第25回 株式会社出前館 国京 正樹さん
【プロフィール】
国京 正樹さん
業務歴:人事部門統括1年
2021年2月に、デリバリー総合サイト「出前館」を運営する株式会社出前館に入社。
人材マネジメント方針の策定、組織戦略の立案、採用・教育・評価等の人事制度方針の決定、人事制度の企画、採用面接他を行う。
採用人事の担当者におすすめしたい3冊は?
◆『心理学的経営―個をあるがままに生かす』
(大沢武志著/PHP研究所)
リクルート社の人事役員として組織文化を作ってきた著者が、人材マネジメントの原理原則について書いた本です。1993年に出版された後、長らく絶版になっていましたが2019年に復刻して今は電子書籍でも読むことができます。人事を担当することになったばかりの頃、いろいろな本を読みましたが、一番しっくりきたのが本書でした。
人事、経営者、心理学者、採用適性検査のSPI開発者と多様な顔を持つ著者だけに、内容も「モチベーションのマネジメント」「小集団と人間関係」「組織の活性化」「適性と人事」「個性化」「人材マネジメント」と、多岐に渡るテーマを取り上げています。
その中でも私は第三章「組織の活性化」が面白いと思いました。
著者は、人間は秩序をつくる動物であると同時に秩序を破壊する動物であると言います。そして無秩序から秩序を築き上げて、また無秩序へと循環する生命の営みそのものが活性化の過程だと捉えています。
「活性化は、既成の構造としての秩序を破壊することからはじまる。秩序の内側に眠りこけている人間の自然の生命力を挑発することで、組織のなかに“ゆらぎ”が起こる」と本書では記されています。
既成の価値体系や暗黙の行動規範への疑問、今のままではダメだという自己分析、過去の成功体験への否定。これらを促すことで引き起こされる葛藤と緊張が、組織内の均衡状態を崩す。雑然とした無秩序=カオスこそが組織を活性化するのであり、組織活性化の戦略として「カオスの演出」があると説明しています。
いろいろな組織のトップが無意識もしくは意識的にゆさぶりをかけて組織をひきしめていると思いますが、この章を読んでとっくの昔に理論的に検討されていたのだなと思いました。
また活性化はきれいごとで実現できるようなテーマではなく、時に心身の疲弊を伴う修羅場に身を置くことで新しい局面が開かれるという表現には、深くうなずく経営者や組織長の方も多いのではないでしょうか。
本書を読み、事業やサービスだけでなく組織も、事象(具体)と理屈(抽象)を何度も往復することで見える解像度が上がってくるのだなと思いました。
◆『世界標準の経営理論』
(入山章栄著/ダイヤモンド社)
早稲田大学大学院ビジネススクールの教授が、世界の経営学者が提唱している約30の経営理論をまとめた60万字もの大著です。経営理論がここまで網羅的・体系的に整理された本はあまりないと思うので、経営学の全体像をつかみたい方に良いと思います。
どの章を取り出して読んでもわかるようになっていますが、理論を深く理解するためには遡る必要があったりするので、時間がある方は通読をおすすめします。
著者によれば、あらゆるビジネスの事象・課題を、理解・洞察・予測するための思考の軸として「経営理論」は役に立つと論じています。M&A・競争戦略・人材評価・ガバナンスなど……ビジネスパーソンは様々なビジネス事象に取り囲まれており、「現象ドリブン(現象を思考の出発点にする)」の思考で行動しがちです。しかし、逆の「理論ドリブン(理論を思考の出発点にする)」の思考軸を持てば、学者では思いつかない理論→現象の応用を思いつくことも十分あり得るといいます。
従来の経営学の教科書やビジネス本は「理論」と「フレームワーク」を混乱して使ってきた、という指摘は面白いと思いました。経営理論はWhyにこたえるもので抽象的なものが多く、ほとんどフレームワークまで落とし込まれていません。学者に学術論文でなく、実務論文を書く誘因がないことも大きな理由です。
本書を読んで、事象を切り取る際に理論や概念の補助線を入れることで、構造理解や構造化がしやすくなることに気付きました。
事業と組織を有機的に結びつける枠組みと方法論について考える中で本書を読み、こうしたアプローチもあるのかと参考になりました。
◆『エリック・ホッファー自伝―構想された真実』
(エリック・ホッファー著/中本義彦訳/作品社)
エリック・ホッファーはドイツ系移民の子として1902年にニューヨークのブロンクスで生まれ、1983年に生涯を閉じた哲学者です。その人生は波乱に満ちたものでした。
7歳のとき失明し、15歳のとき突然視力が回復。再度失明する前に読めるだけ読もうと貪るように読書します。正規の学校教育を一切受けておらず、18歳のときに唯一の肉親である父親を亡くして天涯孤独となりました。
その日暮らしの貧しい生活を送る中、28歳で自殺未遂を起こします。命を取り留めて、「暖かくて野宿ができ、道端にオレンジがなっていて食うのに困らない」南カリフォルニアに移り農園を渡り歩いて働きます。
労働の合間に化学・数学・鉱物学などあらゆる学問にまい進し、読書と思索を重ねます。
大学教授との出会いを通じて研究職を用意するという申し出があったものの、港で荷揚げ・荷下ろしを行う港湾労働者になり肉体労働を続けました。その間も図書館で読書と執筆活動を続け、最初の著書を上梓した頃から、「沖仲仕(おきなかし)の哲学者」と呼ばれるようになりました。沖仲仕とは港湾労働者の旧称で、現在は使われない呼び名だそうです。
昔住んでいた横浜の歴史について調べているときに、港湾労働者の本からこの本にたどり着きました。地に足のついた思索が淡々と綴られていて、自分自身も「地に足をつけてちゃんとやろう」と思わせてくれた本でした。
放浪生活を経て、肉体労働に従事しながら作家修行をしていたという中上健次氏がファンになったのもわかる気がします。読み物としても面白かったので、誰か映画にしてくれないかと願っています。
【自社での取り組み紹介】ビジョン・ミッションの理解と浸透をはかるための施策とは?
コロナ禍でフードデリバリーが幅広い世代に利用されるようになり、競合環境が激化しています。その渦中にあり当社は新たな分野にも参入して、サービスをさらに進化していきたいと考えています。
第二創業期と位置付けるタイミングで、当社は「テクノロジーで時間価値を高める」という新たなコーポレートミッションを策定しました。
社内で新ビジョン・ミッションの理解を促し浸透させるためには、それを実現する行動を取ってもらわないといけません。そのため社員を巻き込み、「ビジョン・ミッションを実現するためにはどのような行動が必要か」をテーマにしたワークショップを小グループに分けて、合計40回ほど行いました。
ワークショップでのアウトプットを出前館の行動指針として取りまとめて、最終的には人事評価の項目にまで落としたいと考えています。
新たな成長局面を迎える当社において人事部門を統括する立場として、これからも読書で知見を広げ、考えを深めていきたいと思います。
TEXT:合戸 奈央
EDITING:Indeed Japan +ノオト