産休や育休、前例がない会社で社員に取得させるには


男性の育休取得が話題になる一方、中小・ベンチャー企業では、そもそも「女性の産休・育休の前例がない」企業も少なくありません。社員が産休・育休を取得できないのはなぜか。また、産休・育休を取得しやすい職場づくりのために企業ができることとは?
 
産休・育休の取得に向けてどのような工夫や準備が必要なのでしょうか。うたしろFP社労士事務所の社会保険労務士、歌代将也さんが解説します。

 
 

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なぜ社員が産休・育休を取りにくいのか

 
 

◆社員の業務負荷が大きい中小・ベンチャー企業


中小・ベンチャー企業において、社員が「産休・育休を取得しにくい」と感じる要因の一つに社員一人あたりの業務負荷の大きさが挙げられます。従業員数の多い大手企業であれば、他部署からの異動によって補充があったり、チーム内でこぼれた仕事をカバーし合ったりすることも可能ですが、もともと人手不足感のある中小・ベンチャー企業では同様の動きがなかなかできません。
 
加えて、採用コストや育成負担の理由から欠員補充を行わない企業もあり、その場合は残された社員の業務負荷がさらに深刻な課題となります。

 
 

◆「前例がない」を理由に社員が遠慮することも


設立から日が浅く産休・育休の前例がない、あるいは「妊娠した女性社員は退職することがあたり前」などの慣習が残っている企業の場合、社員自ら「私は取得できないだろう」と判断し、希望しないケースもあります。また、「育児をしながら、この会社でハードな仕事をこなせるイメージが持てない」と、労働環境の問題から転職を選択する人もいます。

 
 

社員が産休・育休を取ることで生じる、企業側のメリット・意義

 
 

◆長期的な人材育成が可能になる


妊娠・出産のタイミングで社員が離職をせず、産休・育休をとって復帰できれば、長期的な人材育成につながります。そしてこれは、社員が培ってきた豊富な経験や専門性が会社に残ることを意味します。研修やOJT、仕事機会の提供など、これまで会社が行ってきた人材育成への投資を回収する視点でも、社員に長期的な活躍を促すことは重要です。

 
 

◆効率的な働き方を推進するきっかけに


「子どもを保育所に迎えに行くために必ず17時に帰宅しなければならない」などといった時間の制約のある働き方は、業務の効率化に繋がるチャンスでもあります。また、育児中の社員や時短勤務者がいることで、組織内の業務を見直すきっかけが生まれ、生産性の高い組織カルチャーをつくる一助にもなるでしょう。近年、政府が推し進めている「働き方改革」の原動力ともなり、働きやすい職場づくりや従業員満足度の向上にも寄与するはずです。

 
 

◆企業イメージや採用力アップにつなげる


安心して産休を取得できる会社であることや育休からの復帰後に活躍している社員がいることは、働く社員の安心感を生むだけではなく、対外的なアピールにもなり得ます。産休・育休の取得率の高さは、学生が就職先を選ぶ指標の一つになる時代です。
 
反対に、妊娠・出産のタイミングで社員が次々と辞めてしまう企業はイメージダウンになることも。今後の採用活動の難易度がますます上がってしまう懸念があります。

 
 

◆組織内のダイバーシティが高まる


妊娠や子育ての経験を通して、社員は新たな視点を獲得します。会社員生活では接する機会が少なかった地域社会との関わりが生まれたり、環境問題や政治に興味を持つようになったりすることもあるでしょう。
 
子育ての経験から新たな視点や知見を得た社員が組織に戻ることで、仕事にもプラスの効果が期待できます。産休・育休の取得を後押しするのは、イノベーションが生まれやすい組織内ダイバーシティを実現するうえでも重要です。

 
 

産休・育休を取得しやすい職場づくりを実現するには

 
 

◆「長く活躍してもらいたい!」企業側の意思を伝えよう


まずは制度づくりの前に、女性社員に対して「長く仕事を続けてほしい」という会社側の意向をしっかりと示すことが大切です。
 
産休・育休の前例がほぼない会社で先駆けて産休・育休を取得した女性に話を聞いたところ、「上司からあたりまえのように『また戻ってくるでしょう?』と声をかけられたので、育休をとることにした」と語っていました。これはあくまで一つの事例ではありますが、会社側が産休・育休の取得を奨励しているかどうか、その態度が社員にしっかりと伝わっているかどうかは、その後の人材定着に小さくない影響を与えるのではないでしょうか。

 
 

