企業が防災備蓄品を用意すべき理由
企業が防災備蓄品を用意すべき理由は、以下の3つです。
1.事業継続の業務改善整備
災害時に停電や断水などインフラが停止した状況下で業務継続が必要な場合に、水・食事・トイレ・空調など、人が働く環境を整備するためです。
2.外に出られない場合への備え
事業所の周辺が危険な状態となり、屋外へ出られなくなった場合に備えるため。とくに山間部や観光地などの孤立しやすい場所に必要です。
3.徒歩で帰宅させないための備え
公共交通機関が停止し帰宅困難者が多数生じた際に、徒歩帰宅者を抑制することで安全を確保するため。とくに大都市圏に必要です。
企業が防災備蓄品を用意しない場合にペナルティはあるのか
企業の防災備蓄品の用意に関する条例には、たとえば下記があります。
- 東京都帰宅困難者対策条例
- 神奈川県地震災害対策推進条例
- 大阪市防災・減災条例
いずれも企業に努力義務を促すもので、罰則規定は設けられていないため、防災備蓄品を用意していないことに対するペナルティはありません。つまり、企業が備蓄品を用意してないことが、そのまま「従業員が安全に働く環境づくりを怠っている」とはならないことを意味します。
しかし、大規模な災害が相次いで発生する近年は、国から次の大規模災害に関する具体的な被害想定や発生に関する警告がされており、努力義務とはいえ前述のような各種条例も定められています。
このような状況で災害が発生し、防災備蓄品の準備がないために従業員に死傷者が出た場合、訴訟に発展する可能性もあります。
防災備蓄品は何をどれだけ準備するといいのか
◆防災備蓄品の種類と必要数の目安
以下は、企業が用意すべき防災備蓄品です。必要数は、「拠点にいる従業員の人数×3日分+予備として10%増」を基準に考えます。
・情報収集のためのアイテム(ラジオ、スマホの充電器など)
- ラジオ(乾電池タイプのもの)
- 乾電池
- スマホの充電器 など
災害情報の取得や避難の必要性の判断に必要です。ラジオの電波の入る場所を平時に確認しておくことも重要です。
・緊急対応(応急手当など)
- 応急処置用品
- AED など
緊急時には救急車が出動できない可能性もあるため、負傷者の対応を行えるようにしておきます。オフィスのあるビルにAEDが設置されているなど自社が用意したものでない場合は、設置場所を確認し、社内に共有することも大切です。
・緊急対応(救助用品)
- バール、ジャッキ
- ノコギリ(木造建物または木製家具が多い場合)
- 作業手袋、LEDライト など
・非常用トイレ
災害時の最重要アイテムで、断水でトイレが使用できなくなった場合に設置します。大地震の場合、断水が生じていなくても、配管の点検が完了するまで排水が禁止される建物もありますので確認が必要です。また発災時に備え、トイレの状態確認および非常用トイレ設置のマニュアルなどを整備しておくとよいでしょう。
1名:5回分/1日×3日分
・衛生用品
- トイレットペーパー
- ウェットティッシュ
- ビニール袋
- アルコール除菌剤 など
食中毒や感染症の予防に必要です。
・飲料水
飲料のほか、調理や手洗いなどの用途を含みます。コストや保管スペースに余裕があれば、コップが不要で配布時の手間もかからない500mlのペットボトルを用意しましょう。ウォーターサーバーや自動販売機の飲料、来客用のお茶や水を「日常備蓄」として活用するのも可能です。
1名:1日3リットル×3日分
なお、予算や保管スペースに余裕があれば、「非常用浄水器」を用意するのも方法の一つです。優先順位は高くありませんが、事業所が僻地にあるなど水の調達が必須である場合、水源に関わらず飲料水として処理できる「逆浸透膜(RO膜)」タイプの浄水器を準備するといいです。
・非常食
- パックごはん
- インスタントラーメン
- パンの缶詰
- 固形栄養食 など
これらの食料を約3日分用意します。ゴミのまとめ方やまとめる際のビニール袋なども準備しましょう。
・寝具
- 毛布
- アルミシート
- 寝袋
- エアマット など
停電時の防寒アイテムとしても活用できます。予算やスペースに余裕があればアルミシートでなく毛布にしたり、エアマットを追加することで快適性を大きく上げられます。自社の都合にあわせて選びましょう。拠点にいる従業員全ての快適性を上げることが難しい場合、一部のアイテムをアップグレードし、妊婦や負傷者など向けに使用するのも方法の一つです。
