中途採用から「経験者採用」へ 人材確保のために把握したい採用トレンド

経験者採用者を面接しているイメージ

2022年11月、一般社団法人日本経済団体連合会(以下、経団連)が「中途採用」という表現を「経験者採用」に変更するよう、会員企業に呼びかける方針を示しました。時代に応じて用語が変化したり、新たな手法や用語が生まれたりする就職・転職業界。採用トレンドや人材確保のために押さえておくべきポイントについて、学生の就職活動に詳しい大学ジャーナリストの石渡嶺司さんにお聞きしました。

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「中途」という言葉の否定的な印象を改める

――経団連が、中途採用という表現を経験者採用に変更するよう、会員企業に呼びかけています。その背景にはどのような理由がありますか?
 
「中途」という表現が否定的な印象を与えるからでしょう。最近では結婚や子育て、介護、リカレント教育や留学など、様々な理由でキャリアを中断する人が増え、転職自体も当たり前になりつつあります。こうした状況で「中途」という表現を使うのはネガティブな印象を与える、用語を変更することで多様な人材確保につなげたい、という考え方から変更に至ったのだと私は見ています。
 
――しかし、経験者採用という言葉には「経験者のみの募集」というニュアンスが含まれてしまうような気がします。未経験でもやる気がある人が応募しづらくなるのでは?
 
確かにそうですね。「経験者採用」を掲げると、未経験だけどポテンシャルがある人を見落としてしまうかもしれません。そういったリスクを予測して、企業側は経団連の呼びかけに引っ張られすぎず、未経験でもモチベーションの高い人を求めている場合は、「未経験者転職」や「未経験者採用」など新たなキーワードづくりが求められるかと思います。
 
――過去にも採用に関する用語が大きく変更されたケースはありましたか?
 
古い話ですが、1990年代半ば頃から年齢制限に関する訴訟が相次ぎ、2007年10月に改正雇用対策法が施行されると、募集・採用に当たって年齢制限を設けることができなくなりました。歴史を遡ると採用にまつわる用語が消えた事例もありますが、用語の変化というよりは、採用の手法や潮流が登場することで新たな採用用語が生まれるケースが多い印象です。


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逆求人、リファラル採用など様々な手法も

――近年はどのような新しい採用手法が登場していますか?
 
まず、「逆求人採用」や「ダイレクトリクルーティング」が挙げられます。これらは従来のように企業が求人情報を公開し、応募を待つのとは流れが逆で、求職者側が企業のサイト上やイベントなどで自己をアピールし、それを見た企業側が求職者にアプローチする手法のことです。この2つの言葉はほぼ同じ意味ですが、転職市場では「ダイレクトリクルーティング」が使われる傾向にあります。
 
これらの特徴として、通常の募集の仕方では大企業のネームバリューに押されがちな中小企業が、求職者とやりとりする機会を得られて有利になりやすい点が挙げられます。求職者の自己PRを見た上でオファーできるのでマッチング率が高くなるでしょう。通常の採用サイトでは広告費を多く出した企業が求職者の目に留まりやすいですが、ダイレクトリクルーティングでは広告費の影響が出にくくなるといった点も中小企業に有利に働くと感じています。
 
その他に「リファラル採用」という手法もあります。これは、自社の在籍社員に学生や転職希望者を推薦してもらい、選考・採用する手法です。海外では昔からあったやり方ですが、日本では2010年代後半ごろから広がりました。従業員満足度が高い企業は、社員が自社を知人などに推薦しやすく、内定承諾率や定着率が高い傾向にあります。しかし、従業員満足度が低い場合は社員が身内に紹介しにくかったり、採用しても定着しづらかったりするので、企業によって成否が分かれる点に注意が必要です。メリットは、在籍社員からの紹介なので、採用にかかる費用が非常に安いこと。一部企業では紹介した社員に報奨金を出すところもありますが、いずれにしても通常の採用にかかるコストよりはるかにかに安上がりです。
 
一度は退職した社員を改めて採用する「出戻り採用」という方法もあります。2020年前後から広がったもので、「ジョブ・リターン制度」「カムバック制度」といった呼称もあります。メリットは、自社での就業経験があるため転職者研修などが不要で、即戦力として活躍してもらえる点です。さらに、他社で培った様々な知見で社内によい影響をもたらす可能性があるでしょう。
 
――新卒採用においても新しい動きはありますか?
 
新卒採用では「就活エージェント」の動きが広がりを見せています。新卒予定の就活生にエージェントが付き、一対一でフォローしつつ企業を紹介する手法です。
 
転職エージェントサービスと同様で初期費用は発生せず、新卒の学生が内定を承諾し入社、もしくは一定期間働いた時点で、利用企業側が費用を支払います。企業にとっては初期費用がかからずに新卒の学生と接触できるのがメリットです。


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トレンドをキャッチしつつ従業員満足度を高める工夫を

――次々に新しい採用手法が生まれるなか、人材を獲得するために押さえておくべきポイントを教えてください。
 
原則として、新卒も転職も、現在は学生や求職者が有利な売り手市場です。このなかで人材を獲得し生き残っていくためには、トレンドを敏感にキャッチしながら、雇用条件を他社と比較したうえで見直していくことが必要です。具体的には給料を増やす、福利厚生をよりよくするなど、従業員満足度を高める工夫が不可欠でしょう。
 
キャッチしておきたい傾向として例を挙げると、コロナ禍を経て、合同説明会やセミナーの動員力が大きく下がっています。新型コロナウイルス感染症の影響で対面による合同説明会やセミナーはオンラインに移行したため、規制緩和後も対面の説明会への参加に求職者が戸惑いを感じているためです。また、求職者の働き方に対する意向が多用化しているので、人材が一堂に集まること自体が難しくなったということも理由に挙げられるでしょう。
 
しかし、母数が少なくても、合同説明会やセミナーの開催を調べて参加してくれる求職者は、意識が高い人材と考えられます。モチベーションが高い人材に接触できる機会と捉えるならば、効果的に活用すべきです。
 
――従業員満足度を高める施策について、雇用形態を見直しても給与を上げるのは簡単ではないかもしれません。他にも工夫できることはありますか?
 
確かに、給料を上げるのは簡単なことではないと思います。まずは、福利厚生や働き方改革につながるオンライン化を進めてみてはいかがでしょうか。たとえば、給与計算や請求書の発行業務などのオンライン化、テレワークなど新しい働き方の導入といった工夫は比較的実行しやすいはずです。もちろん初期投資は必要ですが、社員の働き方改革ができることや従業員の定着率の向上、働き方の選択肢が広がることで多様な転職者を受け入れやすくなる利点などを考えれば費用対効果が期待できると思います。

 

<取材先>
大学ジャーナリスト 石渡嶺司さん
ライター・大学ジャーナリスト。大学、教育、就職活動などをテーマに『ゼロから始める就活まるごとガイド2025年度版』(講談社)、『大学の学科図鑑 改訂版』(SBクリエイティブ)など著書多数。
 
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト

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