糖尿病があっても安心して働ける職場づくりとは

糖尿病のお薬と血糖値のグラフ


「糖尿病」という病名はよく耳にするものの、その症状や治療法について正しく知識を持たず、間違った偏見や思い込みを持つ人も少なくありません。糖尿病を患う従業員に対して、治療と就労を両立させるために企業ができることは何でしょうか。国立国際医療研究センター糖尿病情報センターのセンター長・大杉満さんが解説します。

 
 

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糖尿病は症状を自覚しづらい病気


――糖尿病とはどんな病気ですか。
 
糖尿病は膵臓から出るインスリンというホルモンが十分に働かないために、エネルギーとして使われる糖が細胞に取り込まれにくくなり、血管の中に糖があふれてしまう病気です。血液内のブドウ糖濃度「血糖値」が何年間も高いまま放置されていると、血管が傷つき、心臓病や失明、腎不全、足の切断といったより重い病気(糖尿病の慢性合併症)につながります。
 
――失明や足の切断の可能性がある、怖い病気なのですね。
 
確かに糖尿病の合併症には非常に深刻なものがあります。ですが、こうした合併症が生じるのは、糖尿病と最初に診断されてから15~20年後であることがほとんどです。
 
糖尿病の怖さは、「最初は何の症状も感じない」ことにあります。日本には「糖尿病が強く疑われる人」が約1000万人、「糖尿病の可能性が否定できない人」も1000万人ほどいます。しかし、その半数は自覚症状が全くないと言われています。
 
健康な人の血糖値は普段なら100mg/dL以下、食後には140mg/dLくらいまで上がることがあります。食後2時間の血糖値が200mg/dL以上だと糖尿病と診断されますが、実は200mg/dLでも本人は体に不調を感じない、ということが珍しくありません。症状を自覚しづらいがゆえに治療のスタートが遅れ、気づいた時には合併症が進行していたということもあります。

 
 
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症状が出ていなくても、早期治療が重要


――糖尿病の治療法にはどんなものがありますか。
 
まず、糖尿病には大きく分けて「1型」と「2型」の2種類があります。
 
「1型」は膵臓のインスリンを出す細胞(β細胞)が壊され、インスリンが全く分泌されない、あるいはほんのわずかしか分泌されなくなるものです。糖尿病全体の5%程度の人が1型です。1型の場合はインスリンを体外から注射で補給して血糖値を下げます。最近はペン型のインスリン注入器がありますので、患者が自分で手軽に注射することができます。
 
糖尿病患者のほとんどは「2型」の糖尿病です。膵臓からインスリン分泌が障害されている(タイミングよく分泌されない、血糖を低下させるには十分でない)ことに加えて、インスリンが十分作用せず細胞への糖の取り込みが上手くいかないタイプです。2型の治療では、食事の栄養バランスを整える食事療法と体を適度に動かす運動療法を中心に、服薬を組み合わせることが多いです。
 
――普段から食事や運動に気を付けていれば、2型の糖尿病にはならないということでしょうか。
 
実はそうとは言い切れません。2型糖尿病の原因の半分は「体質」です。インスリンが出にくかったり、その作用が十分でなかったりする体質の人は生活習慣に関わらず糖尿病になりやすいのです。また、たくさん食べる人や運動不足の人が必ず糖尿病になるとも限りません。もともとの体質に、肥満や運動不足といった要因が重なって血糖値が上がりやすくなることが糖尿病の原因です。
 
しかし、糖尿病は「ぜいたく病」や「怠惰な生活が原因」といった誤解や悪いイメージを持たれていることが少なくありません。そのために糖尿病であることを周りに隠し、自分が糖尿病だと認められずに受診が遅れてしまうことがあります。
 
糖尿病の研究が進み、今では薬の種類もたくさんあります。それぞれの症状やライフスタイルに合わせた治療法の選択肢も増えました。糖尿病を早期に発見し、医師の指導のもと正しく治療を続ければ重篤な合併症を引き起こすことはほぼありません。重症化を防ぐためには、自覚できる症状がなくても早くから治療を始めることが何よりも大切です。

 
 
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職場で必要な取り組みは? 糖尿病に対する偏見を無くす


――糖尿病の人が「低血糖」になって急に倒れてしまう、という症状について聞いたことがあります。職場でも起こりうることでしょうか。
 
インスリン注射をしている人や血糖値を下げる薬を服用する人の中には、血糖値が下がりすぎて体に不調をきたすことがあります。中でも意識を失ってしまうような症状を起こす低血糖は「重症低血糖」と呼ばれています。
 
低血糖の自覚症状がある場合はブドウ糖を摂取するなどして対処することができます。本人の意識がはっきりせず、ブドウ糖を口から摂れない場合は「グルコガン点鼻薬」という、鼻腔に挿入するタイプの薬を使います。1型糖尿病の人や重症低血糖になったことがある従業員がいる場合は、本人にいざという時の対処法を確認して周囲もサポートできるようにしておくことが望ましいでしょう。
 
また、重症低血糖のおそれがある人は高所作業に従事することは避けた方がいいと考えます。過去に意識を失うほどの重症低血糖になった事がある人は、車の運転免許が制限されることがあります。日常的に運転を伴う業務がある場合も確認が必要でしょう。
 
――他にも、糖尿病のある人が働く上で支障になることや、苦労されることはありますか。
 
重症低血糖を引き起こすのは、まれな例です。ほとんどの場合は、糖尿病のために日常生活や仕事が制限されることはありません。体調が安定していれば通院は2カ月から3カ月に一度のペースがほとんどですし、終業後や土曜に通院するのであれば、治療のために必ずしも仕事を休む必要もありません。
 
しかし先述したように、糖尿病には良くないイメージを持たれている側面があるために、周りに糖尿病を打ち明けづらいと感じる人もいます。食事療法中の人は職場の会食に出づらかったり、休憩時間にお菓子を食べることを控えたりする場合もあるでしょう。そういった時に「なぜこの人は食べないの?」という目で見られたり、「糖尿病=自己管理ができない人」と思われたりするのではないかと心配して、病気を打ち明けられないという人もいます。病気の症状や治療そのものが仕事に影響することは少なくても、糖尿病に対する偏見によって働きづらさを感じる人が多いのではないでしょうか。
 
――企業が従業員の糖尿病の治療をサポートするためにできることはありますか?
 
健康診断では、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)という値を測る検査があります。過去1~2カ月分の血糖値の状況が分かる値です。健康診断の必須項目ではありませんが、糖尿病の早期発見につながるとして検査項目に取り入れる企業が増えています。企業によっては健康診断で血糖値やHbA1cの値が高いのに、再検査や通院をしている形跡のない従業員に、産業医から受診を勧める取り組みをしているところもあるようです。
 
また、夜勤や長時間勤務、強いストレスが継続する環境は糖尿病が悪化する要因になることも知られています。急に職場環境を変えることは難しいかもしれませんが、定期的なストレスチェックや、確実に休暇や休息が取れる仕組みづくりも大切です。
 
そして何よりも従業員の皆さんに糖尿病に対して正しい知識を持ってもらうことが必要です。糖尿病情報センター糖尿病ネットワークのサイトでは糖尿病全般について分かりやすくまとめられています。こうしたサイトも参考にしていただき、職場全体で糖尿病患者に対する偏見をなくしていくことが大切です。

 
 
 

<取材先>
国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター
センター長 大杉満さん
日本糖尿病学会専門医。東京大学医学部卒。糖尿病のみならず、内分泌疾患、肥満症の臨床及び、新規治療法の開発、糖尿病に関する情報提供を行っている。
 
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト

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