労使協定方式とは
「労使協定方式」とは、派遣労働者に適用される労使協定の1つです。労使協定には、もう1つ「派遣先均等・均衡方式」があります。派遣元企業(人材派遣会社)は、この2つのどちらかで派遣労働者の待遇を決定しなければなりません。
◆労使協定方式……派遣元企業が定めた労使協定に基づいて、派遣労働者の待遇を決定する方式
派遣元企業の労働者は全員、同一の待遇が受けられます。労働者の過半数を代表する者、もしくは労働者の過半数以上で組織される労働組合と企業との間で条件に合意し、書面で締結を交わす必要があります。条件をクリアできなければ、派遣先均等・均衡方式が適用されます。
◆派遣先均等・均衡方式……派遣先企業の待遇に合わせて、派遣労働者の待遇を決定する方式
同じ仕事に対して、派遣労働者は派遣先企業の労働者(正社員)と同じ待遇が受けられます。格差をつける場合、派遣先企業は合理的な違いを説明する必要があります。
労使協定方式のメリット・デメリット
労使協定方式による派遣元企業、派遣先企業それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。
◆派遣元企業のメリット
- 労使間で納得した上で協定を結ぶため、労働者から不満が出にくい。
- 仕事内容や派遣先企業に合わせて、待遇を決定することができる。
- 賃金が一定水準以上でありかつ安定するため、労働者の定着につながる。
◆派遣元企業のデメリット
- 条件の整理や労使間の合意を得るなど手間がかかる。
- 派遣労働者の賃金を厚生労働省が定める「同種の業務に従事する一般労働者の賃金」以上に設定する必要がある。
◆派遣先企業のメリット
- 派遣元企業に提供する情報が少ない。
- 賃金が一定水準以上かつ安定するため派遣労働者のモチベーションが高まり生産性が上がる。
◆派遣先企業のデメリット
- 自社の労働者より、派遣労働者の賃金のほうが高くなる可能性がある。
- 複数の派遣元企業から派遣労働者を受け入れる場合、同じ仕事であっても派遣労働者同士で賃金差が生じる可能性がある。
労使協定方式における重要ポイント
労使協定方式を選択するためには、派遣元企業の労使間で正式に労使協定が結ばれている必要があります。また、派遣先企業は手続きがラクになりますが、提供する情報はゼロではありません。それぞれ、重要ポイントをしっかりおさえておきましょう。
◆派遣元企業における重要ポイント
何よりも重要なのは、労使協定を正しく作成することです。厚生労働省の公式サイトにひな型があるので参考にしてください。
賃金はもちろん、通勤手当、賞与、退職金など様々な条件をきちんと決定し、労働者の過半数を代表する者、もしくは労働者の過半数以上で組織される労働組合の意見を聞かなければなりません。合意が得られたら書面にて締結し、労働基準監督署へ届け出を提出してください。
労働者の合意を得られなかったり、内容に不備があったりした場合、労使協定方式を選ぶことはできません。自動的にもう1つの派遣先均等・均衡方式が適用されることを留意しましょう。
◆派遣先企業における重要ポイント
派遣労働者の待遇は労使協定方式を遵守しますが、仕事に必要な教育訓練を受ける権利や、福利厚生施設を利用する権利などは、派遣先企業の労働者と同様の待遇になります。そのため、派遣先企業は派遣元企業に対して、以下の情報を提供する必要があります。
- 教育訓練の有無
- 給食施設
- 休憩施設
- 更衣室の有無
労使協定方式は手順を踏んで正しく締結する
労使協定方式が導入された背景には、労働者を保護するための「同一労働同一賃金」の施行があります。これによって労働者のモチベーションアップや生産性アップが期待できるため、派遣元企業、派遣先企業双方にとってメリットが大きいといえるでしょう。
労使協定方式を選択するためにも、派遣元企業は正しい手順を踏んで、正しく労使協定を締結してください。
※記事内で取り上げた法令は2022年12月時点のものです。
<取材先>
社会保険労務士法人堀下&パートナーズ 代表 堀下和紀さん
慶應義塾大学商学部卒業。大手企業を経て、社会保険労務士法人堀下&パートナーズを設立。訴訟、労働組合案件等トラブル解決を含め、労働法務に関する指導数は100社を超える。
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト