個々のメンバーが自ら考え、行動していく。「ティール(進化型)組織」というまったく新しい次世代の組織モデルに近年、注目が集まっています。どのような時代の変化によって、ティール組織の価値が高まってきたのでしょうか。
 
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事の嘉村賢州さんに、ティール組織のメリットとデメリット、「10社あれば10社とも違う」という実践のポイントを伺いました。

ティール組織が誕生した背景とは


今までの組織論は「代わりに」というコンセプトで発展してきました。経営層が現場の「代わりに」ビジョンや戦略を構築する、間接部門が現場の「代わりに」採用し、研修計画を考えてリスクマネジメントをする、などがそれにあたります。
 
こうした分業化は一定の成果を上げましたが、「現場の声が上層部には届かない」「上司と部下の間に権力勾配がある」などの負の側面もあります。さらに、社会の変化が激しくなった現代においては、必ずしも企業のトップ層が次の打ち手を見つけられるとは限りません。むしろピラミッド型組織の下層にいる現場の社員のほうが、顧客のニーズの変化を察知し、実情を掴みやすいはずです。
 
こうした事実が大きな転換点となり、新しい組織変革が模索されるようになりました。その流れを受けて生まれたのが、「ティール(進化型)組織」という組織モデルです。一人ひとりが変化を察し、考えるセンサーを取り戻し、意思決定・適応していく力を持ったティール組織のあり方が、今の時代に求められ始めているのです。

ティール組織であるための3要素とは


ティール組織と一口で言っても多様な形態がありますが、いずれも次の3つの共通点を持っています。

◆セルフマネジメント(自主経営)


ティール組織では一人ひとりが自由に意思決定できる裁量権を持ちます。予算管理から人を雇うことまで、上司の指示を待つのではなく、メンバー各自が自らの意思で決定します。
 
たとえば、蚊に刺されたとき「次はどうしよう?」と脳に指令を求める人はほとんどいません。多くの人はその場で反射的に叩くなどの判断・対応をするはずです。そんな風に現場で物事を解決することを「自己修正」と呼びますが、ティール組織においては各人がいかに現場で自己修正を行えるかが、組織構築の鍵になります。
 
従来、組織の目的を達成するために経営者やリーダーが担う大きな仕事は「物差し作り」「モニタリング」「フィードバック」の3点でした。つまり、現状を確認し、問題があれば策を考え、介入するのがリーダーの役割だったのですが、ティール組織においては現場が自らこれを担う状態になっていきます。

◆全体性(ホールネス)


メンバーの能力の一部ではなく、その人自身のすべて(全体性)をさらけ出せる安心・安全な状態をつくることがティール組織では重視されます。なぜなら、ありのままの自分でいられる安全な職場では、その人自身ですら気づかなかった本当の姿(強さ・弱さ・情熱を持てるもの・個性など)が明らかになるからです。
 
「全体性」は今流行りの「心理的安全性」とイコールで捉えられることがありますが、自分の意見を安心して発信できる心理的安全性よりもさらに一歩踏み込んだ概念です。『ティール組織』の著者であるフレデリック・ラルーは、「魂という野生動物を表に招く」という教育学者のパーカー・パーマーの言葉を引用し、「全体性」が表面的なものではなく内面をも含むことを表現しています。

◆存在目的(パーパス)


ティール組織は組織内の上下関係をなくすため、上司のように指示を出す人がいません。そのため各自が企業の「存在目的(パーパス)」に照らし合わせて自ら行動する必要があります。一人ひとりが「この組織は何を実現するために存在するのか」というパーパスを探求していきます。
 
それが機能するためには、パーパスは一人ひとりの内面エネルギーを引き出すものでなければなりませんが、無理やりに明文化する必要はありません。それよりも常に個々人が探求し、チームや組織として対話を重ね、行動を通じて方向を修正していくことの繰り返しが、本当の意味での存在目的として機能するはずです。

ティール組織がもたらすメリットとデメリット


セルフマネジメント、全体性、存在目的の3つが相互に強化し合う組織においては、個人と組織にそれぞれ次のようなメリットが生じます。

◆メリット

・個人の場合

  • 働く充実感と喜びを感じられる
  • 共鳴できる目的に集い、安心・安全な仲間と日々仕事をできる
  • 自分の貢献領域を仲間とすり合わせながら、自分で意思決定ができる
  • 仕事を通じて、それまで気づかなかった自分に出会える

・組織の場合

  • 変化に柔軟に対応できるタフな組織になれる
  • 決定権が経営層以外にもあるため、時代の変化に自然に適応できる
  • 「採用担当」「営業担当」と細分化しなくても、「全員が採用担当であり営業担当」のような組織が実現するため、組織としてのエネルギー効率が良い

