通勤手当と支給方法
◆通勤手当とは
通勤手当とは、通勤にかかる費用の全部または一部を従業員に支給することを指します。電車やバス、自家用車など、従業員の通勤方法に応じた手当が支払われます。通勤手当については法律での規定はなく、会社の裁量に任せられています。しかし就業規則などで通勤手当を支給する旨を明文化している場合は、支払いの義務が発生します。
また、人材募集に際しては、募集要項に通勤手当を含む諸手当の有無と、全部か一部かなどを明示する必要があります。(職業安定法第五条の三)
◆通勤手当の支給方法
・定額支給
従業員の定期券代を、毎月定額で支給する方法です。6カ月分の定期券を購入する場合は、6で割った額を毎月支給するケースもあります。
・実費支給(変動支給)
従業員の通勤費を毎月の出勤日数に応じて支給します。従来は事務コストの負担で実費精算は敬遠されていましたが、近年は、アプリケーションの発達によって計算が容易になったことやテレワークの拡大により、実費支給へ切り替える企業もあります。
・現物支給
定期券を現物で支給します。ただし、労働協約による別段の定めがある場合や、従業員と個々で合意を得ている場合に限ります。
退職時の通勤交通費精算のよくある事例
◆有給休暇中の通勤交通費も支払う必要があるの?
退職前の従業員が、退職日までに有給休暇をまとめて消化するケースがあります。企業には従業員の通勤交通費を支払う法的義務はないため、有給休暇中の通勤交通費を支給する必要はありません。しかし、就業規則に有給休暇中も通勤交通費を支給する旨が記載されている場合は、支払う必要があります。
◆退職日以降も通勤定期券の有効期限が残っている場合は?
従業員が月の途中で退職した場合、賃金規程に1カ月分の定期券代を支給する旨の記載があれば、月の途中で退職しても全額支払う必要があると考えられます。
一方、たとえば6カ月分の定期券を購入済みで、有効期限が1カ月以上残っている場合などは、企業は従業員に対して残った定期券代金の返還を求めることは可能です。ただし、就業規則に退職時の交通費精算について規程がない場合は、返還に応じてもらえなかったり、トラブルにつながったりする可能性があります。
◆出勤日数分の交通費を支給している場合は?
通勤定期券代ではなく、出勤日数分の通勤交通費を支給している場合は、退職日以降の交通費を支払う必要はありません。
就業規則でどのように規定するのが望ましいのか
就業規則においては賃金の締日・支払い日を定めなければなりませんが、締日前の退職による賃金の精算方法について明文化して定めている企業は意外に多くありません。
退職時の通勤手当の扱いについては、当月で日割り計算をすることが一般的です。「従業員が月途中で退職した場合は、出勤実日数で日割りをする」など精算の方法などを就業規則で規定し、周知しておく必要があります。
通勤手当はそれほど多額でないこともあり、退職時や長期休業時などのルールが規程から漏れてしまいがちです。例外のないように規定し、トラブルを回避しましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年5月時点のものです。
<取材先>
RESUS社会保険労務士事務所 代表 山田雅人さん
人事コンサルティング会社にて大企業を中心に、10年以上にわたって全国500社以上の人事制度導入・見直しに携わり2016年に独立開業。中小企業の人手不足解消を目的とした事務代行や制度設計を支援している。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




