多様性の尊重やプライバシー保護にも「ビジネスネーム」導入のメリットと注意点

名刺交換をする男性のイメージ


公私を区別したい、ネット上に氏名を公開することに抵抗があるなどの理由で、戸籍上の氏名と異なる「ビジネスネーム」の利用を社員から望まれるケースがあるようです。ビジネスネームを仕事に使いたいと社員から申し出があった場合、企業はどんな対応をとればよいのでしょうか。社会保険労務士の佐藤律子さんに伺いました。

 
 

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ビジネスネームを導入するメリット~多様性を認め合う土壌形成や、社員のプライバシー保護として


――企業でビジネスネームを利用する事例には、どのようなものがありますか。
 
ビジネスネームの運用がされている事例としては、まず婚姻後の旧姓利用が挙げられます。婚姻後名前が変更になると、社内外での呼び名が変わることにより、同一人物として認識されづらくなってしまうデメリットがありますので、幅広い企業に導入されている事例です。
 
次に、公私の区別や社員のプライバシー保護を目的にビジネスネームを利用する事例があります。ライターなどインターネット上に氏名が公表される業務に従事している社員や、レストランなど直接顧客対応をする社員が、仕事上の氏名としてビジネスネームを利用することがあります。
 
あわせて、近年ではLGBTQを始めとした多様性を認め合うという視点から、ビジネスネームの利用を導入する企業も増えています。これは、様々な理由から戸籍上の氏名で働くことに違和感を覚える場合や、認知バイアスによる仕事上の不都合を排除することが目的です。
 
さらに、副業・兼業が広がったことにより、複数の企業で働く人も増えています。自分のなかでのシーンや立場を使い分けるために、ビジネスネームを使うこともあるようです。この場合、A会社では戸籍上の氏名、B会社ではビジネスネームといった使い分けをすることになります。
 
――ビジネスネームを導入することで、企業にはどのようなメリットがありますか。
 
企業のメリットとしては、社員が抱える様々な事情や多様性に配慮した制度を整えているということを対外的に示すことができます。
 
戸籍上の氏名ではなく、ビジネスネームを使いたいと申し出る社員は、様々な背景を抱えています。社員一人ひとりの背景を認め合い、支え合うことができる土壌を整えていると、企業活動としてアピールできますね。
 
SDGsのゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」やゴール10「人や国の不平等をなくそう」にもあるように、誰一人取り残さないということがSDGsの全体に貫かれているモットーです。今後、企業が社員の多様性を認め、一人ひとりがその人らしく働くことができる組織風土の醸成が求められると思います。
 
また、とある企業ではビジネスネーム制度を企業のブランディングに活用しています。「日常からスイッチを切り替え、プロ意識で仕事をする」という、行動指針のアピールにつなげています。
 
――一方、ビジネスネームを使いたいと申し出る社員には、どのようなメリットがありますか。
 
社員のメリットとしては、個々人が持つ様々な背景に対する事情や、認知バイアスを取り払い、その人らしく働くことが可能になることです。また、インターネット上に様々な情報が拡散される時代ですので、公私を区別しプライバシーを保護できるというメリットも挙げられます。
 
――公私の区別をつける側面でビジネスネームを使いたいと申し出る社員には、どのような気持ちがあるのでしょうか。
 
たとえば「この会社で働いていることを知られたくない」という気持ちがあります。社員によっては家庭の様々な事情でそのような気持ちを持つ人もいます。先程申し上げた、副業・兼業で複数の企業に属する場合も、公私の区別をつけるという目的に当てはまるでしょう。
 
店頭に出て顧客と直接応対する業務では名札をつけることがありますが、従業員の顔と名前がお客様にわかってしまいます。そこで、プライバシー保護の側面からビジネスネームを利用したいという申し出があるようです。

 
 
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ビジネスネームを導入するシーン~行政手続きは戸籍上の氏名で行う


――ビジネスネームを企業で導入する場合、どのようなシーンで利用できるのでしょうか。
 
一般的には、仕事で使う名刺・書類・メールアドレスなど幅広いシーンで利用できます。
 
逆に、戸籍上の氏名で取り扱いが必要なシーンは、行政手続きです。たとえば、年末の確定申告や、社会保険に関する手続き、マイナンバーが必要な手続きについては、ビジネスネームの利用はできません。また、企業が整備する労働者名簿も戸籍上の氏名で記載します。
 
