採用活動を始める前に、必要な4つの準備
事前に準備せずに採用活動をしてしまうと、選考に迷いが生じ、良い結果に結びつかないばかりか、応募者とトラブルになってしまう危険性もあります。最低限「人材像」「労働条件」「就業規則」「採用コスト」の4点は定めておくようにしましょう。
◆求める人材像を定める
希望する人材像は、採用活動における最大の指針です。どんな業務内容を担当して欲しいのか、そのためにはどんなスキルが必要なのかを明確にすることで、今求める人材像が浮かび上がってくるはずです。担当業務や求めるスキルについては、現場のスタッフや社員へのヒアリングも有効です。
◆労働条件を決める
採用の際、事業者は労働者に労働条件を伝えなければなりません。
募集時点で明示が必要な労働条件
・業務内容
・契約期間(期間を定めるのかどうか、定める場合の満了時期)
・試用期間
・就業場所(勤務地)
・就業時間(始業および終業時刻、休憩時間、休日、残業の有無)
・賃金(試用期間で増減がある場合はその金額を併記)
・加入できる保険
・雇用形態(派遣労働者として雇用する場合)
・募集者の氏名または名称(〇〇株式会社など)
◆就業規則を定める
常時10人以上の労働者を雇用する会社の場合、就業規則を作成する義務があります。規則の内容としては必須の項目は以下のとおりです。
・始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇
・就業時転換に関する事項(交替制勤務の場合)
・賃金に関する事項
・退職に関する事項
◆採用コストを計算する
選考のプロセスはもちろん、採用を決めた後、正式にその人材を雇用するにあたっても費用がかかります。希望する人材像と掛けられるコストを計算し、採用人数や労働条件が妥当なものかを必ず確認しておきましょう。
従業員にかかる主要コスト
- 採用にかかる費用
- 給料
- 保険料
- 教育費用
- 福利厚生 など
採用を始める前に準備すべきことについて、より詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
人材の採用を始める前に準備すべきこと
自社の強みと弱みを知ることが、採用活動を成功に導く
採用活動において、求職者に「自社の強み」を聞かれることは少なくありません。そうした質問への準備というだけでなく、求人情報の作成にも自社の「強み」と「弱み」を知っておくことは大いに役立つはずです。
◆採用活動に必要となる「自社の強み」
ここ数年、求職者有利の売り手市場が傾向として続いています。そういったな状況において求職者が就職先を決めるポイントとなるのが応募先企業の強み、つまり「自社の強み」です。「自社の強み」を認識した上で効果的にアピールしなくては、求職者に選ばれる理由がなくなってしまうので注意が必要です。
なお「自社の強み」としてアピールできるポイントは年々変化します。特に近年は仕事のやりがいや、その会社で働くことの社会的意義といった「意味報酬」を重視するといったケースも少なくありません。求職者の志向を敏感に読み取りながら、自社のどの特徴をアピールするかを決めていきましょう。
◆「キャリア形成エピソード」は、代表的な「自社の強み」
企業が「自社の強み」としてアピールできる代表的な要素の一つとして、求職者にとって「どんなキャリアを築ける会社なのか」が挙げられます。なるべく多くの既存社員やスタッフに、自社で働き始めてからどのようなキャリアを築いているのかをヒアリングすることで、幅広く求職者にアプローチすることが出来るようになります。
入社後3〜5年ほどのスタッフに以下のような質問をしてみると良いでしょう。
・「以前」に関して
(1)学生時代はどんなことに興味があり、どんな生活を送っていたか
(2)どんな就職活動を行って、自社に入ったのか、何が決め手だったのか
(3)入社後に苦労したことは何か、その時誰に助けられたか、会社のサポートはあったか
・「今」に関して
(4)(3)の結果、どうなったか、どんなことに成長を感じているか
(5)今の課題は何か
・「これから」に関して
(6)自分の将来像
「自社の強み」の見つけ方について、詳しくはこちらをご覧ください。
採用につながる「自社の強み」の見つけ方
「SWOT分析」で、強みだけでなく、弱点も見つけよう
企業として競合他社との差別化ポイントを明確にするための代表的な手法として「SWOT分析」があります。以下のように、自社の内部環境要因と外部環境要因について、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)という4つの象限で分析することからその名がつけられています。
内部環境要因
・強み(Strength)自社における強みとなる人材、ノウハウ、機能、技術、体制などの経営資源
・弱み(Weakness)競合と比べて見劣りしていたり、不足していたりする経営資源
外部環境要因
・機会(Opportunity)好景気、技術革新、トレンドの変化など、企業にとって追い風となる要因
・脅威(Threat)自社の努力だけでは防ぎようのないリスク。市場環境の悪化や法規制などの悪影響の要因
この手法を用いることで、「自社の強み」だけでなく「弱み」を知ることができます。そのポイントについて対策を立てることもできますし、求職者によってはその「弱み」を「強み」と感じてもらえる場合もあるため、自社のことを多面的に理解することは重要です。
より詳しい分析の方法や実際の活用例など、SWOT分析について詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
SWOT分析とは? 採用に活かす自社分析法
採用手法の選び方
現代において、人事担当者が求職者にアプローチする手法は多岐に渡り、選択が非常に難しいものとなっています。それぞれの手法には、メリット・デメリットがあり、自社の状況に合わせた選択が必要です。代表的な手法を、メリットとデメリットと合わせて紹介します。
◆主な採用手法
・求人媒体への出稿