◆デメリット

・個人、組織共通

  • メンバー一人ひとりの意識改革が必要であるため時間がかかる
  • 進捗管理やリスク管理が難しい
  • 明確なモデルが存在しない

ティール組織を実践するためには

中小企業がティール組織へと変革していくにあたって、従来型の組織変革アプローチである「ゴールを定めてステップを構築していく」ことは当てはまりません。ティール組織の実践の形は、10社あれば10社とも違うプロセスになるからです。
 
小さな実験を重ねながら、「私たちに本当にふさわしい組織形態はなんなのか?」「どこから取り組むことが相応しいのか」と常に試行錯誤を繰り返すほかありません。参考に、次のステップが役立ちます。

◆第一のステップ:経営者の変容

経営者自らが変容することをしなければ、組織を変えることはできません。経営者は「なぜティール組織を目指したいのか(今の組織を変えなければならないのか)」を根本的に考え、心から語れる言葉を紡いでいく必要があります。

◆第二のステップ:多様性に基づいたコアチームの形成

できるだけ多様な人が参画し、コアチームを形成します。様々な背景を持つ人が関わることで複数の視点が生まれ、今の組織の問題点や、成長を妨げているものが何かを探っていきます。

◆各ステップがうまく機能しない場合に見直すこと

事業内容に誇りがあり、社員の関係性も良好なのに、イノベーションが生まれていないのであれば、「セルフマネジメント(自主経営)」の部分に改善ポイントがあるかもしれません。その場合は、自主経営を段階的に導入するなどの対応策があります。
 
すでに具体的に運営モデルが構築されている「ホラクラシー(社内に役職や階級が一切存在しない、フラットな組織構造のこと)」のようなパッケージを導入する方法もあるでしょう。また、意思決定の前にすべての関係者と専門家に意見を求める「助言プロセス」を試してみる、組織全体として運営ルールを定めるのではなく、チームごとに運営ルールを独自で設定する、ITシステムを導入して情報の透明性を強化するなど、さまざまな方法があります。
 
・全体性が機能しているかどうか
ある程度は自律的に働く環境が整っており、また取り組んでいる事業内容やサービスも誇りを持てるような内容になっているにも関わらず、陰口が横行していたりチャレンジする人を斜めに見たりする文化が強い場合は、「全体性」が介入ポイントかもしれません。
 
全体性が機能していない職場では、人は自分の本心や不調が打ち明けづらくなります。お互いの内面をありのままに打ち明け合い、互いを信頼し合えるようなワークや仕組みを作りましょう。
 
・存在目的(パーパス)は適切かどうか
事業内容が競合他社と似たり寄ったりで、仕事に誇りが持てない状況であるのならば、「存在目的」から問い直した方が良いでしょう。
 
これらは、一度行ったからといって終わりではありません。変革の入り口を探し取り組んだら、その結果からの学びを振り返り、次の変革の入り口を探します。これを繰り返し続ける必要があります。

ティール組織を実践する際の注意点

矛盾するようですが、前提として「ティール組織は正しいものでも目指すべきものでもない」という理解が重要です。この概念の提唱者であるフレデリック・ラルーは、「歴史を俯瞰的に見たときに、今の時代にティール組織に当てはまる事例がいくつか出現してきた」と述べているに過ぎません。
 
たとえるならば、馬車の時代に自動車が誕生し始めたようなものです。道路は舗装されていない砂利道で、部品は壊れやすく高い。ガソリンスタンドも整備されていなければ、高速道路もない。そんな状況でティール組織という自動車を購入しても不便極まりないでしょう。ティール組織は必ずしも今の時代にふさわしい形態ではない場合もある、という視点を持つことも大切です。
 
ただし、健全な組織を作る上でティール組織の考えを活用できる場面もあります。組織の変化は一つひとつ異なるため、「ティール組織の導入を支援する」と提案してくるコンサルタントにはむしろ注意が必要でしょう。
 
また「最先端の組織モデルだから導入しよう」とトップダウンで社内に「ティール組織プロジェクト」を作るよう指示する、といった矛盾したアクションにならないように注意してください。

成長できる組織作りのために


ティール組織とは、パフォーマンスや能力といった機能面だけではなく、働く人が安心して自分らしさを発揮できる組織を目指す考え方です。会社という歯車の一つではなく、豊かに変化する人間として、良いときも悪いときも組織に居場所がある。ティール組織が目指すのは、そうした温かい組織の形です。
 

<取材先>
嘉村賢州さん
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事。東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授。『ティール組織』(英知出版)解説者。
 
TEXT:阿部花恵
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

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