「質問」と「問いかけ」の違いは
「質問」と「問いかけ」は、どちらも相手に何かを聞く行為という意味では共通しています。しかし、厳密には次のような違いがあるといえます。
◆質問
ファクトの確認。YES/NO、もしくは具体的な答えを求めて相手に聞くこと。
(例)「今日は何時まで働けますか?」「この案件の現在の進捗状況は?」
◆問いかけ
その人の価値観や信念、大切にしていることを掘り下げるために相手に投げかける言葉。
(例)「最近、あなたが一番楽しんでいる仕事は?」「仕事で成功した、と感じられるのはどんな場面ですか?」
英語で表すならば、質問=question、問いかけ=inquiryに近い意味合いを持つとイメージするとよいでしょう。questionはシンプルな事実確認であり、相手が今どんな状況にあるのかを知るためのツールです。それに対して、inquiryには「質問、問い合わせ、照会」という意味もありますが、「物事を深く探究する」という深いニュアンスも含まれます。
なぜ「問いかけ」がメンバーの能力を高めるのか
問いかけることは、相手自身に考えさせる行為です。単なる事実確認ではない、一歩踏み込んだ問いが投げかけられると、人は自律的に思考するようになります。仕事=「上からやらされるもの」ではなく、「自律的に取り組むもの」と認識して行動できるチームメンバーを育成するためには、普段の職場のコミュニケーションに「問いかけ」を取り入れることが重要です。
◆「問いかけ」のポイント
たとえば、チームの中に案件を抱えて業務過多になっているメンバーがいるとしましょう。その際、相手と「問いかけ」を軸にしたコミュニケーションをするとします。
このときのポイントは、こちらから「問いかけ」をする前に相手の話をじっくりと聞くことです。「なるほど。今はそういう状況なんだね」と受け止めた後で、「じゃあ、この中ですぐに手を着けられる案件はどれだろう?」「この問題がクリアになれば状況はよくなりそうですか?」と相手のアクションにつながるような具体的、かつポジティブな表現に言い換えて聞き返しましょう。
こうした場面でリーダーがすべきことは、メンバーの代わりに思考して判断することでも、案件を引き取ることでもありません。行き詰まっている本人が、「今の自分はなぜこんなにも仕事が詰まっているのだろう?」「どの作業にストレスを感じているのだろう?」「どこから着手すれば事態を変えられるだろう?」と思考を巡らせ、自分でその問題を解きほぐせるような言葉をかけること。これこそがリーダーの果たすべき役割であり、「問いかけ」の効能です。
「問いかけ」を効果的に行うための注意点
「問いかけ」を中心に置いた建設的なコミュニケーションができるようになると、メンバー間の相互理解も深まります。深い対話を重ねることによって、相手の価値観や信念、人間性に触れられるようになるため、お互いに新しい気づきが得られるでしょう。
一方で、「問いかけ」はどんな場面でも有効なわけではありません。「問いかけ」を効果的に行うためには、問いかける立場の人は次のポイントを意識しましょう。
◆自分のコンディションが安定しているときを選ぶ
「問いかける側」の人間のコンディションは、コミュニケーションの質に大きく関わってきます。人は焦っているときや疲れているときは、つい早口になったり、言い方がきつくなったりしてしまいます。そうした言動は相手にまるで詰め寄られているような心理的圧迫を感じさせるため、「問いかけ」においてもマイナスしか生みません。疲れや睡眠不足、体調不良、プライベートで悲しい出来事があったなどの理由で自身のコンディションが低下しているときは、「問いかけ」は避けたほうがよいでしょう。
◆相手の話を集中して聞く
先に述べたように深い「問いかけ」を軸とした会話のキャッチボールをする前には、聞き役に徹するステップが必要です。そして本音を打ち明けてもらうためには、目の前の相手に興味を持ち、語られる内容に集中し、関心を持ってしっかり受け止めていることを態度で示さなければなりません。なぜなら、相手の話を真剣に聞かなければ、深い問いも生まれてこないからです。また、問いかける際にはゆっくりしたペース、明るい声で話すように心がけるようにしましょう。
◆信頼と尊敬がお互いにある
大前提としてお互いの間に信頼関係がないと「問いかけ」は効果を発揮しません。自分を見下している相手、すぐに否定してくる相手、威圧的な相手に対して、本心を打ち明けたいと思う人はいません。リーダーのポジションにいる人は、メンバーと気軽に愚痴を言い合えたり、冗談で笑い合えたりするようなフラットな関係性の構築を普段から心がけておきましょう。「この人は自分の努力をちゃんと見て、気持ちをわかってくれる」と信頼できる相手でなければ、建設的なコミュニケーションは築けません。
「問いかけ」が機能するとチーム全体の生産性が上がる
職場はただ「いる場所」ではなく、仕事を「する場所」です。そして「する(アクション)」を遂行していくためには、各々のメンバーの内側から生まれる仕事へのパッションとモチベーションが必要不可欠です。それを実現するための一つの手段として「問いかけ」の技術は非常に有効だといえるでしょう。
「問いかけ」を通じて良質なコミュニケーションを行い、メンバーのパッションとモチベーションを引き出すことはリーダーの重要な役割であり、チーム全体の生産性も最大化することにもつながるはずです。
<取材先>
プロノイア・グループ株式会社代表取締役
ピョートル・フェリクス・グジバチさん
ポーランド生まれ。2000年に来日し、グローバルに展開する名門投資銀行、大手IT企業などの大企業で人材開発・育成やリーダーシップ開発の分野を中心に活躍。2015年に独立し現職。
TEXT:阿部花恵
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




