弊社の強みである技術ではなく、「人財」の面を押し出すことにして、「おもしろおかしく(Joy and Fun)」をコンセプトの主軸とし、それを伝えるための「舞台に立つ。」というキャッチを作成しました。いろんな職種の方へメッセージを伝えるに当たり、社是であり、堀場製作所のフィロソフィーである「おもしろおかしく」を伝えることが、堀場製作所の独自性を一番理解してもらえると考えたからです。「おもしろおかしく」は、私たちの根底にあるもので、チャレンジや主体性といった言葉とも結びつきます。そこに共感してくれる「人財」こそが、キャリア採用でも新卒採用でも活躍してくれるだろうと期待しています。
また、「おもしろおかしく」は、グローバルに事業を展開するうえでも重要なものです。海外は国内以上に価値観が多様化しています。多様性は歓迎すべきものですが、企業としては共通する基盤のようなものも必要です。「おもしろおかしく」は「Joy and Fun」と訳して、海外ではワークショップなどを通じて、理解と共有に取り組んでいます。国内の社員は、海外の拠点やパートナーなどに対してリーダーシップを取るためにも、「おもしろおかしく」を体現し、一丸となって目指すものを伝えられるようになることが求められます。
そしてキャッチを「舞台に立つ。」としたのは、堀場製作所は社員が主役だと考えていて、会社という舞台で一人ひとりの社員が自由に「おもしろおかしく」演じてほしいという「おもい」を大切にしているからです。このことは、キャリア採用でも新卒採用でも入社される方に是非伝えたいと考えています。
――「おもしろおかしく」は、どんな経緯で生まれたのですか。
島津:「おもしろおかしく」は、創業者である堀場雅夫の発案で1978年に社是に制定しました。社是としてふさわしいかをめぐっては、社内でも賛否様々な声があったと聞いていますが(笑)、今となると時代を超えた普遍的なメッセージがあると感じています。「おもしろおかしく」は、仕事を通じた人生の満足度、やりがいや良いアウトプット、モチベーションなどにもつながるので、人事担当としても社外に向けて積極的に発信していきたいと考えています。
コンテンツの意図を明確化して社風を伝えるために、採用サイトをリニューアル

――採用をめぐる環境が変わるなか、オウンドメディアを使った情報発信にはどんな意義があるのでしょうか。
島津:採用に関する情報を発信するなかで感じるのは、求職者が能動的に情報にアクセスし、短時間でより多くの情報に接する傾向が強まっていることです。そうした傾向においては情報をわかりやすく伝えることが重要になり、私たちのように、消費者の目に直接ふれることが少なく、なじみの薄いBtoBの事業には不利に働く可能性があります。
そこで情報発信に当たっては、会社の特徴や社会に与えるインパクトなどについて、シャープにわかりやすく訴求することを強く意識しています。私たちの分析技術などについても、詳細に解説したり、いかに優れているかを語ったりするよりも、まずどのように社会の役に立ち、世界に影響を与えているかを、具体的に情報化することが必要だと考えています。
――オウンドメディアによる情報発信の環境が変化してきているなか、採用サイトをリニューアルされたそうですね。
島津:採用サイトリニューアルには私も関わっています。私はキャリア採用で入社したのですが、「出る杭は伸ばせ」という社風に共感を覚えたことが、入社を決めた要因の一つになっています。私のように社風や理念、カルチャーへの共感が、入社の決め手になった人も多くいます。キャリア採用においては、自分の価値観が会社に合うかどうかを見極めることが、求職者、採用側の双方にとって非常に重要なのです。
ところが、入社した当時の採用サイトはそういった意味での情報発信手段として課題感のあるものでした。そのため間もなくして採用サイトをリニューアルすることなどを企画し始めました。結果として全面リニューアルとなったため、それなりの投資が必要でしたが、「よそがやっていないことをやりたい」と何に対してもオリジナリティを大切にする会社なので、トップを含めて理解を得ることができました。そして、2019年から2020年にかけて採用サイトをリニューアルしたのです。
