短大は地域の専門的な人材を養成するため、実習重視の学びを提供
――短大卒の人材にはどのような特徴があるのでしょうか。
短大は、学校教育法において「4年制大学と目的や修業年限を異にする大学」と位置づけられています。
短大は県内進学率が高く、地域に根ざした高等教育機関として、一般教養の他、職業と結びつく専門教育や実習に力を入れている点が、大学との違いです。
短大には専攻によって2年制と3年制があり、どちらも卒業すると「短期大学士」の学位が授与されます。卒業後は4年制大学への編入学もでき、大学を卒業した場合は「学士」の学位が授与されます。
3年制の短大は医療に関係する学科が多く、地域の専門的な人材養成の面から重要な役割を担っています。
4年制大学との違いは、就職後即戦力となる人材を育成するために、実習を重視したカリキュラムが組まれていることです。一方、教養系科目については、大学より2年間修業年限が短いことから、よりコンパクトに学ぶカリキュラムになっています。
大卒人材との初任給の違いは、修業年限の差から生まれている
――短大卒の人材の初任給はどのように設定されているのでしょうか。
短大卒人材の初任給は、高卒と大卒の間の初任給に設定されることが一般的です。
厚生労働省の「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況」を参考に編集部が作成
短大卒と高卒との違いは、2年間で幅広い教養を学んでいるほか、卒業後に就職する職種を見据えて専門的な内容も学んでいるという点にあります。
短大は実習に力を入れたカリキュラムが組まれているため、入社後の実務に役立つスキルを身につけています。また、簿記や医療・保育関連を始めとした、実務に必要な資格を短大在学中に取得している人材も多いです。
一方、短大卒は大卒人材と比較すると修業年限が短いため、その分学ぶ教養の面では、限られた範囲になります。
また、大卒人材は、全国から様々な人材が集まる中で揉まれたり、部活やアルバイト・インターンシップ等を経験したりすることにより、コミュニケーション能力や、困難な課題の解決策を考える力、チームで動く力を身につけています。
これらの点を踏まえると、短大卒の初任給は、高卒人材と大卒人材の間に設定することになります。また、2年制と3年制はいずれも「短大卒」として、同じ初任給を設定するケースが一般的です。
――初任給が異なることで、短大卒社員に任せる仕事と、大卒社員に任せる仕事も異なってくるのでしょうか。
一般的には、短大卒社員と大卒社員で、最初に任せる仕事は異なってきます。
短大卒社員は、大卒人材のサポートなど定型的な事務業務から始めることが多いです。
一方大卒社員は、理系であれば製品の設計や開発、文系であれば営業や企画業務に配属され、単純作業だけでなく、大学で学んだ知識・経験を生かし、応用や交渉力が必要な仕事を任されます。
事務作業でも複雑なプロセスが求められる業務など、短大卒人材と大卒人材では、任される仕事には違いがあることが多いですね。
――短大卒の初任給設定で気をつけることはありますか。
先程の厚生労働省の調査結果のような、短大卒の初任給設定を参考にするだけでなく、その人材が短大でどのような学びをしてきて、入社後にどのような仕事を任せるのか、一人ひとりやその企業の事情にあわせた初任給の設定が求められます。
採用する人材にどのような仕事を任せるのか、採用前に棚卸しをしたうえで、それに値する初任給を設定すると進めやすいでしょう。
一人ひとりの適性や職務能力と向き合い、時にはチャレンジングな仕事も任せよう
――短大卒人材は、入社後の給与設定をどのように進めていけばよいのでしょうか。
初任給は前述のとおり高卒と大卒の間の給与設定をすることが多いと思いますが、その後はその人材の職務遂行能力やキャリアプランに応じて、任せる仕事内容を検討し、その仕事内容に応じた給与設定をするのがよいでしょう。
給与設定を検討するには、まずその企業にある仕事の棚卸しと、その仕事に求められる能力や経験、それに対応する給与テーブルを整理することから始めます。
しかし、小規模な企業の場合は、給与テーブルを定めることもなかなか難しいかもしれません。その場合は、社内にいる人材をモデルケースにして比較検討するとよいでしょう。
――人材育成の面で、短大卒と大卒人材との違いはあるのでしょうか。
大卒の場合は、4年間という修了年限を通じて、自分の興味関心を深める時間にもなっています。就職活動でも幅広い職種が門戸を開いているため、自己分析や目指したいキャリア像を比較的明確にしてから就職しています。
一方、短大は2年制の場合、入学するとすぐに就職活動が始まります。短大卒の人材に対して採用の門戸を開いている職種も、大卒と比較すると限られていることや、インターンシップの機会も充実しているとはいえません。
したがって、短大卒人材は、自己分析や目指したいキャリア像の検討が不十分なまま、就職先を選んでしまっているケースも見受けられます。定期的な面談を企業で実施している場合は、面談の中でその人材が目指したいキャリア像を深掘りしてみるとよいでしょう。
――短大卒の人材を組織の成長に生かすには、どのようなことが必要なのでしょうか。
短大卒の人材に対しては、大卒人材をサポートする補助的な業務を担当させるだけでなく、時にはチャレンジングな仕事を与えてみるのもよいきっかけになるのではないでしょうか。仕事を通じて困難を乗り越えることや、自分以外の人を巻き込んで進める経験ができ、その人材が大きく成長するターニングポイントとなるかもしれません。
短大卒の人材は、修業年限が大卒より短い分、「早く社会で活躍したい」「若いうちにキャリアを積みたい」など人生観をはっきり持つ人材も多いように感じます。その人の目指したいキャリア像や人生観に丁寧に向き合いながら、一人ひとりの職務遂行能力や意欲、キャリア志向に向き合って、任せる職務内容を検討したいですね。
短大・大卒といった学歴に関係なく、その人材がもつ能力や意欲を評価し、仕事を通じて挑戦や成長できる場を整えていくことが、経営者に求められているのではないでしょうか。
そのような場を整えている企業は、最終的な学歴を問わず人材が成長し、企業価値向上にもつながっていくのではと思います。
<取材先>
りつ社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 佐藤律子さん
滋賀県彦根市出身。大学卒業後装置製造業にて、主に要員管理と教育体制整備、評価制度構築等の人事労務業務に一貫して携わる。2018年、りつ社会保険労務士事務所を開設。実情に合わせた柔軟な施策をとることを第一にし、企業の人事制度構築と安全衛生遵法体制整備をサポートしている。
TEXT:米澤智子
EDITING:Indeed Japan + ノオト