2022年4月から改正女性活躍推進法が中小企業にも適用されます。中小企業にとっても「女性活躍」はもはや他人事ではありません。一方で、具体的に女性活躍推のために何をどこから着手すべきかと判断に迷う企業も少なくありません。
 
役職者の男女比率に着目して女性の管理職を増やすことはなぜ必要で、企業にどんな効果がもたらされるでしょうか。また、具体的に女性のキャリアの選択肢を増やし、育児と仕事を両立してもらうためにはどのような制度づくりを進めるべきでしょうか。女性労働協会の会長を務める岩田三代さんにお聞きしました。


女性管理職ゼロがもたらす2つのデメリット


――女性活躍推進法の改正など、「女性が働きやすい職場づくり」を進める動きが高まっています。企業は具体的にどのようなことに取り組むべきでしょうか。
 
率先して着手すべきは、女性の管理職・経営陣を増やすことではないでしょうか。役員比率は外から見てわかる明確な数字、エビデンスですから。その企業で女性が働きやすいかどうかの指標になりますし、投資家がその企業の価値や将来性を見極める上での判断材料にもなります。
 
管理職やトップ層に女性がゼロである状態は、つまり意思決定層に同質性が高い中高年男性しかいない、ということの表れです。
 
ですが、新商品の開発や研究を進めていく上では、多様なバックグラウンドを持った集団のほうが断然有利です。同じような価値観、ものの見方しかできない人々が集まっても、新しいアイデアは生まれません。イノベーションは多様な発想の掛け合わせから生まれるものですから。
 
また、リスク管理という意味でも全員男性ばかりの経営陣には危うさがあります。事業内容や広報面で「今の時代、こういう方向性はまずいのでは」という実感や生活者の視点に欠けていたり、旧来型の男性中心主義的な組織のあり方を守るために「内心まずい気がするけど今後のキャリアのために口をつぐんでおこう」と保身に走るケースもあったりするからです。
 
多様な発想が生まれない。組織としてリスクを感じ取りづらい。この2つは、意思決定層に女性がゼロである状態がもたらす大きなデメリットです。
 
――では、女性管理職を増やしていくためには具体的に何をすべきでしょう。
 
まずは、企業側が意識的に女性を「引き上げる」姿勢を見せていきましょう。いきなり「うちは男女平等ですから同じスタートラインからどうぞ」と女性社員に伝えても、そもそもほとんどの企業では現状、男性管理職のほうが多数派です。男性管理職のロールモデルはすでにたくさんある。いろんな部署で経験を積んで会社全体の見取り図を学ぶことや、人脈づくりの手段なども、男性に有利な仕組みができあがっているのです。
 
対して、女性側はキャリアを“塩漬け”にされるような状態が多かった。上にロールモデルがいないからどう学べばいいかわからないし、経験を積ませてもらえないと自信も持てない。人脈も広げにくい。だからこそ、スキルアップの機会やリーダーシップ研修、管理職研修などを、企業側から女性社員に積極的にプッシュしていきましょう。

女性を少数派にさせない仕組みをつくる


――いわゆる、アファーマティブ・アクション(積極的に格差を是正する措置)ですね。
 
そうです。男女間の賃金格差、キャリア格差といった構造的な格差を埋めていくためには、個々人の努力だけではなく、そうした企業側の積極的な施策が欠かせません。
 
その上で、「ある程度の数を取る」ことも大事です。どのコミュニティでもそうですが、集団において少数派は自分の意見を出しづらくなる傾向があります。つまり、経営陣や管理職の中に女性がたった一人だけという状態のままでは、組織の体質はなかなか変わっていきません。
 
企業風土を変えていくためには、ある程度の人数を揃えて、多様な女性社員のモデルを社内に示していくことが大事です。本気で女性社員の能力を活かしたいと考えるなら、重要な決定を下すポジションにできれば3人以上は女性が入るようにしていきましょう。採用においても同様です。
 
