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改めて『ポータブルスキル』の重要性を考える-[第10回]中小企業経営者が知っておきたい「いまどき採用事情」黒田真行さんに聞く


過去30年以上にわたり中途採用市場に携わってきた黒田真行氏に、今、中小企業の経営者が実践するべき人材戦略について伺うインタビュー企画。

 
 

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第10回「 改めて『ポータブルスキル』の重要性を考える」


連載第10回のテーマは「改めて『ポータブルスキル』の重要性を考える」です。採用難の時代に、いかに「いい人材」を採用するか。そのためには、採用競合が注目していない人材に目を向ける必要があります。
 
「そもそも企業には、解決したい経営課題があるはず。そのような経営課題を解決してくれる人材を探すための手段が採用だと考えるなら、ポータブルスキルを人材要件に取り入れることが重要です」と黒田氏。採用競合と差別化して採用を成功させる考え方について、伺いました。

 
 

人材要件の「モノサシ」を変えれば採用競合より優位に立てる


――2021年7月現在、コロナ禍はなかなか終息する気配がありません。しかし、ワクチン接種が進むにつれて、次第に落ち着いてくるはず。そうすると景気が上向き、再び企業には採用難の時代がやってくることが予想されます。
 
そうですね。「求める人材が重なる」採用競合と、数が限られた優秀な人材を奪い合うことになります。
 
しかし、こう考えてみてはどうでしょう。そもそも、採用競合と求める人材がバッティングするのは、人材を評価する「モノサシ」が同じだからです。採用競合とは異なる、独自のモノサシを持てば、求める人材が重なることも避けられます。
 
そこで改めて考えてほしいのが、本連載第7回でも紹介した、人材の「ポータブルスキル」です。ポータブルスキルとは、「業種や職種が変わっても通用する、持ち出し可能な能力」のこと。ポータブルスキルに注目すると、採用競合の目にとまっていない意外なルートから人材を獲得できる可能性が高まります。
 
典型的なのは、業種や職種を超えた転職です。例えば、保険会社の営業職の募集に、長年の営業経験はあるものの「保険を売ったことはない」Aさんが応募してきたとします。一般的には、「業界未経験」とみなされるため、マッチングに至る可能性は低いかもしれません。しかし、もしAさんがこれまで複数の業種で営業を経験し、売る商品がなんであれしっかり成果を上げ続けていたとしたらどうでしょう。彼が培ってきた売る商品の特性を調べるスキル、マーケットの情報を集めるスキル、販売戦略を立てるスキルなどは、新天地においても発揮できる可能性がある、とは考えられないでしょうか。
 
実際に、大手メーカーやベンチャー企業での勤務を通じて、「社内対応」や「部下マネジメント」のスキルを培ってきたBさんが、病院の事務長職に転職し、活躍されているケースもあります。病院の事務長に求められるのは、医師や看護師、事務や清掃スタッフなどさまざまな職種の人材をマネジメントする役割です。病院勤務は初めてだったBさんでしたが、彼の過去のスキルを買って採用に成功した好例といえるでしょう。
 
ポータブルスキルを重視した採用を提唱している厚生労働省も、こんな事例を挙げています。国内の航空会社の地上サービス責任者から、小売のカスタマーサポート部門の次期部長に転身したCさんのケースです。これも異業種間の転職ですが、前職でのスタッフ300人のマネジメント経験や顧客対応のスキルは、小売業界のクレーム対応にも役立てる、また組織としての顧客対応レベルの向上にも生きる、と評価されての採用でした。
 
いずれも、一般的には「業界未経験だから」と面接すら見送るケースかもしれません。しかしBさんCさんを採用した企業は、業種や職種が変わっても通用するポータブルスキルに注目したことで、採用競合に先んじることができたのです。

 
 

スペック重視では採用の枠を狭めるばかり


――ポータブルスキルについてもう少し詳しく教えてください。
 
ポータブルスキルとは「業種や職種が変わっても通用する、持ち出し可能な能力」と、厚生労働省で定義されています。ポータブルスキルは、「専門知識・専門技術」のほか、「仕事のし方」(課題を明らかにする・計画を立てる・実行する)、「人との関わり方」(社内対応、社外対応、部下マネジメント)で構成され、それぞれがさらに詳しく分類されています。
 
