採用してもわずかな期間で辞めてしまったり、長く働いていたのに突然連絡がつかなくなったり。アルバイトスタッフと年代の差がありすぎて、仕事に対する考え方や姿勢の違いに戸惑ってしまう雇用主も……。求人件数の多さから、特に学生のバイト先として定番となっている飲食業界では、雇用側とアルバイトスタッフの意識の相違からトラブルに発展するケースが多々あります。
 
アルバイトスタッフと雇用主の行き違いを未然に防ぐにはどうすればよいのでしょうか? 飲食業界でよくあるアルバイトとのトラブル事例と対策法を、飲食コンサルタントの白岩大樹さんにお聞きしました。


面倒臭がり!? 若者が責任を負いたがらない理由

――飲食店のアルバイトの現場で「最近の若い世代と関係を築きにくい」という店長の悩みを時折耳にします。最近のアルバイトスタッフには、何か特徴や傾向があるのでしょうか?
 
前提として、全ての若者に当てはまるわけではありませんが、最近は責任を負うことに非常にネガティブな若いアルバイトスタッフが増えたのではないかという印象を受けています。あてにされたくないとか、責任が重くなるのが嫌だとか。
 
――それって面倒臭がりということですか?
 
面倒臭がりではなく、ある意味、賢いと言えるかもしれません。労働と報酬のバランスを、とてもシビアに判断しているんです。つまり、「アルバイトはそこまでやる必要ないでしょ」という線引きがきっちりしています。報酬の範囲内の仕事を見極めて、そこから逸脱する事柄にはきちんと拒否感を示すわけですね。
 
――若者世代の感覚が昔と違う、ということでしょうか。
 
もちろん、時代に応じて価値観は大きく変化します。ただ、若い世代が労働と報酬のバランスについてとてもシビアなのは、元を正せば雇用側に大きな原因があるのではないでしょうか。
 
たとえば、サービス残業のような法令違反だけではなく、担当外の仕事を手伝わせたり、あるいは訓練や資格保持が必要な業務に就かせたりするなど、負荷の高い業務に対してプラスの報酬を与えない雇用主は今でも少なくないという印象です。
 
――「やらせるのに払いが悪い」雇用側の姿勢が、若者をシビアにさせている、と。
 
そうです。たとえばお客さんからのクレームにアルバイトスタッフが必死に謝っているとか。本来であれば、社員が対応すべきことですよね。
 
採用時に取り決めた範疇を超える労働が発生しても、雇用側がそれをフォローしてこなかったことの積み重ねが、いまの若者の割り切った勤務態度を生んだ一因だと私は考えています。

 辞める時はLINEで報告……これって薄情?


――最近は、アルバイトを辞める時、LINEでさらっと報告するケースが多いという話を耳にしました。
 
これはあるあるですね。でも僕は、連絡をくれるだけマシじゃないかなと思います。よく飲食店の経営者に相談されるのですが、アルバイトが飛んじゃうのは珍しいことではありません。
 
――つまり、勤務先に連絡しないで辞めてしてしまう、と。
 
こうした「バイトが飛んでしまう」といった事例があるお店は、何らかの問題を抱えているケースが多いんです。労働基準法を無視して長時間労働を強いているとか、正社員が敬遠する時間帯にアルバイトスタッフを働かせているとか。仕事の範囲をきちんと線引きしたり、福利厚生が充実したりしているお店には応募が殺到する一方、常に求人を出し続けている現場も少なくありませんよね。そういう現場は常に人材が枯渇しているということ。何か問題を抱えていて、アルバイトスタッフが定着しないのです。
 
――そもそも良好な関係を築いていれば、こんなトラブルは起こらないですよね。
 
そのとおりです。顔を合わさないLINEでの退職願いも、そうした不満の蓄積が原因なのかもしれません。
 
それに、そもそも雇用する側も同じようなことをしているんですよね。就活においても、面接を受ける学生は遠方から自費で足を運ぶのに、雇用側は不採用のときメールを1通送るだけ。あれだけお金と時間をかけてきたのに、顔も合わさずに落とされる経験をしたら、そりゃあ、なるべく顔を合わさずに辞めようと思うんじゃないでしょうか。

叱っても「フーン……」 言葉がきちんと届いているか、わからない!

