労災発生後、速やかに「労働者死傷病報告」の申請を
――「労働者死傷病報告」とは何でしょうか。
労働災害が発生し、従業員が死亡または休業したときに、企業が提出する報告書です。提出先は労災が発生した場所の最寄りの労働基準監督署で、従業員の休業期間により申請書の様式や提出方法、期日が異なります。
【労災による休業が4日以上の場合】
労働災害が発生したら、遅滞なく労働基準監督署に報告書を提出しなければならない。
【労災による休業が1日~4日未満の場合】
下記の期間ごとに発生した労働災害を取りまとめて報告しなければなりらない。
1~3月に発生した労災:4月末日までに報告
4~6月に発生した労災7月末日までに報告
7~9月に発生した労災:10月末日までに報告
10~12月に発生した労災:1月末日までに報告
申請書の様式はどちらも厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
報告する内容は、労働災害が起こった日時や事故の内容、どのような状況において事故が起こったかということです。事故の現場にいなかった人が読んでも事故の概要が分かるように書きましょう。記載内容に分かりづらい点や曖昧な点があると、労働基準監督署から聞き取り調査を求められる場合もあります。
職場で事故が起こっても、従業員が休業していない場合には労働者死傷病報告を提出する必要はありません。また、通勤時に発生した労働災害は労災保険の対象ですが、労働者死傷病報告は提出不要です。
――労災保険の請求のための申請書とは別に、「労働者死傷病報告」も出さなければいけないということなんですね。
その通りです。労災保険の給付申請書は、従業員自身が提出することもできますし、会社を通じて提出することも可能です。本人が入院しているなどの理由で給付申請の手続きが難しい場合などには、企業は速やかに申請ができるよう代行するなど手伝わなければならないとする「助力義務」があります。
ちなみに、労災保険による休業補償の給付が行われるのは休業4日目以降となります。労災による休業が4日未満の場合は労災保険ではなく、使用者が労働者に対して休業補償を行わなければなりません。
届出を怠ると50万円以下の罰金も
――休業した従業員が契約社員や派遣社員であっても、企業は労働者死傷病報告を出さなければならないのでしょうか。
契約社員やアルバイト、パートなど雇用形態に関わらず申請が必要です。派遣社員の場合は、派遣元の企業と派遣先の企業の両方に労働者死傷病報告を提出する義務があります。業務委託契約をしている場合は、労働者に当たりませんから申請する必要はありません。
――従業員の休業理由が、労働災害によるものか判断に迷う場合はどうしたらいいのでしょうか?
けがや病気が労災に当たるか否かを判断するのは、企業ではなく労働基準監督署です。迷ったらやはり労働基準監督署に相談されるのが良いと思います。
休業が4日以上の場合は「遅滞なく」申請しなければなりませんし、4日未満でも報告の期日は決められています。「労災ではない」と思い込んで労働者死傷病報告を出さずにいたら、実は労災だった、ということの無いようにしたいものです。意図的に労働者死傷病報告を出さなかった、労災を隠蔽していた(労災隠し)と判断されれば、50万円以下の罰金など非常に厳しく罰せられることがあります。
労災の防止と、発生時のトラブル防止への備えを
――労災にまつわるトラブルを防ぐために、企業が普段から気をつけておくべきことはありますか。
何よりも、まずは労働災害を防ぐための対策を怠らないことです。労働契約法に定められているとおり、企業には労働者に対する安全配慮義務があります。事故が起こりにくくなるよう設備を整える、作業のマニュアル化を進める、「ヒヤリ・ハット」の事例を共有する、危険予知トレーニングを行うなど、定期的に社員の教育・研修機会を設けましょう。
工事現場や工場でのけがばかりではなく、最近では長時間労働やパワハラなどによる強いストレスが原因と認められた場合は、うつ病や適応障害といった精神疾患も労働災害と認定されることがあります。労働時間の見直しやハラスメント防止の研修、あるいは定期的なメンタルヘルスチェックは、労働災害の防止にもつながるのではないでしょうか。
――やはり労災を起こさない努力が大切ですね。それでも災害が起こってしまった時のために準備しておくとよいことはありますか。
経営者や労務管理の担当者は、労働者死傷病報告や労災給付の申請など、労災発生時の手続きについてしっかりと学び、正しい知識を身につけてください。
また、就業規則に「休業にまつわる規定」を定めておくことをお勧めします。労災によるけがや疾病の治療が長期間にわたる可能性があるためです。
労災は職場環境の不備によって引き起こされることが多いため、被災した従業員には企業が誠意を持って補償すべきです。とはいえ、何年にもわたって治療が続くような場合、休業する従業員に対して企業が社会保険料の半額を負担し続けることは、特に中小企業にとって現実的ではないと考えられます。
そこで、就業規則に「○○日以上連続して休業した場合には雇用契約を終了することができる」と規定しておきます。期間はそれぞれの企業の規模や事情に合わせて決定すれば良いと思いますが、傷病手当金が支給される1年6カ月が一つの目安になるでしょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年10月時点のものです。
<取材先>
クオーレ労務経営 代表 戸川一秋さん
特定社会保険労務士、行政書士、採用定着士。ひかり物流株式会社 代表取締役、株式会社田島運輸の取締役も兼任。クオーレ労務経営の代表コンサルタントとして、企業法務、労務管理、採用相談、就業規則の作成やリスク対策など、幅広く企業の人事労務、企業法務関係のサポートに取り組む。
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト