高専卒の新入社員、初任給をどう設定する?

高専卒の新入社員のイメージ

中学校卒業後から専門分野を学んできた高専卒の社員には、初任給をどう設定すればいいのでしょうか。同年代の短大卒・専門卒との違いや大卒との違い、給与設定で注意すべき点などについて、理系人材の採用実務に明るい、社会保険労務士の佐藤律子さんに伺いました。

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高専卒人材は、現場の即戦力となる高い技術力を持つことが特徴

――高専卒の人材にはどのような特徴があるのでしょうか。
 
高等専門学校(以下、高専)とは、実務に強い技術者を養成することを目的とした学校です。全国に国公私立合わせて57校あり、全体で約6万人の学生が学んでいます。
 
学ぶ内容は学校によって特色がありますが、プログラミングやロボット技術、機械工学、電子工学といった、理系実務に強い人材を中心に育成しています。
 
高専は中学校卒業後に入学ができ、5年間の一貫教育を行っています。アカデミックな理論だけでなく実験・実習を重視したカリキュラムが組まれているので、卒業後は即戦力人材として、製造業や情報通信業を中心とした企業に就職しています。
 
令和元年度の就職率も99.2%と高い水準ですので、企業からもその高い技術力が評価されていることが伺えますね。
 
高専には「本科」と「専攻科」の2種類があります。「本科」は中学卒業後5年間の一貫教育で、卒業すると短大卒と同等の教育を受けたと一般的にみなされる「準学士」の称号が与えられます。
 
「専攻科」は「本科」を卒業後更に2年間、より高度な技術教育を受け、卒業すると大学学部卒と同じ「学士」の学位を得ることができます。
 
――高専卒の人材の初任給はどのように設定されているのでしょうか。
 
高専卒人材は、「本科」か「専攻科」どちらを卒業したかによって、初任給設定も異なることが一般的です。
 
「本科」の卒業生は短大卒人材と同等の教育を修了したとみなし、初任給を設定する企業が多いようです。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」でも、高専卒は短大卒と同じ区分で調査されています。大卒の平均初任給が22万5,400円に対し、高専・短大卒は19万9,800円と、2万5,600円の開きがあります。
 
一方、「専攻科」を卒業した人材は、大卒と同じ「学士」を得ていますので、大卒の人材と同じ初任給水準を設定することが多いようです。

 
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高専卒人材の高い技術力は、入社後の能力や適性をみてから給与に反映しよう

――同年代である短大卒や専門学校卒の人材と比べて、高専本科卒の人材はその高い技術力で即戦力になるものの、初任給水準としては短大卒・専門卒と同じです。大卒人材や短大・専門卒人材との差別化はどう図ればよいのでしょうか。
 
高専卒人材は、ものづくりや情報技術において高い技術力を持っており、卒業研究や企業へのインターンシップを通じて、自ら考えて仕事をする能力も育成されています。したがって、大卒の初任給より低い水準の給与で、大卒人材より即戦力になり得る可能性も秘めています。
 
高専が開校したのは1962年で、高専卒の人材が持つ高い技術力が、日本の高度成長を支えてきたともいえます。今後はロボット技術やAI技術に対応できる人材を育成するなど、産業界からの評価はますます高まるのではないでしょうか。
 
しかし、採用した人材が企業で本当に活躍できるのか、大卒よりも即戦力になり得るかどうかは、その人の能力や適性、入社した企業との相性などもあり、一概に「大卒より高専卒のほうが即戦力になる」ともいえないでしょう。
 
人事組織の面から考えると、賃金には下方硬直性があり、一度高く設定した賃金を低くすることは難しいものです。
 
したがって高専生の初任給設定は、高専卒が短大卒に準ずる学びを修了している面を鑑み、まずは短大卒の初任給に準じた設定にすることをおすすめします。そして入社後の能力や適性をみて、早い段階で大卒人材の給与と同水準になるよう、運用できるとよいのではないでしょうか。

大卒人材との違いは、理論の習得面や配属業務の内容から生まれている

――高専卒と大卒の初任給には25,600円の開きがありますが、この差はどこから生まれているのでしょうか。
 
高専では実務を重視したカリキュラムが組まれていることが特徴で、企業に就職したあとの現場でも、すぐ手を動かして仕事をこなすことができる、現場に強い人材を輩出しています、
 