リニューアルに当たっては情報の発信方法を変え、関連するコンテンツも充実させました。偶然ですがコロナ禍と重なったことで、面接などもオンライン化が進み、求職者と直接会う機会が失われました。おかげで採用サイトの必要性、情報発信の重要性をあらためて痛感しています。
――採用サイトの構成、タイトルの言葉の選び方などに工夫が感じられます。こだわったポイントの解説をお願いします。
島津:先にも述べたように、何を伝えたいかを明確にすることがコンテンツの原則です。タイトルなどの言葉の選び方も工夫しています。
例えば、堀場製作所はグローバルに分析・計測システムを提供する企業で、事業領域が自動車、環境、医療、半導体など広範囲にわたることが特徴です。そこで「5分でわかるHORIBA」というサマリーを設け、その特徴を「はかる」という切り口でまとめ、わかりやすく紹介しています。
社員紹介も、普段の仕事ぶりなどよりも、個人の「おもい」にフォーカスしてインタビューしています。使命感や自己の成長などをテーマに話を引き出し、それぞれの個性や社風、会社の雰囲気を感じ取ってもらえるものを目指しています。タイトルを「私の舞台」にして、登場した社員に順に「SCENE1」「SCENE2」と付けたのも、社員が主役ということを示す仕掛けです。こうした細かいところまでこだわることができるのも、オウンドメディアならではと評価しています。
――どのような態勢で、コンテンツの制作に臨まれているのでしょうか。
島津:社員インタビューなどのコンテンツ制作は、人事と広報の数名が担当しています。インタビューする社員の人選には、当然のことながら様々な部署の協力を得ることになるので、インナーブランディングにも役立っていると考えています。また、登場する社員も自分を振り返り、原点に立ち戻るいい機会になっていると思います。
採用に関する情報発信は、SNSでも行うことができます。手軽さやアクセスの多さを考えると、むしろSNSを活用したほうが効果的かもしれません。しかし、やはり密度の濃い情報を、自分たちの言葉やアイデアで表現したいので、今後もオウンドメディアに力を入れたいと考えています。
ホームページには、事業や技術、「人財」、社会や環境に対する取り組みを伝える「HORIBA Talk」などのブログもあります。現在は採用サイトとは離れた場所にありますが、堀場製作所の多面的な顔や雰囲気を伝えるものなので、採用サイトからもう少し訪れやすくすることを検討しています。
事業の拡大によって、さらに重要性を増していくオウンドメディア

――オウンドメディアの充実は、採用活動に影響を与え、変化をもたらしていると思います。ここまでの成果を振り返ってください。
島津:キャリア採用は募集ポジションとのマッチングも重要ですので、採用サイト経由の応募が、そのまま採用に結びつくケースばかりではないのはある意味仕方がありません。しかし、採用サイトから直接応募いただく人は増えていて、様々な経験をお持ちの方からの応募を後押しする働きをしているのは明らかなので、引き続き情報発信に力を入れる必要があると考えています。
また、入社した社員を対象にしたアンケート調査では、入社の決め手として、社風やカルチャーなどへの共感を挙げた社員が多く、情報発信のねらい通りになっていることに手応えを感じています。
――中長期的な視点では、オウンドメディアのあり方についてどんな展望をお持ちでしょうか。
島津:オウンドメディアの役割はさらに重要になりますので、コンテンツもより工夫をこらしたいと考えています。例えば、最近新しくなった社屋やそこで働く社員の雰囲気などなかなか現地でないと伝わりにくい様子を音や映像などで伝え、会社の「空気感」を実感してもらえるようにすることなどは今考えていることの一つです。オンラインでの会社見学や何か別の形で「空気感」に特化したコンテンツなど、極端なことを言えば、「匂い」まで伝わりそうなリアリティのあるコンテンツに挑戦していきたいと思います。