「配置転換」とは
「配置転換」とは、人事異動の一つです。同一勤務地(事業所)内において、勤務箇所(所属部署)が相当の期間にわたって変更されることを「配置転換」といいます。また、従業員の勤務地が相当の期間にわたって変更される場合は「転勤」になります。
人事異動には、配置転換のほかに以下があります。
◆人事異動の種類
企業内……配置転換、転勤、昇進・昇格・降格
企業外……出向、転籍
配置転換における企業の権限
企業には、人事権の一つとして従業員の勤務内容や勤務地を決定する権限があります。その権限に基づいて従業員の配置を変更することができます。ただし、以下の2点に注意が必要です。
1.労働契約書や就業規則の内容
配置転換を命ずる配転命令の有効性は、労働契約書や就業規則の内容によって判断します。これらに配置転換を根拠づける規定があれば、原則として企業の配転命令は有効となります。ただし、従業員との労働契約で職務内容や勤務地を限定する合意があった場合、その合意に反して配転命令を行うことはできません。このように企業の配転命令は原則として有効ですが、権限の濫用と評価される場合は無効となる場合があります。
2.権限の濫用
1)業務上の必要性
配転命令は、あくまで業務上の必要性があって行われるべきものです。会社批判の中心人物を遠ざけるためや退職に追い込むためなど、不当な動機・目的をもってなされた配転命令は、権限の濫用として無効になる場合があります。
2)従業員の利益への配慮
たとえ業務上の必要性があったとしても、同居家族の介護のために転勤ができない状況を知っていながら配転命令を実行した場合などは、従業員が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を課すものと評価され、権限の濫用ととられる可能性があります。
一方、労働契約で職務内容や勤務地を限定する合意がない場合や、配転命令が権利の濫用とならない場合は、従業員はこれに従う義務があります。従業員が配転命令を拒否したら、企業はまず配転先での業務を促します。それでも拒絶した場合、業務命令違反を理由に懲戒処分を検討することになります。
配置転換がパワハラになるケース
パワハラとは、以下に該当するケースをいいます。
◆パワハラの6類型
- 殴る・蹴るなどの「身体的な攻撃」
- 暴言や侮辱などの「精神的な攻撃」
- おおよそ達成できないノルマを課すなどの「過大な要求」
- 本来すべき仕事を取り上げて単調な作業ばかりさせるなどの「過小な要求」
- 仲間はずれや無視などの「人間関係からの切り離し」
- プライベートに過剰に介入するなどの「個の侵害」
配置転換の目的や内容、配転命令に至る経緯、その後の経緯などにおいて、上記の6類型に該当する事情があれば、配置転換はパワハラになる場合があります。以下は具体的な一例です。
◆配置転換がパワハラになる具体例
・3の「過大な要求」に該当
前項で説明した2点に該当するにもかかわらず、無効な配転命令を執拗に強要すること。
・2の「精神的な攻撃」、4の「過小な要求」、5の「人間関係からの切り離し」に該当
上司に反論したことに対する報復人事としての配置転換や、退職を目的としたいわゆる追い出し部屋への配置転換など。
・2の「精神的な攻撃」に該当
配転命令自体は有効であっても、その配転命令に至る経緯やその後の経緯の中で、暴言や侮辱(「左遷」「島流し」「負け組」などの表現を用いる)行為があること。
配置転換におけるリスクを避けるための注意点
配置転換におけるリスクを避けるためには、まず労働契約書や就業規則において、配置転換の有無や範囲を明確にすることが必須です。不明確であると、配転命令を下す際に企業と従業員の間で認識のギャップが生じ、紛争に発展しかねません。
そうならないためにも、定期的に労働契約書や就業規則を見直しましょう。わかりにくい内容、誤解を与える内容になっていないか、専門家など第三者的な立場の人の意見を聞くことも大切です。
そして、何よりも重要なのは、従業員の意見や事情を十分に聞き取ることです。配転命令があれば、従業員は多かれ少なかれ不安やストレスを感じます。企業としては新たな挑戦を促す前向きな配置転換のつもりでも、従業員は「企業や上司が自分を嫌っている」「自分に能力がないから配置転換されたのでは」と疑心暗鬼になるかもしれません。
今後ますます重視される企業の配慮義務
配転命令を濫用しないことや、従業員が被る不利益に配慮することは当然ですが、配置転換の目的や理由、その意義を十分に説明し、従業員に納得してもらうことが肝要です。
昨今、「育児・介護休業法第26条」の「子の養育または家族の介護状況に関する使用者の配慮義務」の定めが重視されています。配転命令の有効性の判断に際しても、従業員の育児・介護状況が相当程度考慮される傾向にあります。従業員の家庭の事情を注意深く聴取し、心理的なケアを行いながら配置転換を進めていく必要があるでしょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年9月時点のものです。
<取材先>
弁護士法人ブレイス 弁護士 渡邉直貴さん
京都大学法学部卒業。弁護士としてのモットーは「局地的な勝敗」ではなく「終局的な解決」。お客様がより幸せになれる終局的な解決に向けた多面的なアドバイスで、安心感と満足感を与える法的サービスを提供。税理士・社労士・メンタルヘルスマネジメントⅠ種の資格も有している。
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト