有給休暇とは
◆年次有給休暇とは
年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、取得(使用)しても賃金が減額されない「有給」の休暇のことです。
年次有給休暇は、業種や業態、また正社員、パートタイム労働者などの雇用形態の区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して与えることが定められています(労働基準法第39条)。
なお、「慶弔休暇」や「リフレッシュ休暇」などの特別休暇は、企業が社員に対して福利厚生の一つとして与える休暇です。法定休暇である年次有給休暇とは異なります。
◆年次有給休暇の付与(発生)条件
- 雇い入れの日から6カ月経過していること
- その期間の全労働日の8割以上出勤したこと
◆年次有給休暇の付与日数
年次有給休暇の付与日数は、勤続年数や所定労働日数により異なります。
引用:厚労省「リーフレットシリーズ労基法39条」より
なお、上記の付与条件や付与日数は、法律で義務付けられている最低限の事項です。企業によってはもっと早い日数や多くの日数が付与される場合があります。
◆「年5日の確実な取得」が義務
使用者は年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については確実に取得させる必要があります。
有給休暇の取得義務に違反した際の罰則とそれを防ぐための方法
◆罰則
- 年次有給休暇の付与対象者に、年5日の年次有給休暇を使用させなかった場合
30万円以下の罰金(労働基準法第39条第7項違反) - 労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合(※1)
6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法第39条違反)
※1……請求された時季に有給休暇を与えることで事業の正常な運営を妨げる場合に、後述する「時季変更権」を行使することはできます
◆取得義務を守るためには
- 対象者に対して、年5日の年次有給休暇を取得するよう説明をしておく
- 日頃から従業員の年次有給休暇取得日数を把握し、取得していない従業員がいたら、取得時季について意見を聞いたうえで、時季を指定する
会社は従業員の有給休暇に対してどのような権限をもつ?
原則的に、年次有給休暇の取得日は従業員が自由に指定でき、企業はその日に年次有給休暇を与えなければなりません。ただし、従業員の指定した日に年次有給休暇を与えると、事業の正常な運営が妨げられる場合のみ、企業に休暇日を変更する権利である「時季変更権」が認められています。たとえば次のようなケースには時季変更権が認められることが多いでしょう。
- 複数の従業員が、同じ時季に有給休暇の取得申請をした場合
- 業務の繁忙期に、従業員が長期の有給休暇の取得申請をした場合
単に「人手不足だから」「業務多忙だから」という理由では、時季変更権は認められないので注意が必要です。時季変更権は、企業の規模や、従業員の業務内容や状況などを考慮し、人員調整を試みた上で行使することが必要です。
企業が指定して有給休暇を付与することは違法? 年次有給休暇の計画的付与制度との関係
◆年次有給休暇の計画的付与制度
年次有給休暇の計画的付与制度とは、年次有給休暇のうち、5日を超える分については、企業が計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。たとえば、年次有給休暇の付与日数が10日の従業員には5日、20日の従業員には15日までを計画的付与の対象とすることができます。
◆計画的付与制度のメリット
計画的付与制度の活用は、年次有給休暇の取得促進に有効です。企業としては、法律で義務づけられた「年5日の取得」のクリアが容易になる上、労務管理がしやすく、計画的な業務運営にもつながります。また従業員にとっては、年次有給休暇の取得にためらいを感じていても、企業として計画的に休暇取得日を割り振るため、休暇が取得しやすくなります。
◆計画的付与制度の導入要件
年次有給休暇の計画的付与制度の導入にあたって、下記の2点が必要です。
1.就業規則による規定
「労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある」など、年次有給休暇の計画的付与について就業規則で定めることが必要です。
2.労使協定の締結
実際に計画的付与を行う場合には、従業員の過半数で組織する労働組合または従業員の過半数を代表する者との間で、書面による協定を締結する必要があります。なお、この場合は、労使協定は所轄の労働基準監督署に届け出る必要はありません。
◆計画的付与制度の運用例
・企業や事業場の休業による一斉付与
全従業員に対して同一の日に年次有給休暇を付与する方法。製造部門など、操業をとめて一斉休業できる事業場などで活用されています。
・班・グループ別の交替制付与
班・グループ別に交替で年次有給休暇を取る方法です。流通・サービス業など、定休日を増やすことが難しい企業で活用されています。
・夏季、年末年始に付与して大型連休に
8月の盆や、年末年始の休暇に計画的付与の年次有給休暇を組み合わせ、大型連休とすることができます。また、暦の関係で休日が飛び石となっている場合に、休日の橋渡しとして計画的付与制度を活用し、連休にする方法もあります。
年次有給休暇取得に関する注意点
企業は、年次有給休暇の時季、日数及び基準日を従業員ごとに明らかにした「年次有給休暇管理簿」を作成し、休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存する必要があります。いつでも出力できる状態であれば、システム上で管理しても構いません。
年次有給休暇のスムーズな取得は、従業員の心身の疲労の回復や生産性の向上につながり、企業と労働者の双方にメリットがあります。最低限の基準である5日にとどまることなく、従業員がより多くの年次有給休暇を取得できるよう、環境づくりに努めることが重要です。
※記事内で取り上げた法令は2022年9月時点のものです。
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也さん
大手製紙メーカーで人事労務、経営企画、財務、内部統制、労働組合役員など、様々な職種や業務を経験し、在職中に社会保険労務士やFPの資格を取得。退職後、2019年に「うたしろFP社労士事務所」を開設し、人事・賃金制度作成のアドバイスや、各種研修・セミナー講師などを行っている。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト