中小企業の採用戦略は経営者が自分をさらけ出すことから[第14回]不確実な時代に「人を活かす経営」とは?

 

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第14回 中小企業の採用戦略は経営者が自分をさらけ出すことから


中小企業が、優秀で意欲のある若手人材を確保するには、どのような採用戦略が有効でしょうか。やはり、大企業や公共機関などにはない、中小組織ならではの強みを自覚し、エッジを効かせることが必須です。
 
中小企業経営者は、自社の資金や人材には限りがあり、事業成績や収益も誇るべき規模ではなく、これと言ってアピールすべきものは乏しいと考えがちです。しかし、スタートアップの小さなベンチャー企業などでは、経営者自身が大きな理想を持ち、自社のミッションを定め、内外に自分の言葉で語ること。そのアクション自体が企業の魅力となり、人心を集める最大の経営資源になります。
 
こうした方針のもと、経営者はいかに採用戦略を期すべきか。FeelWorks 代表・前川孝雄さんが考察します。

 
 

中小企業ならではの強みを自覚する


前回(第13回)のコラムでも触れましたが、私が様々な企業の支援をする中で痛感するのは、企業規模が大きくなるほど、経営改革には困難が伴うことです。これに対し、中小企業は、経営者や管理職層の覚悟と準備さえ整えば、機敏に大きな変革を為し遂げやすいという強みがあります。
 
確かに日本の社会・経済の発展にとって大企業が果たす力は大きいものです。グローバル経済のなかで、その役割はますます重要になるでしょう。しかし組織が大きいが故に、経営改革や経営戦略の実行面から見ると、課題が多いのも実状です。
 
その要因は、いくつか考えられます。大半の大企業では、経営者は一定の任期付きの役職です。そのため、トップとして自社の現状に強い危機感を抱き、数十年の視野でビジョンを掲げても、本腰の改革を担うのは容易ではありません。わずか4年や6年で結果を求められ、それが社員数十万人規模のグループ企業ともなれば、到底大きなリスクは負えません。
 
また、上場企業であれば株主からの圧力もあり、どうしても短期的な利益や株価に神経をとがらせざるを得ません。その結果、遠大な思いはあっても成就できず、よきバトンを後進に引き継ぐこともままならないのです。大企業が大きな力を持ちながらも、真の改革に踏み出せないジレンマがここにあります。
 
これに対し、中小企業のオーナー経営者であれば、10年、20年先を見据えた経営戦略や改革を、自ら地道に手掛けることも可能です。私財や自分の時間の大半を経営につぎ込み、大きなリスクを一手に背負う重圧や苦しさも伴います。しかしその分、背水の陣で取り組む本気の改革、革新で応分の成果を上げることができ、これを評価し共感する有為の人材を集めることも可能になるのです。

 
 

顧客も社員も。民間企業はすべての人に好かれる必要はない


もう一つ、中小企業に限らず、民間企業としてのアドバンテージも意識しておくことです。行政機関や準公共的団体には、組織運営やサービスの透明性や公平性などが求められます。偏ったステークホルダーの関与や意向で経営を進めることは許されません。そして、全ての国民・住民に対する、広く遍く公平なサービスが求められます。国民・住民の税金によって賄われている場合も多いため、当然です。
 
しかし、民間企業、ことに小回りが利く中小企業ならなおのこと、全ての関係者に気を遣い、好かれる必要はありません。むしろ、より多くの顧客にサービスを提供しようとすれば、自社の強みや個性が失われます。その結果、どの顧客層からも支持されず、収益も得られず、存続が危ぶまれるのです。
 
そこで、自社として本当に「お役立ち」をしたいお客様だけに対象を絞り込み、徹底して自社らしい商品やサービスを提供することが有効です。これが、公共機関にはできない民間企業の特権です。
 
そして、このことは、採用についても同じことが言えます。自社への就職を希望する人の中から、自社の経営理念やビジョンに心から共感し、共に前向きに働く意欲のある人だけを採用することが大切です。
 
