従業員満足度調査(ES調査)では、アンケートなどで自社に対する従業員の意識を把握し、社内環境の改善につなげます。効果的に進めるには、どのような準備や分析が必要でしょうか。数多くの企業の従業員満足度調査を手がける、クレイア・コンサルティングのシニアマネジャー・和田実さんに、調査を実施するときの質問項目の設定、結果の分析やフィードバック方法について伺いました。
調査の骨格を決めてから具体的な質問を考える
――ES調査を実施する際、具体的にはどのように進めたらよいでしょうか。
実施目的や実施スケジュールを明確にした上で、以下の6つのステップで進めていきます。
Step1:調査内容の設計
ES調査の骨格を作るステップです。組織課題と調査内容の関係性を整理し、聞きたいことを明確にします。
まずは、調査を通じて実現したい姿を具体化しましょう。そのために必要な組織行動と、その組織行動を支える背景要因を洗い出し、調査すべき項目を絞り込みます。
たとえば、「社員のチャレンジ意欲が下がっている」という課題がある場合、実現したい姿を「社員のチャレンジ意欲が高い状態」と設定。そこに導くためには「社員の自発的な提案行動」や「前例にとらわれない提案」という組織行動が必要で、それを実現するための「自由な提案を受け入れてくれる上司」の存在など、必要な背景要因を想定できる仮のもので構いませんので洗い出していきます。
Step2:具体的な質問の作成
各調査項目は、従業員のやりがいや満足感につながる「動機づけ要因」と、給与や休暇、福利厚生など整っていないと不満につながる「衛生要因」の2種類に分けて考えます(※1)。各要因において調査したい事柄を「業務内容」と「人間関係や組織」などのカテゴリに分類して考えると、質問の幅が広がります。
詳細な質問文を作成する際は、以下の点に注意しましょう。
- 質問の意図を正確に表現できているか
- 分かりにくい言い回しがないか
- 社員が率直に回答できる聞き方になっているか
- 質問数が多すぎて回答者の負担にならないか
※1 「ハーズバーグの二要因理論(動機づけ・衛生理論)」の考え方。仕事において働く人が満足する要因を「動機づけ要因」、不満足となる要因を「衛生要因」として明らかにする理論で、ES調査の一つの指標となっている。
Step3:質問順と選択肢を決める
質問の順序で大切なのは、最も聞きたい調査項目を最初に配置することです。他の質問を先に聞いてしまうと、そちらにひきずられた回答になる恐れがあるからです。逆に報酬や人間関係など、答えづらい質問は後方に配置しましょう。
答えやすさや分析のしやすさを考えて、回答形式は基本的に選択式が望ましいです。必要に応じて自由記述欄を設けると、質問文への回答ではフォローしきれなかった情報を拾うことができるというメリットもあります。
一方で不満の高まっている組織で安易に自由回答を求めると、対応の難しいコメントが記載されてしまうリスクもあります。自由回答欄は、聞き方の工夫や想定される回答と対応方法などを事前に想定しておくなど、慎重な検討が求められるポイントでもあるのです。
Step4:調査票の作成
出来上がった調査項目を調査票に加工して配布の準備をします。率直な回答を引き出しやすくするため、基本的には匿名回答方式としますが、所属部署など分析に必要な属性は記入してもらいましょう。ただし、属性の記入欄が最初にあることで自由な回答に影響を及ぼすと想定される場合は、最後に配置することも検討してみましょう。
Step5:調査の実施
スケジュール、配布から回収までの手順、回答期間、問い合わせ窓口などのオペレーションを決定します。
Step6:集計・分析とフィードバック
調査票が返ってきたらまずは回収率をチェックします。回収率が低い場合、期限に余裕があれば締め切り日を延ばして再度協力を呼びかけましょう。
締め切り後は、記述漏れのチェックや回答の有効性を確認します。無効票を減らすためには、あらかじめ無効となる回答例を調査票に示したり、Web調査であれば無効回答をエラー表示させたりすることも一つの方法です。
分析方法は、部門別、職種別、職位別の回答傾向を比較するクロス集計や、質問項目間の回答パターンの違いに着目し、背景要因を分析するギャップ分析など様々な手法があります。分析ができたらこれらの結果をレポート形式にまとめてフィードバックするという流れになります。
調査後のフィードバックが重要
――調査を実施した後に注意すべき点はどんなことでしょうか。
ES調査は実施して終わりではなく、結果を開示し、会社としてどんな対処の方向性を打ち出すのかが非常に重要です。ただ、結果を一般社員まで開示するか、マネジャーレベルに留めるかは目的によって異なります。
このときの注意点として、特定の回答に対する犯人捜しや個人攻撃が起きないように留意します。数人しかいない部署の結果は個別で表示しないようにするなど、個人が特定されないような配慮が必要です。
一方で、ハレーションを恐れて現場に何もフィードバックしなければ「時間を割いていろいろ意見を伝えたのに会社は何もしてくれない」と、会社や人事に対する新たな不満を生むリスクがあります。結果がどんな内容であっても何らかの形で結果や対策の方向性を社内にフィードバックし、従業員に課題解決に取り組む姿勢を見せていくことが重要です。
真摯に向き合えば必ず成果を得られる
――ES調査の実施を検討している人事担当者へアドバイスをお願いします。
ES調査の実施は、「寝た子を起こすのではないか」「痛くもない腹を探られたくない」などと考える経営者も少なくないので、人事からの発案が受け入れられないケースもあります。実際、経営者や管理職にとって耳の痛い話も含まれやすいですし、無理に実施して悪い結果が出た場合に何もせずに放置されることが目に見えているのであれば、最初からやらない方がよいという判断もあると思います。
一方で、入念に準備をした上で実施すれば、現場のマネジメント課題を解決するためのヒントは必ず得られますし、調査結果をうまく改善につなげることができれば社員のやる気や生産性を向上させ、離職を防止するといった様々な結果が生まれるので、ぜひチャレンジしてみてほしいです。
――ES調査を通して一方的に社員の意見を吸い上げるのでなく、社内全体で前向きに取り組むべきなのですね。
ES調査の成功には、経営者と現場の双方の理解と協力が不可欠です。調査の実施が決まったら、準備段階から調査の意義や目的を経営層や現場の責任者などに丁寧に説明し、できるだけ多くの関係者を巻き込みましょう。
初回のES調査では、辛辣な結果が出ることも珍しくありませんが、入念に準備した上で出た結果であれば、その後は良い報告に向かっていくだけかと思います。会社が良くなるプロセスを最前線で実感できるのは人事担当者の特権。ぜひ前向きに、その過程を楽しむ余裕を持って取り組んでほしいです。
※記事内で取り上げた法令は2021年7月時点のものです。
<取材先>
クレイア・コンサルティング株式会社 シニアマネジャー 和田実さん
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト