心理的安全性とは
心理的安全性(psychological safety:サイコロジカル・セーフティ)とは、心理学用語で、チームメンバーの一人ひとりが恐怖や不安を感じることなく、安心して発言や行動できる状態のことです。
心理的安全性において重要な要素が、「信頼関係」と「安全の場」です。この2つは、仲間意識や相手を思いやる心、大切に思う気持ちと密接に関係しており、良好なチームビルディングの土台作りにおいて欠かせないものです。
◆モチベーションに大きく関わる「基本的欲求」
下記は心理的な「基本的欲求」の中の4つの要素を示したものです。これらの欲求が満たされることで、人のモチベーションは高まります。逆に、阻害されるとモチベーションは著しく低下します。
- 愛・所属の欲求(誰かに必要とされている実感)
- 力・価値の欲求(誰かに認められている実感)
- 自由の欲求(任されている実感)
- 楽しみの欲求(楽しみながら成長している実感)
人は、基本的欲求を満たしてくれる人に信頼関係の源泉となる好意を持つようになり、貢献欲求が高まります。
こうした欲求を理解し、一人ひとりが他者を満たす言動をとることで、メンバー同士に「信頼関係」と「安全な場」が生まれ、チームの土台作りが進みます。そして最終的には、大きな成果を生み出すチームに成長できるのです。
心理的安全性があるとチームはどうなる?
「非難や否定をされない、本音が言い合える場」は、単にチーム内に良い雰囲気をもたらすだけではありません。メンバーの多様性がシナジー(相乗効果)を生み、個人の枠を超えた創造的な発想やアイデアをもたらし、最終的にブレイクスルーや高い成果につながる重要なプロセスとなります。
チームのパフォーマンスを上げるためには「Do(やり方)」だけではなく「Be(あり方)」が必要です。車で例えるならば、ボディやナビゲーションシステムが「Do」にあたり、ガソリンが「Be」に当てはまります。
どんなに素晴らしい方法論を持っていても、ガソリンがなければ車は進まず目的地に到着することはできません。特に現在の日本企業は「Do」を変調する傾向があります。心理的安全性の向上は、企業の成長に必要不可欠といえるでしょう。
心理的安全性をどのように測定するのか
自分のチームが心理的安全性を持ち、成長や成果を生み出している健全なチームかどうかチェックする方法のひとつとして、下記の診断シートを用意しました。
この診断にあたって、マネージャーが威圧的で影響力が強いチームほど、高い(良い)数値が出る傾向があります。なぜなら、ほかのメンバーが無意識に忖度をしてしまうことが多いためです。
その対応策として、診断を行う際は、各部署のマネージャーではなく人事部などが主体となり、無記名で回答できるようにすることや、診断を受けるメンバーには厳しめに点をつけるようにあらかじめ依頼しましょう。こうすることで、忖度による高評価を避けることができます。
『Good Team 成果を出し続けるチームの創り方』齋藤秀樹著(日経BP社)を元に編集部が作成
【診断結果(40点満点)】
- 20点以下「バッドチーム」
チームの土台ができておらず、個人商店の集まりの段階。1からチームの形成が必要。 - 21~32点「隠れバッドチーム」
成果は出ていても、有事の際などに脆いチーム。危機感を持って見直しが必要。 - 33点以上「グッドチーム」
健全な職場で働いている良好なチーム。3点以下だった項目のケアを怠らずに維持が必要。
現在、「グッドチーム」は診断を行った企業の1%にも満たない状況です。「信頼関係」と「安全の場」を構築し、チームの地固めを行いましょう。
オンラインで心理的安全性を高めるために必要なポイント
もともと心理的距離が近い間柄であれば、リモート下でも対面と大差なく良好な関係を維持できるといわれています。
リモート下で心理的距離を縮めることは不可能ではありません。むしろ、リラックスしやすい自宅環境での空き時間をチャンスと捉え、チームの土台作りに取り組んでみましょう。
◆「仲良しクラブ」を目指す
公私混同が良くないと考える会社もありますが、心理的安全性を高めるには、まず「仲良しクラブ」のような関係性を目指すのも一つの手法です。
効果的なのが、チームで共同作業をすることです。スポーツや料理など、体験を共有することで、人の心は近づきやすくなります。
リモート下では、オンラインゲームをメンバーでやってみるのも良いでしょう。普段はおとなしいメンバーが意外なジャンルで脚光を浴び、チーム内で交友関係が深まる、ということもあります。
◆オーバーリアクションを心がける
対面と違い、オンラインでは顔を合わせていてもトーンや微妙なニュアンスが伝わりにくい傾向があります。身振りや手振りを加えるなど、若干オーバーなくらいのリアクションを取ったほうが意図は伝わりやすくなり、コミュニケーションが活発になります。
◆休憩時間もオンラインで会話できるルームを開放する
毎回でなくとも、休憩時間のあいだ、オンラインのミーティングルームを閉じずに開放しておくのも良い方法です。食事やお茶を飲みながらの雑談や、会話には参加せずに画面オフで聞いているだけでも、共通の話題を見つけることができ、別の場での会話のとっかかりになる可能性が高まります。
また、自分の映像の背景を好きなスポーツチームにしてみるなど、趣味をアピールすることで、メンバーと仕事以外の共通点を見つけるきっかけになることも多いようです。
◆全員が発言する
オンラインミーティングでは、「1人3回は発言すること」などルールを設け、平等に発言できる場を作りましょう。発言が少なかった人も、回数を重ねると慣れてきて、今まで言いづらかったことも伝えられるようになるケースは多くあります。
チームのパフォーマンスを左右する鍵となる心理的安全性。リモート下だからと諦めず、工夫しながらコミュニケーションを取っていきましょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年3月時点のものです。
<取材先>
株式会社アクションラーニングソリューションズ代表取締役/一般社団法人日本チームビルディング協会代表理事 齋藤秀樹さん
富士通勤務を経て、人材組織開発コンサルタントとして独立。ジョージワシントン大学大学院人材開発学部マイケルJ.マーコード教授より直接、アクションラーニングコーチ養成プログラムを受け、株式会社アクションラーニングソリューションズ設立、代表取締役に就任。中小から大手・外資系企業のコンサルティングで実証された組織開発の有効性を広めるために一般社団法人日本チームビルディング協会(JTBA)設立、代表理事に就任。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト