育児介護休業法の役割とは?

男性が育児をしている様子

「育児・介護休業法」が改正され、2022年4月から3段階で順次施行されています。改正の大きな目的は、「男性の育児休業の取得」です。
 
自身も事務所で初となる「2カ月間の育休を取得した(※)男性弁護士」となったAnthense法律事務所の野村佳祐さんに、法的観点と当事者としての実感の両面からお話を伺いました。
 
※法的には厳密な意味での「育児休業」ではありませんが、育児のための休業を取得したことを指して「育休を取得」と表記します

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育児・介護休業法とは

「育児・介護休業法」の正式名称は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。
 
育児や家族の介護をする労働者を支援することを目的として1992年から施行されているこの法律が、2021年6月に大きく改正されました。
 
改正の背景にあるのは、男性の育児休業取得率の低さです。厚生労働省によると、2019年度の男性の育休取得率は7.48%、2020年度は12.65%、2021年度は13.97%です。上昇傾向にはあるものの、日本政府が2025年の目標として掲げる「男性の育休取得率30%」までには大きな隔たりがあります。
 
男性の育休取得を促進することは、女性の雇用継続や離職率の低下にも直結しています。また、長期的に働きやすい環境を整備することは企業のイメージアップに繋がり、優秀な人材が集まりやすくなる側面もあります。
 
出産・育児による労働者の離職を防ぎ、男女ともにより働きやすい環境へと整備していく。それが今回の法改正の大きな目的です。

新「育児・介護休業法」のポイント

2022年4月から施行された法改正では、大きく次の3点がポイントになります。

1. 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備(2022年4月~施行)

本人または配偶者の妊娠・出産の申し出をした労働者に、育休制度の説明や取得の意向確認を個別に働きかけることが企業側に義務付けられました。
 
男性労働者の育休取得が義務化されたわけではありませんが、これまでは法的拘束力や罰則がなく企業の「努力範囲」だったものが義務化され、怠った場合は社名が公表される可能性があります。また、パートタイムや非常勤のような有期雇用労働者の育休取得要件も緩和されました。

2.産後パパ育休の創設(2022年10月~施行)

男性労働者が子の出生後8週間以内に、最大4週間まで取得できる「出生時育児休業(産後パパ育休)」制度が新設されました。最大4週間の育休期間は、2回に分割することも可能です。
 
従来の育休も原則、子が1歳までは2回に分割して取得できるようになり、また1歳以降(最長2歳まで)の育休期間中の途中での夫婦交代が可能になりました。原則1回だった育休の取得が分割可能になり、柔軟な取得ができるようになったことで、夫婦が互いに協力しながら子育てができるような体制を支援します。

3.大企業の育休取得状況の公表義務化(2023年4月~施行予定)

常時雇用する労働者が1,000人を超える企業は、育休の取得状況を年1回、公表することが義務付けられます。具体的には「男性の育児休業等の取得率」または「男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率」を公表することになります。

育休取得に対応する際の注意点

一方で、日本企業の場合は「社内規程を変える」だけでは難しい実情もあります。男性の育休取得に関する各種アンケート調査では、「本当は育休を取りたかったが周囲の目が気になって取れなかった」「今後のキャリアに響くと思い取得しなかった」との声が男性労働者から多く上げられています。
 
制度だけが整備されても、経営者の意識や社内の空気、余裕のない職場環境が、男性の育休取得促進を妨げているケースも少なくないでしょう。
 
そのような現状を踏まえて、実務にあたる担当者は次の点に留意してください。

 

◆育休取得の周知・確認を徹底する

今回の法改正における大きな変更点は、企業側が労働者に個別に制度を周知し、育休を取得するかどうかの意向を確認することが義務づけられた点です。
 
育休を取得し、一定の要件を満たしていれば、雇用保険から育児休業給付金が支給されることに加え、社会保険料が免除されます。担当者は労働者にこれらの事項を漏らすことなく、適切な時期に伝える義務があります。
 
また、周知や確認の際には、育休取得を控えさせるような威圧的な言動や、不利益をほのめかすような発言は控えてください。

 

◆「前例がない」をことさらに強調しない

男性労働者が育休取得を申し出た後で、「前例がないからどうかな」「前例がないけど調べてみる」などの言い回しを頻繁に使うのも避けましょう。育休取得を控えさせるような形で行ったものとして、法で定める意向確認等の措置を実施したと認められない可能性が生じます。
 
特に、その人が会社で初めて育休を取得する男性労働者である場合、実務担当者は「前例がない」を無意識に使ってしまいがちです。そこに悪気はなく、事実そうであっても、「前例がない」を強調されると、育休を取る側は「気が引ける」「申し訳ない」という気持ちにさせられます。
 
上司や同僚が「あなたに抜けると困るな」といった声掛けを強く行うことも同様です。口にしている側に悪意はなくとも、言われた側にはプレッシャーとして受け取ってしまう可能性があることを留意しましょう。

 

◆育休前の引き継ぎは早めの段階的移行を

法令上では育休取得の申請は、原則として休業開始の1カ月前までに提出することになっています。ただ、実際に育児のための休業を申請・取得した男性の実感として述べると、業種によっては社内外の引き継ぎが1カ月前からではやや短すぎるように感じられます。
 
スムーズに育休を開始するためには、できれば2~3カ月前から社内外への引き継ぎを段階的にすすめていきましょう。たとえば、顧客ごとに担当がつくような属人性の高い業務であっても、十分な期間を経て引き継いでいけば、顧客は事情を理解してくれるはずです。
 
また、上司や同僚に「育休を取られるとこっちにしわ寄せが来る」と感じさせない職場の仕組みづくり、育児未経験者に実際の育児の大変さや実情を理解してもらえる研修を充実させることが必要になるかもしれません。

目的は「男性の育休取得」そのものではない

育児・介護休業法の改正の主眼は、男性が育休を円滑に取得できるよう促すことで、男女ともに労働者が働きやすい環境をつくることです。育休取得率など数字の公表が義務づけられたからといって、企業のイメージアップのためだけに実体に沿わない数字を作ろうとするのは本末転倒であり、むしろ社内から不信感を招くでしょう。
 
「男性の育休取得率を上げる」ことは労働者がより働きやすい環境を整備するための手段であって、目的ではありません。
 
制度をただ用意するのではなく、育休が申請しやすい職場の雰囲気づくりと労働者への周知も並行して進めていくことで、男性育休が定着するような体制づくりを整えていきましょう。

 

※記事内で取り上げた法令は2023年1月時点のものです。
 
<取材先>
Authense法律事務所 弁護士
野村佳祐さん
 
第二東京弁護士会所属。複数の上場企業・成長企業で外部から法務をサポートしており、会社組織において日々生じる多種多様な法務課題の解決に注力。Anthense法律事務所の男性弁護士としては初めて2カ月間の育児休業を取得。
 
TEXT:阿部花恵
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


 
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