ポータブルスキルを発揮するためには、新しい環境に適応できるかどうかも重要です。そこで厚生労働省は「環境変化への適応のし方」と「適応しやすい職場の環境」という項目も用意しています。「環境変化への適応のし方」では、「指示を待つのではなく、自らの意志で積極的に行動する」「何事も前向きに受け止め、建設的に考えようとする」「人に対して開放的、素直で、親しみを感じられる」など、求職者のタイプを確認することを勧めています。また「適応しやすい職場の環境」は、組織風土との相性を見るものです。組織における仕事の進め方の特徴や、組織における対人関係の特徴、組織で重視される価値観などで構成されます。
 
これまで企業は、人材要件を主に「スペック」で考えてきました。「SaaS系のベンチャー経験5年以上」「マネージャー経験2年以上」など、キャリアの長さや業種・職種などを重視しようとするものです。スペック重視の人材要件が間違っているとはいいませんが、欲しい人材を精度高く募集しようと思うと、求人票に盛り込むスペックが増えていき、結果的に、採用可能性のある人材の幅がどんどん狭くなっていきます。これは端的にいって「損」ではないでしょうか。わざわざ自分から採用の間口を狭めているわけですから。スペック重視の採用を、私たちは「ヒト軸」の採用と呼んだりします。
 
一方、その人のスペックではなく、「その人が解決してきた課題(コト)」に注目するのがポータブルスキルの考え方の基本だといえます。いわばヒト軸ならぬ、コト軸です。そもそも企業には、解決したい経営課題があるはず。そのような経営課題を解決してくれる人材を探すための手段が採用だと考えるなら、ヒト軸よりもコト軸のほうが採用の狙いに適っています。したがって採用面談でも「SaaS系のベンチャー経験5年以上」といったスペックより、「その経験を通じてどんな課題を解決したのか」にフォーカスしてヒアリングをするべきなのです。
 
――コト軸採用には、どんなメリットがあるのでしょうか。
 
まずは、業種・職種を限定せずに、広い領域から人を採用できる可能性があります。ヒト軸にこだわって採用している企業が、数少ない高スペック人材に殺到している横で、まったく違うルートからの人材採用を考えてみるということです。コト軸で採用活動をしていると「まさか」と思うような人材が実は自社にとって最適な人材だった、といった意外な出会いもしばしば起こるのです。
 
しかし、それ以上のメリットがあります。それは、自社で活躍してくれる人材、貢献してくれる人材と出会える確率が格段に高まる、ということです。誤解してほしくないのですが、コト軸採用は、ヒト軸に比べて「条件を緩めている」わけでも「妥協している」わけでもありません。企業の課題を解決してくれる人材を集めるなら、ヒト軸よりもコト軸で人材要件を設定したほうがいい。逆にいえば「SaaS系のベンチャー経験5年以上」というスペックにこだわりすぎると、本当に課題を解決できる人材かどうかが判断できない。
 
――自社の抱える経営課題を正確に把握しないと、コト軸採用ができない。人材に求めるポータブルスキルも見えてこない。
 
自社の経営課題をしっかりと明らかにしてから、その課題を解決できる人材を探す、これがコト軸の採用戦略というものです。ヒト軸採用の問題は、結局のところ「それが本当に自社の経営課題の解決につながるのかわからない」こと、そして「同じような要件で採用活動をする企業が多い」ことです。採用難の時代において、欲しい人材を獲得することは難しい。自社の経営課題に即した人材を、競合に奪われることなく採用したいと思ったら、コト軸=ポータブルスキルで人材要件を考えることが重要だと考えてください。

 
 
 
黒田 真行(くろだ まさゆき)
Profile
黒田 真行(くろだ まさゆき)
 
1989年、株式会社リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」ネットマーケティング企画部長、株式会社リクルートドクターズキャリア(現:リクルートメディカルキャリア)取締役などを歴任。現在は「ミドル世代の適正なマッチング」を目指す、ルーセントドアーズ株式会社の代表取締役を務める。人材マーケット分析ならびに人材戦略構築の専門家。

 

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