育児休業と育児休業給付金の基本
育児休業は、雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合に支払われます。なお、育児休業は2回まで分割で取得できます。
雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合に支払われるのが「育児休業給付金」です。
◆支給要件
育児休業給付金は、育児休業を取得し、次の1〜3の要件を満たした場合に支給されます。
1.1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した被保険者であること
ア.被保険者から初日と末日を明らかにして行った申出に基づき、企業が取得を認めた育児休業
イ.休業開始から、子が1歳に達する前日までにあるもの
なお、「パパ・ママ育休プラス」を利用して育児休業を取得する場合は1歳2カ月に達する前日まで、保育所における保育の実施が行われないなどの場合は1歳6カ月または2歳に達する前日までとなります。
2.休業開始日前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある、または就業した時間数が80時間以上ある完全月が12カ月以上あること
3.一支給単位期間中の就業日数が10日以下、または就業した時間数が80時間以下であること
「支給単位期間」は育児休業を開始した日から起算した1カ月ごとの期間です。その1カ月の間に育児休業終了日がある場合は育児休業終了日までの期間です。
4.(有期雇用者の場合)養育する子が1歳6カ月に達するまでの間に、労働契約の期間が満了することが明らかでないこと
育児休業給付金の受給期間と支給額
◆受給期間
育児休業給付金の受給期間は、母親と父親の場合で異なります。
・母親の場合
「産後8週間以内の産後休業の翌日から、子が1歳を迎える日の前日まで」の育児休業期間
・父親の場合
「子の出生当日(または出生予定日)から、子が1歳を迎える日の前日まで」の育児休業期間
◆支給額
育児休業給付金の支給額は、下記の方法で算出できます。
休業開始時賃金日額×支給日数×67%(育児休業開始から181日以降は50%)
休業開始時賃金日額は、下記のいずれかを180で割ることで算出できます。
- 育児休業開始前(産前産後休業を取得した従業員が育児休業を取得した場合は、原則として産前産後休業開始前)6カ月間の総額
- 育児休業を開始した日より前の2年間に完全な賃金月が6カ月に満たない場合は、賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上である賃金月6カ月の間に支払われた賃金の総額
例)育児休業開始前の月給が30万円の場合
まずは、休業開始前賃金日額を算出します。
30万(円)×6(カ月)=180万(円)
180万(円)÷180(日)=1万(円)
休業開始前賃金日額の1万(円)に67%をかけた額が、1日あたりの支給額です。
1万(円)×0.67(%)=6,700(円)
181日以降は給付率が50%になるので、1日あたりの支給額が5,000(円)になります。
・支給上限額
育児休業給付金には、上限額と下限額があります。休業開始前賃金日額の上限額は1万5,190円、下限額は2,657円です。
支給日数が30日の場合の支給上限額と下限額は、下記の通りです。
参照:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
◆出生時育児休業給付金との違い
「出生時育児休業給付金」は、子の出生日から8週間を経過する日の翌日までの期間に4週間(28日)以内の期間で「産後パパ育休(出生時育児休業)」を取得した被保険者に支給されます。
女性の負担がもっとも多い産後8週までの時期に育児休暇を取得してもらい、男性の育児参加を促進させる狙いがあります。
育児休業給付金とは、取得や申請時期が異なります。
・取得時期
産後8週までの4週間(28日)以内
・申請時期
8週間を経過する日の翌日から申請可能で、上記から2カ月を経過した日が属する月の末日までに必要書類を提出します。「出生時育児休業」は2回にわけて取得することもできますが、申請は1回にまとめて行います。
「出生時育児休業給付金」は、産後8週間の期間内に取得できる制度です。男女ともに取得できますが、女性の場合、産後8週間は健康保険から出産手当金が支給されるなどの理由から、おもに男性が取得しています。
たとえば、「妻の出産に備え、短期間休みを取得して上の子を養育したい」というときは、出生時育児休業を選択するのも一つの方法です。
申請、延長、復職時の手続き
◆育児休業給付金申請の流れ
「受給資格確認手続き」のみ行う場合は「初回の支給申請日」まで、初回の支給申請を行う場合は「育児休業開始日から4カ月を経過する日の属する月の末日まで」に行います。
1.従業員が企業に育児休業を申し出る
2.必要書類を揃えて管轄のハローワークに提出する