企業の採用活動と聞いて、こちらをイメージされる方が多いのではないでしょうか。インターネットの求人サイトをはじめ、新聞の折り込みチラシ、タウン誌などに自社の求人情報を掲載します。
メリット:アルバイトから正社員まで、幅広い採用形態をカバーできる
デメリット:競合企業の情報に埋もれてしまう、媒体によって読者層に偏りがある
・ダイレクトソーシング
企業側が候補者に直接アプローチするのが「ダイレクトソーシング」です。自社の採用サイトやSNSでの募集がこれに該当します。企業として伝えたいことを自主的に発信していくことで、より自社に合った人材の採用を狙う手法として、近年注目されています。
メリット:他の手法に比べコストが低い
デメリット:ターゲットへのアプローチなどに手間がかかる
・転職エージェント
提示した条件に合わせて、人材を紹介してくれるのが「転職エージェント」です。
メリット:社内の手間がほとんどかからない
デメリット:内定者の年収30~40%程度のマージンが平均して発生する
・リファラル採用
社風や実際の業務を理解している既存の社員から、友人や知人を紹介してもらうのが「リファラル採用」です。
メリット:入社後にミスマッチが起こりにくい
デメリット:社員任せとなるため、早急に採用したい場合には不向き
これらの中から、例えば、既に人手が不足している状況で、ダイレクトソーシングを選択してしまうと更に現場を圧迫してしまうため、エージェントに依頼するのがおすすめです。また、自社が求める人材と出会うチャンスを最大化するためには、コストが許す限りできるだけ複数チャネルを組み合わせて利用するべきでしょう。
それぞれの手法の詳しい特徴や選択のポイントについて、より詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
採用チャネルとは? 自社に合う手法を選ぶためのポイント
求人の応募数が少ない場合の対処法
しっかりと自社の強みを分析して求人情報を作成しても、すぐにたくさんの応募が来るとは限りません。またせっかく応募が来ても求めている人材像とのミスマッチが起きてしまうことも少なくないでしょう。人事担当者の悩みの解決法をご紹介します。
◆自社の採用サイトや求人広告に書かれた求人情報を見直そう
応募数が少ない場合、求人情報の内容やアプローチの方法に問題がある可能性が考えられます。
・求める人物像をできるだけ具体的に描く
→イメージできない場合、自社で成果を上げている社員の共通点や特徴をリストアップしましょう。
・求める人材にアプローチできるチャネルであるかを見直す
→若手を求めているのに新聞に折り込み広告を出してもあまり効果は見込めないでしょう。どのチャネルが最適か改めて検討しましょう。
・求める人材が魅力的に感じる情報を書き出す
→年収やキャリア形成、福利厚生など、求める人材がどんな条件を魅力的に感じるかを想像し、求人情報でアピールしましょう。
◆会社説明会を、社風を伝えるイベントにする
会社説明会を行う場合は、単なる“説明”で終わらないようにしましょう。基本的な情報だけならば、採用サイトや求人情報を見ればわかります。社員との座談会や、オフィス見学など、文字情報では伝えられない社風や社員の雰囲気を伝えられるイベントを企画してみましょう。
採用活動に躓いた際の対処について、より詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
人材募集の際、人事が抱える課題とその解決法は?
採用のミスマッチを防ぐために
厚生労働省発表の「新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)」によると、新卒入社で3年以内に離職した人は大卒で32%、高卒では39.2%。せっかく採用に至っても早期退職されてしまっては、また新たに募集から始めなければならず、大きなコストがかかってしまいます。そうした「採用のミスマッチ」が起こる理由と、その対策をご紹介します。
◆採用後にミスマッチが起こる理由
・入社前に抱いたイメージと異なる
一般的に採用活動に際して、企業は自社の良い面を強くアピールします。さらに求職者も求人情報に記載された良い条件に目を向けがちということもあり、その企業に対して「良いイメージ」ばかりが先行してしまう可能性があります。自社の魅力等を過大にアピールすることは避けましょう。
・経歴や学歴、成果だけを見て採用する
優秀な人材だからといって、どんな会社でもその力を発揮できるとは限りません。自社の経営理念や社風に合うかどうか、面接やその他の選考プロセスを通して判断しなければなりません。
◆ミスマッチを避けるために準備するべきこと
・採用基準を明確に
「どんな人材」を「いつまで」に「何名ほど」採用したいのかを明確にすることで、求める人材に焦点を絞ったアプローチができるようになります。採用したい人物像を設定し、ターゲットに届く求人媒体や採用手段を選定しましょう。
・会社のデメリットも伝える
先述の通り、入社前に良いイメージだけが大きくなってしまうと、入社後にミスマッチが起こってしまう危険性が高まります。面接時など、あらかじめ自社のデメリットや課題もきちんと伝えておくようにしましょう。
・SNSを使って“会社の日常”を発信する
SNSの投稿を通して、会社の雰囲気や日常的な業務内容を発信することもおすすめです。求職者とのタッチポイントの増加に加え、質問への回答など求職者との直接的なコミュニケーションでからの質問に答えたりすることで、自社への共感を高めるといった効果も期待できます。
ミスマッチを防ぐポイントについて、詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
採用時のミスマッチを防ぐ人材探しのポイント
事前に対策と準備を徹底し、採用のミスを減らす
以上、採用を始める前にしておくべき基本的な準備から、採用がうまくいかない場合の原因と対策をご紹介しました。
売り手市場の傾向があることもあり、企業側が「採用する」ではなく、求職者に「選ばれる」というスタンスで採用活動を行うことが大切です。漠然と自社の希望を伝えるのではなく、求職者目線に立った情報発信で、自社に合った人材の採用を目指しましょう。