私がこの連載でも一貫して主張しているのは、働きがいのある職場にこそ、意欲のある優秀な人材が集まるということです。しかし、一歩引いて見るならば、世の中には、働きがいなどはあまり求めず、楽に「そこそこ」の給与や待遇が得られる職場で、無難に働こうとする人がいるのも事実です。
 
いくら優秀でスキルが高くても、そうした人を採用することは避けるべきです。そのような採用をすれば、これまで自社の経営理念やビジョンに賛同し、意欲的に働いてきた社員にマイナスの影響を与え、会社全体の士気の低下にもつながりかねません。

 
 

熱狂的なファンを社員にしよう


社員の採用にあたっては、「ぜひ、この人とは握手をしたい」と思える人だけに絞り、入社してもらうことです。できれば、自社のビジョン・ミッションに熱狂的なファンを社員にするのです。
 
このように語ると、「それは、今後求められるダイバーシティ・マネジメントに反するのではないか」との反論がありそうです。しかし、ダイバーシティの重視とは、従業員一人ひとりの個性や持ち味を大切にし、一方で各々の仕事や生活上の制約条件などに配慮することです。その意味での社員の多様性は十分に尊重したうえで、企業の理念やビジョンには全員の共感を得て、一枚岩で臨むことが重要なのです。
 
ここで、一つのエピソードを紹介しましょう。私は最近、海釣りのスポーツフィッシングにはまり、早朝から乗合の釣船で海に繰り出しています。気づいたのは、釣船を営む船宿は、釣り好きの脱サラ・オーナー船長が経営する中小企業であることも多いということ。常連客たちは、オーナーの人柄や釣りスタイルに惹かれて集まります。
 
釣船には、中乗りさんというスタッフも不可欠です。お客さんの釣りをサポートしたり、釣果に関わらず場を盛り上げるなど、船長のアシスタントとして釣行を円滑にする役割です。実は、この中乗りさんは、常連客が兼ねることが多いのです。人手不足の日など、釣り好きのファン客が一日アルバイトとして中乗りになるのです。慣れた手つきで釣り客をもてなしながら、一緒に釣りも楽しんでしまう一石二鳥のスタイルです。正に熱狂的なファンを社員にする経営で、三方良しなのです。

 
 

経営者は自分をさらけ出し思いを語れ


こうした理念経営、理念採用を行うためには、まず経営者自身が自社の理念やビジョンをしっかりと掲げ、それらが企業の組織運営や事業活動に一気通貫していることが不可欠です。そして、その理念やビジョンを社員にも社会に対しても、熱く語ることです。
 
経営者の中には、人前で自分をさらけ出して思いを語ることなど苦手だという、職人気質の人が少なくありません。黙って後ろ姿で示すことが自分のスタイルだ、という経営者もいらっしゃるでしょぅ。しかし、それでは効果的な採用戦略にはつながりません。大切なことは、やはり経営者がしっかりと経営理念やビジョンを語ることです。たとえ無骨でも稚拙であっても構いません。自分の言葉で、「このような経営がしたい」「このように社会に貢献したい」という思いを語りましょう。
 
今は、自社のホームページに「代表あいさつ」を書き込む方法もありますし、YouTubeに生の動画スピーチをアップすることも効果的です。コロナ禍であっても、オンラインの採用イベントなどに積極的に参加し、その中で社長自らが語りかけることもよいでしょう。強い自己主張をすれば、反感を買う場合もあるかもしれません。けれども、自らの個性を前面に打ち出すことで、熱狂的なファンも現れるはずです。
 
「全ての人に好かれることはない」。そして、「自分をさらけ出し語ること」。採用戦略はここから始めていきましょう。

 
 
 


株式会社FeelWorks代表取締役 前川 孝雄氏
Profile
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
 
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・バワハラ予防講座」「eラーニング・新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)等33冊。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)

 

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