<必要書類>
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
- 育児休業給付受給資格確認票
- (初回)育児休業給付金支給申請書
<添付書類>
- 育児休業を開始・終了した日や賃金の額と支払い状況を証明できるもの
(賃金台帳、労働者名簿、出席簿、タイムカードなど) - 母子健康手帳(コピーも可能)
育児休業給付金は、支給決定された約1週間後に従業員の金融機関の口座に振り込まれます。
2回目以降の申請は、ハローワークが交付する「育児休業給付金支給申請書」と「支給申請書の記載内容を確認できるもの(賃金台帳、労働者名簿、出席簿、タイムカードなど)」をハローワークに提出します。
原則として、2カ月に1回申請をします。なお、従業員が希望する場合は、1カ月ごとの申請も可能です。
◆延長時の手続き
育児休業の対象となる子が「1歳になる日」または「1歳6カ月になる日」後の期間に保育園に入園できない場合、支給期間を延長できます。
・延長要件
下記のいずれかに該当する場合、支給期間を延長することが可能です。
- 保育所などでの保育の利用を希望し申込をしているが、当面保育が実施されない場合
- 育児休業の対象となる子が1歳になる日または1歳6カ月になる日後の期間に、その子を養育する配偶者が「病気やケガにより子の養育が困難」「死亡」「婚姻の解消による子との別居」「産前産後休業等の取得」などの状態にある場合
- 従業員のほかの休業が終了した場合
・申請方法
育児休業給付金支給申請書に延長事由を記載し、下記のいずれかの書類を添付して管轄のハローワークに提出します。
- 市区町村が発行した保育所等の入所不承諾通知書
- 世帯全員が記載された住民票のコピー
- 母子健康手帳(コピーも可能)
- 保育を予定していた配偶者の状態についての医師の診断書など
なお、従業員が第一次申込で保育所から内定を得たにも関わらず辞退し、第二次申込で落選した場合、やむを得ない理由がないと延長申請は認められません。
◆復職の際の手続き
育児休業給付金支給申請書に復職日を記載し、出勤簿とあわせて管轄のハローワークに提出します。
育児休業期間の途中で職場復帰すると、育児休業給付金はどうなる?
育児休業の途中で職場復帰した場合、復帰の前日で育児休業給付金の支給は終了します。
育児休業期間に同じ企業に臨時に就業した場合、労働時間が1カ月の支給単位期間のうちの10日以下、または80時間以下であれば、育児休業給付金が支給されます。ただし、支給額は減る可能性があります。
参照:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
◆第一子の育児休業中に第二子を妊娠した場合
下記のいずれかの方法があります。
1.第二子の産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)から産前休業を取る
産前休業取得日の前日で育児休業給付金の支給は終了します。
2.産前休業を取得しない場合
第一子の育児休業給付金が支給されます。
1、2のいずれも第二子を出産後に健康保険から出産手当金が支給され、2の場合は育児休業給付金とダブルで受給できます。
注意点
◆育児休業給付金に関する抜け漏れポイント
・育児休業給付金の申請を忘れる
従業員が育児休業給付金を受給するには企業が毎月または2カ月ごとに申請する必要がありますが、中には企業が申請を忘れてしまうケースもあるそうです。その場合、2年の時効の期間内であれば、申請期限を過ぎても請求できます。
・従業員が復職後に申請をしてしまう
ハローワークに連絡をして、事情を説明します。すでに従業員の口座に育児休業給付金が振り込まれている場合は、ハローワークに返金してもらう必要があります。従業員の復職日と復職日までに何回申請が発生するかを事前に確認しておきましょう。
・従業員が市区町村への保育園の入所手続きを忘れる
市区町村によって、保育園の申請時期は異なります。育児休業給付金の延長の手続きで記載した通り、延長申請には市区町村が発行した入所不承諾通知書が必要です。
入所手続きのし忘れに関しては、「企業が申請について知らせてくれなかった」と後に従業員とトラブルになるケースもあります。毎回育児休業給付金の申請をする度に行政から申請手続きを促すリーフレットが送られてくるので、従業員に共有しましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年11月時点のものです。
<取材先>
社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 特定社会保険労務士 岡佳伸さん
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演など。キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト