3年後の離職率はあくまでも目安の一つ
早期離職の指標が一般的に「3年」とされているのは、1つの仕事を習得するまでにかかる時間がおおよそ3年と考えられるためです。離職率はあくまでも目安であり、業界や業種によって平均値は異なります。
早期離職は、必ずしも全ての企業にとってマイナスな要素になるわけではありません。早期離職が問題になるかどうかは、企業の体質によっても異なります。
新入社員が成果を出すまでには、基本的にある程度の時間を要します。独り立ちする前に退職されると、企業はこれまで教育に費やしたコストを回収できなくなります。一方、早期離職率が高い企業であっても、1年目からトップ営業マンとして売上に貢献してくれる人材ならば、3年後に退職したとしても企業はリターンを得られると言えます。つまり、その企業にとって早期離職は問題視されません。
さらに早期離職が良い影響をもたらすケースもあります。たとえば、ある大手企業には「キープヤング」という考え方があり、早期離職によって人材の流動を活性化させています。また、単純に業績悪化などを理由に早期離職の希望者を募る企業も存在します。つまり早期離職をどのように捉えるのかは企業の文化や状況にも左右されるでしょう。
求職者や社員にとってマイナスに働く場合もある
ただし、早期離職の割合は求職者からチェックされているポイントの一つです。特に学生からすると、離職率の高い会社はネガティブに映る可能性があります。「職場の雰囲気が悪いのかもしれない」「労働と収入のバランスが合っていないのでは」など、何らかの原因があると受け取られてしまいかねません。
また、早期離職は社員にとってもマイナスとなる可能性があります。業務に必要なスキルを習得する前に転職してしまうと、新しい環境でイチから取り組むことになります。転職活動においても、実績のある方が評価されやすいでしょう。つまり、何も身につかないうちに退職してしまうのはデメリットになり得るのです。
今後、早期離職率が上がる恐れも
現在は問題がなかったとしても、今後、企業の早期離職率が上がる恐れがあります。なぜなら、新型コロナウイルス感染症の影響によって、業務以外の繋がりを持ちにくくなっているためです。これまでは同期との関係をはじめ、同じ大学の出身者やサークル活動など、業務上の繋がりとは離れた“インフォーマル”なコミュニティを作りやすかったはずです。悩みがあっても社内の人に相談しやすく、会社に対する愛着も生まれやすかったでしょう。
しかし、リモートワークが導入され、気軽に交流できる機会が減少したため、会社で働いている意義を持ちにくくなっています。早期離職する社員を増やさないためにも、企業としてはどのようにカバーすべきか模索している段階です。オンライン飲み会を開催したり、対面で会うイベントを設けたりと試行錯誤しています。
採用活動において不利になる側面はあるものの、早期離職の数値だけを気にする必要はありません。しかし、社員と企業の双方にとって不本意な退職は避けたいところです。働き方が変わりつつある今だからこそ、どのような取り組みを行うべきか検討しましょう。
<取材先>
人材研究所 代表取締役社長 曽和 利光さん
京都大学卒業後、リクルートに入社。人事部のゼネラルマネージャーとして培ったスキル・ノウハウと、2万人の面接経験を融合しワンランク上の人材を採用する独自手法を確立。その後、大手生命保険会社などで一貫して人事領域で活躍し、2011年に株式会社人材研究所設立。著書に『就活「後ろ倒し」の衝撃』(東洋経済新聞社)などがある。
TEXT:成瀬瑛理子
EDITING:Indeed Japan + ノオト