◆助成金の活用も視野に


仕事と家庭生活の両立支援や、女性の活躍推進に取り組む事業主を応援する制度に、厚生労働省が行う「両立支援等助成金」の「育児休業等支援コース」があります。支給対象となるのは中小企業のみ(業種ごとに資本金もしくは従業員数により中小企業の範囲が定められています)。
 
必要な申請を行えば、「育休取得時」「職場復帰時」「代替要員確保時」「職場復帰後の支援時」に助成金が支給されます。具体的には以下のケースです。
 
1. 育休取得時
育休復帰支援プラン(※)を作成し、プランに基づき育児休業を取得させた場合


※育休復帰支援プラン……労働者の育児休業の取得・職場復帰を円滑にするため、育児休業者ごとに事業主が作成する実施計画のこと。


2. 職場復帰時
上記の育休取得時の対象労働者と同じ人材を、育児休業後に職場復帰させた場合。育休取得者の業務を代替する職場の労働者に業務代替手当等を支給するとともに、残業抑制のための業務見直しなどの取組みをした場合は助成金が加算されます。
 
3. 代替要員確保時
育休取得者の代替要員を確保した場合。さらに、育児休業者が有期雇用労働者の場合は助成金が加算されます。
 
4. 職場復帰後支援
法律を上回る、子の看護休暇制度を導入し、育児休業復帰後の労働者に利用させた場合。または保育サービス費用補助制度(ベビーシッター費用補助など)を導入し、育児休業復帰後の労働者に利用させた場合。

 
支給額 1年度とは令和2年4月1日から令和3年3月31日の期間を指します。()内の金額は、生産性要件を満たした場合の支給額です。 支給額 支給人数/回数 [1]育休取得時 28.5万円(36万円) 1事業主2回まで (無期雇用者・有期雇用者 各1回) [2]職場復帰時 28.5万円(36万円) 職場支援加算:19万円(24万円) 1事業主2回まで (無期雇用者・有期雇用者 各1回) [3]代替要員確保時 47.5万円(60万円) 有期雇用労働者加算:19万円(24万円) 1年度 延べ10人、5年間 (くるみん認定を受けた事業主は、令和7年度まで延べ50人を限度に支給します) [4]職場復帰後支援 子の看護休暇 制度導入時※1 28.5万円 (36万円) 1事業主1回 制度利用時 1,000円(1,200円) ×時間 1事業主5回まで※2 (1年度200時間(240時間)まで) 保育サービス費用補助 制度導入時※1 28.5万円 (36万円) 1事業主1回 制度利用時 事業主負担額の3分の2 1事業主5回まで※2 (1年度20万円(24万円)まで) ※1 「子の看護休暇」または「保育サービス費用補助」のいずれか一方の制度のみ申請可能(制度導入のみの申請は不可) ※2 「制度利用時」については、1人目に係る支給申請日から3年以内に5人まで


それぞれ申請にあたって様々な条件があり、申請業務の負荷はかかりますが、産休・育休取得実績のない企業では、これらの条件に沿って社内制度をつくることも可能です。
 
このほか、両立支援を目的とした助成金を用意している都道府県もあります(例:東京都「働くパパママ育休取得応援奨励金」)。興味のある企業は、活用を検討してみてください。

 
 

◆育休復帰後の手厚いケアが、人材定着のカギ


産休・育休の取得を推進することも大切ですが、実は、それ以上に重要なのは「職場復帰後のサポート」です。
 
第一子の育休から復帰した社員は、初めての子育てと仕事の両立にチャレンジすることになります。人事担当者は、復帰社員の不安な気持ちを汲み、面談の場を設けたり、配属先の上司やチームメンバーの協力が得られるように必要なサポートについての働きかけを行ったりすると良いでしょう。
 
産休前に、勤務形態や子の看護休暇などの制度を整えておくことはもちろん、いかに育児への理解がある組織をつくれるかが、人材定着のカギを握ります。たとえば、保育園への入園当初は熱を出したり、体調を崩したりする子どもが多いなどの情報を、あらかじめ上司や職場の同僚に周知しておくようにします。
 
また、社員の産休・育休中や復帰後は、一時的に業務負担が増えた周囲の社員のケアも欠かせません。賞与などで一人ひとりの頑張りを正当に評価し、感謝の気持ちを伝えるなどの配慮と工夫が求められるでしょう。

 
 
 

※記事内で取り上げた制度は2021年2月時点のものです。
 
監修:うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也
 
TEXT:猪俣奈央子
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 

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