一方、大卒との初任給の差はどこにあるかというと、アカデミックな理論をどこまで学んでいるかというところにあるでしょう。
 
高専は理論と実務をバランスよく学んでいますが、より実務面での技術取得が重視されています。一方、大学はアカデミックな理論を体系的に学んでいます。
 
製造業で例えるならば、高専卒は製造現場でどう手を動かして製品をつくるかというところに高い技術力を持つため、製造部門に配属されやすいです。
 
一方大卒人材は、アカデミックな理論を習得していることから、設計や研究開発といった、より創造的な業務に配属されやすいです。
 
即戦力になるかどうかだけでなく、こういった面も評価するかどうかという点が、高専卒と大卒の初任給設定の差になっています。

高専生の高い技術力を生かしたキャリアプランが実現できる体制を整えよう

――高い技術力を持った高専卒の人材が、大卒より初任給が低いことで、モチベーション低下につながることもあるのでしょうか。
 
高専卒の就職活動は、大卒の就職活動と異なり、幅広い企業のなかから自分で選ぶというよりも、学校推薦を通じて就職先が決まることが多いです。
 
高専生は、学校から渡される求人票の情報だけを見て就職先を決める、ということもよくあります。
 
求人票に書かれた初任給が大卒人材より低いと、「高専で学んだ技術力が給与に反映されていない」と、モチベーションが下がる学生もいるかもしれません。
 
また、高専生は中学卒業の時点で「高専で◯◯の分野を5年間学ぶ」と将来を見据えた進路選択をしています。このことからも、自身がやりたい仕事やキャリアプランについては、短大・大卒人材よりもはっきりしているといえます。
 
したがって、入社後は本人の特性もみながら、実務能力を給与面で評価するほか、本人の希望も加味したキャリアプランが実現できる体制を整えることが、高専卒人材がモチベーション高く働き続けることができるために必要ではないでしょうか。
 
彼らの高い技術力や創造力を生かした、チャレンジングな仕事ができる場に配属することもよいですね。
 
能力の評価については、給与テーブルや能力評価基準を整えることができればよいですが、中小企業では難しいことも多いです。
 
そこで、その企業で働いている他の人材のキャリアパスや能力、配属されている部門で求められる仕事能力をモデルにしながら高専卒人材の能力を評価し、給与水準を設定できるとよいでしょう。

 
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高専卒人材へのアプローチは、SNS発信強化も方法の一つになる

――これから高専卒の人材を初めて採用しようとする中小企業は、どのように高専生へアプローチすればよいでしょうか。
 
高専はカリキュラムのなかで企業でのインターンシップが組まれていることから、大企業とのパイプを持っています。
 
また、先程申し上げたとおり、一般的な就職活動をせず学校推薦での就職するケースが一般的なので、学校と結びつきが強い企業へ就職することが多いです。したがって、これまで高専との結びつきがない中小企業が、高専卒人材を採用することはなかなか難しい面もあります。
 
私が支援している企業の事例ですと、アルバイト採用で学生との接触をはかったり、SNS発信に力をいれることで、学生に直接アプローチをしている企業もあります。
 
また、高専は各都道府県に1校程度の割合で作られていますが、学ぶ内容は学校によって特色があります。企業の事業内容と、企業が立地する自治体にある高専が学ぶ内容が異なる場合は、遠方の高専にアプローチすることも有効な手段ですね。
 
高専卒の人材は実務面で高い技術力を持っています。学歴だけでなく、その人材が持つ能力を評価し、挑戦できる場を与えてモチベーション高く働くことができる体制を整備することで、高専卒人材がさらに活躍し、企業の発展に貢献してくれるのではないでしょうか。

 

<取材先>
りつ社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 佐藤律子さん
滋賀県彦根市出身。大学卒業後装置製造業にて、主に要員管理と教育体制整備、評価制度構築等の人事労務業務に一貫して携わる。2018年、りつ社会保険労務士事務所を開設。実情に合わせた柔軟な施策をとることを第一にし、企業の人事制度構築と安全衛生遵法体制整備をサポートしている。
 
TEXT:米澤智子
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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