――人事労務上の取り扱いはどのようになるのでしょうか。
 
企業によって対応がまちまちですが、人事システムの氏名は戸籍上の氏名を登録することが多く見受けられます。システムによってはビジネスネームが登録できる欄がありますので、そちらでビジネスネームを管理している事例もあります。
 
クラウドの人事システムなどでも、近年ビジネスネームを登録できるように仕様変更がされているので、ここからもビジネスネームのニーズは高いことが読み取れます。

 
 

「戸籍上の名前とビジネスネームを結びつける」管理に注意


――ビジネスネームを企業で導入するにあたって、必要な手続きはありますか。
 
まず、ビジネスネームを利用したいという社員は、戸籍上の氏名を利用したくないという、何かしらの事情や背景を抱えています。人事担当者としては、その事情や背景に理解を示すことが必要です。
 
社内の手続きとしては、ビジネスネームを利用するにあたって申請書等を提出してもらうことが一般的でしょう。申請書等にはビジネスネームが利用できる範囲や、戸籍上の氏名で行うことになる手続きについて記載し、ビジネスネームと戸籍上の氏名を使うシーンについて、社員と認識合わせをします。
 
あわせて、戸籍上の氏名を確認するために、住民票記載事項証明書の提出を求めることが多いですね。
 
――ビジネスネームの運用にあたって、人事担当者が気をつけることはありますか。
 
ビジネスネームの利用を申し出た社員のビジネスネームと、戸籍上の氏名を同一人物として管理することが重要です。
 
人事システムでビジネスネームと戸籍上の氏名を同一人物として管理しておくことはもちろんです。書面を使って行う業務は特に注意しましょう。ビジネスネームを利用している人の戸籍上の氏名がわからない場合、書類が紛失したり、誰の書類かわからず手続きが宙に浮いてしまったりすることもあります。
 
特に、人事担当者が異動したときや、新入社員が入社した際には注意が必要です。ビジネスネームを利用している社員の取り扱いについて、しっかり引き継ぎをしましょう。
 
たとえば、後任の担当者が、ある社員についてビジネスネームを利用していることを知らず、同一人物であるにも関わらずビジネスネームの書類と戸籍名の書類の2種類が存在してしまう、といったことが起こり得ます。
 
また、まれですが、社員のプライベートに関することで、行政から照会が入ることがあります。たとえば、税金の滞納や警察が関わる事件が起きたときです。そのようなときにも社員の戸籍上の氏名で連絡が入りますので、戸籍上の氏名を把握していないと、誰のことなのかわからず、混乱に繋がります。
 
――ビジネスネームを使う社員の同僚や上司との関係で気をつけることはありますか。
 
ビジネスネームを利用している社員の場合、その社員の同僚や上司はビジネスネームのほうで日常的なコミュニケーションをとることになります。
 
ビジネスネームを利用している社員に、人事から戸籍上の名前で書かれた書面を渡す必要があるときは、特に情報管理に気をつける必要があります。戸籍上の氏名を同僚や上司に知られたくない、という社員もいるためです。
 
たとえば、その社員に関する書面は必ず本人に手渡しをするとか、透明なファイルを使わない、書類の前に1枚白紙をいれるなど、戸籍上の氏名が社員の同僚や上司に伝わらないように、そして確実に本人に渡るような配慮が求められます。

 
 
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「ビジネスネームを使いたい」申し出の背景を考える


――ビジネスネームの導入は、社員の多様性を認める、プライバシーを守るなど様々な観点に広がるものですね。
 
繰り返し申し上げたとおり、ビジネスネームを使いたいと申し出る社員には何かしらの事情や背景があります。
 
人事担当者としては、「働きやすい職場づくり」のために企業に求められていることや、社員一人ひとりが持つ事情について理解しようとすることが必要なのではないでしょうか。
 
ちょっとした無意識の言動が、その社員の生きづらさにつながることもあります。「理解をしよう」「学ぼう」という姿勢が、一人ひとりの個性や能力をいかし、生き生きと働くことができる職場づくりにもつながると思います。

 
 
 

<取材先>
りつ社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 佐藤律子さん
滋賀県彦根市出身。大学卒業後装置製造業にて、主に要員管理と教育体制整備、評価制度構築等の人事労務業務に一貫して携わる。2018年、りつ社会保険労務士事務所を開設。実情に合わせた柔軟な施策をとることを第一にし、企業の人事制度構築と安全衛生遵法体制整備をサポートしている。
 
TEXT:米澤智子
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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