人材派遣を依頼する前に知っておきたい基礎知識

派遣社員に指示をする社員のイメージ

人材派遣は広く普及している働き方ですが、そもそもどのような仕組みや特徴があるのかを企業が理解する必要があります。人材派遣において禁止されている業務や派遣できる期間など、企業が人材派遣を依頼する前に知っておきたい基礎知識について、うたしろFP社労士事務所の代表である、社会保険労務士の歌代将也さんにお聞きしました。

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人材派遣とは

人材派遣とは、派遣会社(派遣元企業)と雇用関係にある派遣社員を、実際に働く企業(派遣先企業)に派遣してもらい、労働に従事させることを指します。労働者派遣法第2条では「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることを業として行うこと」と定められています。つまり、派遣社員が労働契約を結ぶのは派遣元企業であり、派遣先企業に労働を提供するものの、派遣先企業と派遣社員の間に雇用関係はありません。
 

派遣元事業主と派遣先A社は派遣契約にある。派遣元事業主と派遣労働者は労働契約にある。派遣労働者と派遣先A社は仕事上の指揮命令関係にある。派遣元事業主は派遣労働者に賃金を支払う。派遣労働者は派遣先A社に勤務する。「派遣元事業主の皆さまへ 労働者派遣を行う際の主なポイント」(厚生労働省 都道府県労働局)をもとに作成

禁止されている業務

人材派遣により利用することができない業務とその理由として、下記の5つが挙げられます。
 
(1)港湾運送業務
港湾における、船内荷役・はしけ運送・沿岸荷役やいかだ運送、船積貨物の鑑定・検量等、港湾労働法第2条第2号に規定する港湾運送の業務。
 
理由:港湾運送業務は業務量の格差が激しく、循環的に業務が発生するため、港湾労働法で港湾労働社派遣制度が定められており、新たに労働システムを導入する必要がないことから。
 
(2)建設業務
建築工事現場における、土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体の作業等に係る業務。
 
理由:(1)と同様の理由により、建設業務労働者就業機会確保事業制度がもうけられているため。
 
(3)警備業務
事務所・住宅・興行場・駐車場・遊園地等の施設での事故発生や、運搬中の現金等に係る盗難等を警戒・防止する業務。
 
理由:警備業法上、請負形態による業務が求められているため。
 
(4)病院・診療所などにおける医療関連業務
医師、歯科医師、薬剤師、保健婦、助産婦、看護師・准看護師等の業務。ただし、紹介予定派遣や、病院・診療所等以外の一部の施設などでの業務は例外となる。
 
理由:患者に対して適正な医療を提供するには、人材の知識・経験とチームでの意思疎通が重要視されるため。
 
(5)弁護士・司法書士などの士業
弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士等の業務。ただし、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、行政書士等の業務では一部で労働者派遣が可能。
 
理由:士業は資格保有者個人が業務を請け負うことから、指揮命令を受けることがないため。

期間制限とは

2015年に労働者派遣法が改正されて以降、同年9月30日以降に労働者派遣契約を締結・更新した派遣労働者は、同じ派遣先企業の事業所で3年を超えて働くことはできません。ただし、同じ会社でも異なる部署へ異動した場合は、期間を超えても働くことができます。また、派遣先企業が派遣先の事業所の過半数労働組合などから意見を聞いた上で、3年を限度として派遣可能期間が延長されるケースがあります。
 
下記のケースでは、期間制限は適用されません。

 

  • 派遣社員と派遣元企業が無期雇用派遣契約を結んでいる
  • 派遣社員の年齢が60歳以上
  • 期限のあるプロジェクトに従事している
  • 日数が限定されている業務に従事している
  • 産休や育休、介護休業取得中の社員の代わりとして働いている

派遣基本契約と個別派遣契約とは

派遣元企業と派遣先企業の間で締結される労働者派遣契約には2種類あります。
 

◆派遣基本契約

派遣先企業と派遣元企業が取引を行う旨の契約で、派遣料金や双方の義務、禁止事項、損害賠償などの取り決めを定めて両者が合意して締結します。
派遣基本契約については、労働者派遣法では締結や保管が義務付けられていません。しかし企業間のトラブルを回避するために締結するケースが多く見られます。

 

◆個別派遣契約

個別契約は、派遣労働者を守るための契約といえます。基本契約を締結した上で、派遣労働者を受け入れる際に個別の就業条件などを定める契約です。こちらは労働者派遣法で締結・保管が義務付けられており、派遣日や派遣先の場所、業務内容、就業時間など、労働者派遣法第26条に定められた内容を盛り込む必要があります。派遣先企業は、この契約内容に従って派遣社員を指揮命令する必要があります。

時間外労働や36協定の扱いは?

◆時間外労働と36協定の考え方

労働時間の上限は原則1日8時間、週40時間と定められており、会社が労働者の代表と協定を結ぶことで、時間外労働が可能になります。時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間であり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることは認められていません(労働基準法36条4項)。「特別条項」と呼ばれる、臨時的な特別の事情があり労使が合意する場合でも、以下を守る必要があります。
 

  • 時間外労働が年720時間以内であること
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であること
  • 時間外労働と休日労働の合計について、2カ月平均・3カ月平均・4カ月平均・5カ平均・6カ月平均が全てひと月当たり80時間以内であること
  • 時間外労働が月45時間を超えるのは年6カ月を限度とすること

この決まりは全ての被雇用者に当てはまるため、派遣社員にも該当します。
 

◆派遣社員と派遣元企業の間で結ぶ

36協定は従業員と雇用主の間で結ぶため、派遣社員の場合は派遣元企業との間で締結する必要があります。

人材派遣を依頼する際の注意事項

◆「同一労働同一賃金」を意識する

雇用形態の違いによる待遇の格差をなくすための制度「同一労働同一賃金」が導入・推進されています。派遣先企業は、同等の業務を行っている派遣社員と正社員との間で、理由なく待遇に差をつけないよう注意する必要があります。
 

◆個別派遣契約に沿って働いてもらう

派遣社員が派遣先企業で働く際の業務内容や就業時間、休憩の取り方のルールなどは、全て個別派遣契約に沿う必要があり、契約内容と異なった業務などに従事させると、トラブルにつながるケースもあります。派遣個別契約の内容は現場の責任者にも共有するなどして、派遣社員に契約通りの条件で働いてもらうことが重要です。
 
人材派遣の依頼を検討する際は、仕組みや必要な契約などを正しく理解し、どのような仕事を任せたいのか、どれくらいの間働いてもらいたいのかなどのビジョンを明確化して慎重に依頼を進めましょう。

 

※記事内で取り上げた法令は2023年1月時点のものです。
 
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也さん
大手製紙メーカーで人事労務、経営企画、財務、内部統制、労働組合役員など、様々な職種や業務を経験し、在職中に社会保険労務士やFPの資格を取得。退職後、2019年に「うたしろFP社労士事務所」を開設し、人事・賃金制度作成のアドバイスや、各種研修・セミナー講師などを行っている。
 
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


 
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