飲食コンサルタント 白岩大樹さん

 ――新卒の社員がアルバイトを叱っても、きちんと相手に届かないケースもあるそうですね。
 
チェーン店では、現場の第一線で何年も経験を積んできた能力の高いアルバイトに対し、現場を学ぶために配属された新卒の社員のスキルが追いつかず、立場が逆転してしまうことがあります。そうなると、アルバイトの方が経験豊富なのに、権限は社員の方にあるというねじれ現象が起こるんです。こんな有様では、アルバイトは「なにもわかってないくせに」と不満を募らせるでしょう。
 
――学校の部活動を思い出しました。未経験の先生が顧問になって「自分はできないのに偉そうなことばっかり言うよな」なんて、部員たちが愚痴を言っていた気が……。
 
正社員であろうがアルバイトであろうが、現場経験のある人へのリスペクトは必要です。それを無視した社員教育を進めると、店舗運営にマイナスの結果となってしまう場合があります。

必要な情報を積極的にアルバイトと共有する


――これまで挙げられたようなトラブルを防ぐために、店舗の採用担当者はどんな心構えを持つべきでしょうか。
 
「やりがい搾取」という言葉が広まり、若者のアルバイトに対する視線は厳しさを増しています。そのため、若い世代のアルバイトスタッフを「冷たいな」と感じる雇用主もいるでしょう。しかし、そうした「冷たい」態度は、スタッフを採用する時点でアルバイトスタッフを「ただの労働力」とみなしている運営側に原因があります。
 
ただ時間内に与えられたタスクをこなすことだけが労働ではなく、相手軸で物事を考え、行動することでお金をもらえる。雇用側は採用後、そうした接客の価値観を積極的に教育すべきです。
 
――雇用側の「どうせバイトだから」という感情が、様々なトラブルを生み出している、と。
 
ええ。逆にアルバイトと社員の結束力が固いお店は離職率が低く、トラブルも少ないのです。そういうお店は、アルバイトスタッフにお店の内情を隠しません。今日はどれだけ売れたか、何が売れなかったか、その原因は何か、頑張っていたのは誰か。こういった店舗運営に関する情報はアルバイトにどんどん共有するべきです。
 
店舗の内情を知ることで、アルバイトスタッフも店の状況を自分のこととして考えることができるようになります。情報量における仲間外れをつくらないことが、お互いの関係をよいものにしてくれるでしょう。アルバイト従業員がシビアな態度を見せる場合は、雇用側が何か無理をさせていないか、軽視していないか、そういったことを省みるいい指標になります。
 
アルバイトスタッフの理解しがたい態度に対しても、頭ごなしに否定せず、どういった理由でそうなったのか、円滑に現場を回すためにどんな情報を共有していけばいいのかを模索してみましょう。そういう心構えが、「最近の若者は……」みたいなネガティブな感情を消してくれるのではないでしょうか。


<取材先>
白岩大樹さん
株式会社アップ・トレンド・クリエイツ代表取締役。中央大学を卒業後、板前として和食の名店「なだ万」に勤務。その後「牛角」のSVに転身し、2009年に「汗を流すコンサルタント」として独立。飲食店の現場に入りながらアルバイトを労働力ではなく戦力にする現場特化型のコンサルティングの第一人者として、テレビ・新聞などのメディアに多数出演。これまで800店、約15,000人のアルバイトを教育し繁盛店へと導いている。
 
TEXT:ヒラヤマヤスコ(おかん)
EDITING:Indeed Japan + ノオト

※この記事は2020年1月8日に取材したものです

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