内定者研修の目的とは
企業が内定者研修を行う目的は、大きく分けると次の3要素になります。
1. 内定辞退の防止
2. 同期とのつながりの強化
3. 能力開発・育成
1~3のすべてを目的として内定者研修を設計している企業もありますが、いずれか一つに重きを置く企業もあります。内定者研修を行う時期や期間、内容と、どのポイントを重点的に行うかは、業種や企業によって多種多様です。
また、これらの3要素を踏まえた内定者研修を行うことで、新入社員が入社後に「こんなはずではなかった」と感じさせないようにすることも内定者研修の大きな狙いです。
入社後に「こんなはずではなかった」と期待値と現実のギャップを感じる状態は「リアリティショック」と呼ばれています。リアリティショックには企業への期待値が高すぎたパターンと、低すぎたパターンの2種類があります。いずれの場合であっても幻滅や失望を招いて内定辞退や早期離職につながりやすくなるため、内定者研修を通じて期待値のズレを調整することも内定者研修の重要なポイントといえるでしょう。
内定者研修のバリエーションは多種多様
内定者研修の実施形態として最もシンプルな形は、10月初旬に実施される内定式にあわせて、同日に内定者研修も行うケースです。ただし、そこから4月の入社時期までは約半年ほど間が空いてしまうため、「入社時には研修で教わったことを忘れていた」というケースも珍しくありません。
そのため、最近は多くの企業で入社前に内定者インターンシップを実施することで、ビジネスマナーやOAスキルの習得、能力開発・育成を前倒しにし、内定辞退を防止できるような工夫を凝らす企業が増えてきた印象があります。
インターン以外の形でも、入社前に月に1度は2~3日ほどのまとまった時間を取って定期的に研修を行うことで、内定者同士の親睦がより深まりやすくなります。入社前の早い段階から接点が持てるようになると内定者同士のコミュニケーションも自然と活発化していくでしょう。
また、昨今はコロナ禍を経て合宿型の研修が減少し、オンライン研修を採用する企業が増加しました。結果、アクセスが不便な地方の内定者でもオンラインによる研修であれば参加しやすくなったため、リアリティショックの緩和につながっていることはコロナ禍の副産物といえるかもしれません。
内定者研修の設計方法
内定者研修を設計する際のポイントは、前述の3つの目的「内定辞退の防止」「同期とのつながりの強化」「能力開発・育成」のどこに重心を置くかによって変わってきます。
「同期とのつながりの強化」、「内定辞退の防止」を主目的とするのであれば、参加者同士が接点を持てるビジネスゲームやグループワークをプログラムに盛り込むのが王道の方法です。
◆あるデジタルマーケティングサービス企業の事例
内定式の翌日から3日間連続の内定者研修を行っています。研修のメインとなるグループワークでは5~6名ほどのチームに分かれて与えられた課題に取り組み、最終日にプレゼン発表してどのチームが優れていたかを競い合う形式になっています。
企業側はグループワークを通じて、内定者たちがどのレベルまでのデジタルマーケティングの知識を有しているのかを見極めながら、そこから逆算して「では入社前までにどのようなインプットが必要か」を参加者にフィードバックすることで気づきや学習機会を促します。このような優れたプログラムであれば、「能力開発・育成」の側面もあわせて強化されます。
企業側が内定者に対して、今はまだ入社前の段階であっても、「3年後、5年後にはどのような人材として育ってほしいか」という育成目標のビジョンを明確に持てていれば、こうしたフィードバックも可能です。
具体的なプログラムの課題は業界や企業によって様々ですが、グループワークやビジネスゲームを通じてプレゼン、コミュニケーション、フィードバックなどを参加者たちが当事者として体感できることがポイントです。
内定者研修で心得ておくべきこと
内定者研修がどれほどクオリティが高く、素晴らしい内容であっても、全員がその企業に残ることはなく、どこかの段階で内定辞退者や早期退職者が出てしまうことは避けられないと心得ておきましょう。
ただし、今後も優秀な人材を採用したいのであれば、退職する人がどのような理由で辞めるのかをきちんと把握しておくことは必要です。当人に他にやりたいことがあっての転職であれば仕方ありませんが、「キャリアパスが見えない」「上司との関係性が悪い」「会社としてフォロー体制が整っていない」のような企業側の問題が退職理由につながっているのであれば、企業としてはそこに向き合うべきでしょう。
そして、その原因を改善し、翌年以降の内定者研修のプログラムにフィードバックさせることは、企業としての成長にも直結するはずです。
まったく同じ内容の内定者研修を5年、10年と繰り返している企業もありますが、内定者研修においても時代のニーズに応じたアップデートを続けていくことが重要です。
<取材先>
株式会社ラーニングエージェンシー 組織開発コンサルティング本部
根本博之さん
内定者~新卒3年次までのファーストキャリア開発をはじめ、経営者向け1on1コーチング、幹部向け戦略策定トレーニング、管理職向けのリーダーシップ・マネジメント研修など、ベンチャー企業から数万人規模のグローバル企業まで、IT、商社、金融、メーカー、サービス業など約500社を支援。社内能力開発・組織開発部門および講師派遣型研修事業の責任者を務める。
TEXT:阿部花恵
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