こうした工夫を重ねて女性管理職の数がどんどん増えていくと、女性社員にとって多様なロールモデルが身近になり、「じゃあ私も目指してみよう」というポジティブな気持ちになれる。企業としても人材育成や業績の面でプラスに働くでしょう。
 
――女性には妊娠・出産という特有のライフイベントがあります。産後も働きやすい職場づくりのために企業は何をすべきでしょう。
 
裁量労働制、リモートワーク、育休に入った人をフォローする体制づくりなどを組み合わせた柔軟な制度と、それをきちんと社員が利用できる風土づくりが重要ではないでしょうか。
 
妊娠・出産は確かに女性にしか担えない領域です。しかし、それ以外の「子育てをしながら働く」という点に関しては、共働き世帯が多数派となった今は男女どちらにとっても重要なことです。今の時代、「育児しながら働ける環境かどうか」を重視して転職活動を行う20~30代男性も増えています。
 
さらにいうと、同じ女性でも「出産後は仕事量をセーブしたい」「子どもが一歳になるまでは育児優先で働きたい」という人もいれば、「仕事が好きだから育児をしながらでもバリバリ働きたい」「仕事のキャリアを途切れさせたくない」という人だっているはずです。
 
もちろん、産後の体調や保育園事情など、さまざまな要因も絡んできますが、産後の女性全員が一律に同じ考えを持つわけではありません。個人の価値観によってそれぞれに異なります。
 
そうした現状を踏まえた上で企業側がすべきことは、「その社員がどのような働き方を望んでいるのか」を丁寧にヒアリングすることです。

性別や属性ではなく、「個人」に向き合う


――「女性だから○○であるはずだ」と決めつけるのではなく、個人の意志や事情に企業側がフォーカスしていくということですね。
 
これからの時代は、性別や属性で選択肢を狭めることなく、個々の社員に向き合っていく姿勢が非常に重要になってきます。
 
その際、企業側がまず注意したいのは、パターナリズム(当人の意志に関わりなく、当人の利益のためにと代理の人が意思決定すること)に陥らないこと。
 
「女の子に営業職なんかやらせたらかわいそうじゃないか」といった一見配慮しているようで、結果的に組織の中核から一部の社員を排除してしまうケースがこれにあたります。本人の適性を無視して勝手に配属や異動を決めてしまう。いわゆる一昔前の父親像的な発想ですね。こうした思い込みは男女間の賃金格差のさらなる拡大に貢献してしまいます。
 
かつて高度経済成長期の日本では、男性は仕事に滅私奉公して、女性は専業主婦として家庭を支えるというモデルが一般的でした。そうした価値観を個々人がプライベートで持つのは自由ですが、企業風土として残したままでは、この先の時代を生き残っていくことは到底難しいでしょう。
 
――2021年4月からは中小企業も含めての「同一労働同一賃金」が完全施行されました。今後はますます働き方の多様化が進んでいくことが予測されます。
 
多くの企業はいまだ手探り状態のようですが、新しい時代における働き方の形は着実に変わってきています。
 
それに、人生には出産や育児以外にも、介護や更年期、病気など、さまざまなことが起こりえますよね。70歳まで定年が引き上げられても、全員が70歳までずっと健康に働けるわけではありません。
 
優秀な人材に、できるだけ長く健康に働き続けてもらうために、企業として今何をすべきか。そのことをすべての企業が真剣に考えるべき時期に来ています。「女性が活躍できる職場づくり」に取り組むことは、その入口にもなるはずです。

 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年10月時点のものです。
 
<取材先>
一般財団法人 女性労働協会 会長 岩田三代さん
1952年、愛媛県生まれ。愛媛大学法文学部卒業後、日本経済新聞社に入社。女性労働、家族問題、消費者問題など幅広く取材し、日経新聞論説・編集委員を務める。2015年に同社退職。現在はジャーナリストとして活動する傍ら、実践女子大学で非常勤講師(女性の歴史)を務める。
 
TEXT:阿部花恵
EDITING:Indeed Japan + ノオト