1名:1組
◆企業が防災備蓄をする際のポイント
・防災備蓄品の内容について
各種ガイドラインやアドバイスに基づき、十分な量・内容の備蓄品を用意しましょう。事業継続上、会社への泊まり込みによる復旧などが必要な場合は、よりグレードの高い環境を準備する必要があります。
・防災備蓄品の活用準備について
配布計画の策定や保管スペースに合わせた備蓄品の優先順位の決定など、備蓄品を災害時に活用できるようにすることが必要です。テレワークの推進で、総務・防災担当者が不在になる可能性がある場合、出社している従業員に向けた備蓄品活用マニュアルなどを準備し、共有しておきます。
◆防災備蓄用品の準備と合わせてやっておくこと
応急手当品の購入と合わせて、救命のスキルを身につける必要があります。本来はあらゆる従業員が「応急救命講習」を受けることが望ましいですが、難しい場合は下記の従業員が受講するといいでしょう。
- 応急手当用品の管理者(総務、防災担当者など)
- 日頃からオフィスにいる可能性の高い従業員
防災備蓄品の保管方法
◆保管スペースが十分にない場合
たとえば、100名分の水を本格的に備蓄するとなると、下記のように算出できます。
例)500mlのペットボトルの水を100名分備蓄する場合
500mlのペットボトル×1日6本×3日分×100名=1800本
500mlのペットボトルは1箱24本入りが標準のため、
1800本÷24本=75箱
つまり、ペットボトル入りの段ボールを75箱収納できるスペースを作る必要があります。
社内に防災備蓄品を保管する十分なスペースがない場合、自社にとって「可能な最大量」を備蓄しましょう。
また、テレワークの定着でオフィススペースを縮小する企業もあります。スペースに合わせた量の備蓄品を用意することがポイントです。
◆マニュアルを作成する
防災担当者の不在時などに対応できるように、次のことを記載したマニュアルを作成する必要があります。
- どの部屋に何があるか:応急手当用品や食料など、種類によって異なる保管場所を把握するため
- 鍵の有無(必要な場合はその保管場所や利用方法)
- 防災備蓄品のリスト化:段ボールの中身など、全体を把握するため
また、資料の更新時には事務連絡だけでなく、従業員を対象に倉庫ツアーなどをして実際の保管場所を見学したり、備蓄品の食料の試食会などを行ったりして、防災備蓄品を身近に感じてもらう工夫をするといいでしょう。
防災備蓄品の点検ポイント
◆点検のタイミング
防災備蓄品の点検時期は企業が任意で決められます。なお、下記シーズンは世間的に防災備蓄の需要が高まり備蓄品の買い替えや買い足しをしようとしても在庫がなくなることも多いため、スムーズに点検したい場合は早めに確認をするとよいでしょう。
- 3月〜4月の年度の変わり目
- 3月、9月の防災シーズン
◆点検時の注意点
防災備蓄品を初めて準備する際は、防災担当者がある程度しっかり用意できることが多いですが、2回目以降の点検や防災担当者の変更時などは注意が必要です。食料や水の賞味期限が切れている場合、大量の期限切れの在庫を抱える恐れもあります。
マニュアルには、「いつ、誰が、何を、どう入れ替えるのか」まで記載しておき、抜け漏れを防ぎましょう。
防災備蓄は必要ですが、理想的な量をそろえることだけを目指してしまうと、息切れにつながりかねません。何のための備蓄なのかを考え、長続きできる方法を選ぶことが大切です。
※記事内で取り上げた法令は2022年3月時点のものです。
<取材先>
合同会社ソナエルワークス代表 備え・防災・BCP策定アドバイザー 高荷智也さん
住宅設備会社など複数の会社を経験。本業の傍ら、ブログで家庭の防災に関する記事を多数執筆。2012年に専門家マッチングやオンラインショッピングなどの事業を展開する企業の執行役員に就任し「防災アドバイザー」の活動を開始。2015年に独立。メディア出演や講演など、防災について幅広く発信。著書に『中小企業のためのBCP策定パーフェクトブック』(Nanaブックス)。
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




