第26回 株式会社カヤック 歌野原 洋允さん
【プロフィール】
歌野原 洋允さん
採用人事業務歴:7年
前職は人材紹介・採用支援事業を展開する会社に所属し、5年間キャリアカウンセラーとして従事。その後、SES事業部門で営業職と兼任で採用人事を5年間担当する。
前職在籍時からユニークな経営方針を貫くカヤックのファンだった歌野原さんは、カヤック人事部に営業をかけ人材エージェントとして採用に携わる。カヤック好きが高じて社内人事に匹敵する情報量を誇るようになり、パートナーと認められるに至った。歌野原さんの紹介により入社した社員は、カヤックの成長事業をけん引する立場になったり、ヒット作品をプロデュースしたりと大活躍を見せる。
2021年11月には、ついに自身がカヤックに入社する。カヤックがキャリア形成で目指すのは偶然の出来事との出会いを大切にする「計画的偶発性」 であり、これを入社前から実践できていたとの思いを噛み締めつつ、カヤックで中途・新卒採用に携わる。
採用人事の担当者におすすめしたい3冊は?
◆『採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの』
(伊賀泰代著/ダイヤモンド社)
著者は、マッキンゼー・アンド・カンパニーの日本支社で12年間新人コンサルタントの採用と育成に携わった人物です。同社の採用基準は「とにかく頭のよい人」だと思われていますが、そうではなく、「グローバルビジネスの現場でリーダーシップを発揮できるかどうか」だといいます。
内容の多くをリーダーシップのことに割いている本書ですが、私は思考力について書かれた部分に感銘を受け、中でも「思考体力」という言葉はあまりにも衝撃的でした。地頭がいい人ではなく、粘り強くいくらでも考え続けることができる思考体力がある人を評価するという考え方です。
確かに採用面接で思考体力を確認することは、仕事にどれだけパワーと情熱を注ぎこめるかのバロメータになるなと、非常に納得感がありました。
本書を読んだ当時は私自身がエージェントとしてコンサルティングファームの人材紹介を行っており、業界理解などは深まるものの、採用候補者へ面接対策の具体的なアドバイスができずにいました。
本書を読んで以降、面接対策として一緒に考えたロールプレイを実践してから面接へ送り出すようにして、面接官に対して納得感のある応答ができたというケースが増えました。
その後、面接官の立場になったとき、「この人が自社のサービスをどれだけ一緒に考え抜いてくれるか」という自分なりの判断基準ができました。
面接を受ける側が読んだ方がいい本ではありますが、逆にみれば活躍する人材像の基準を学ぶことができるので、採用担当者におすすめしたい本として選出しました。
◆『【新版】動機づける力 ―モチベーションの理論と実践』
(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部著/ダイヤモンド社)
モチベーション理論の古典である「2要因理論」「達成動機」、期待が人のモチベーションを引き出すという「ピグマリオン効果」など、半世紀に渡って読み継がれてきた世界的な名著・論文を収録したのが旧版の『動機づける力』です。新版では、新たに神経科学の知見を生かした理論などを加え、さまざまな角度から「やる気」を引き出すマネジメントを解説しています。
前職でエージェントとしてカヤックの採用に携わっていたとき、クリエイターのマインドセットやカルチャーマッチを重視するカヤックの母集団形成に苦心していた時期がありました。
その時、カヤックの人事担当者から共有を受けたのが本書です。
本書の説明によると、仕事の不満足に関わるのは給与や職場環境などの「衛生要因」、仕事の満足に関わるのは責任の拡大や達成することなどの「動機付け要因」だとあります。
このうちの衛生要因をカバーするようなクロージングは、カヤックには全く不釣り合いであると理解しました。
本書を読むことでカヤック的な動機付け要因を追求し、母集団形成の段階でそういった求職者を集めることに注力するようになりました。その後、「カヤックマインドの権化」のような人材を入社させることができたことから、有用な一冊だと感じています。
企業カルチャーへのマッチを大事にする企業の採用担当には必読の書です。
◆『矛盾の経営 ――面白法人カヤックはどこが「面白い」のか?』
(古井一匡著/英治出版)
多くのベンチャー企業への取材経験を持ち、ビジネス書を中心に企画・編集・執筆を行うフリーライターが、カヤックの創業者・社員・識者に行った取材をもとにして、カヤックの軌跡を整理・分析した本です。社外の方が書いているという点で説得力を感じました。
カヤックに入社後、私は一般的な採用市場の戦略やアトラクトポイントで戦っていました。カヤックらしさ、例えば鎌倉に拠点を構えていることを「デメリット」にしか感じられなくなっていたり、当社のあまりにも厳しい採用基準に「ポテンシャル層を育成する気はないのか!」と憤ったりと、誤った理解をするようになっていました。
そんな時、他事業部の事業部長から、「行き詰まった時に、カヤックの大事にしていることを振り返るため定期的に読むようにしている」と聞き、手に取ったのが本書です。
本書を読んだことで、他社と異なる部分が採用力を下げる要因だという認識を改め、武器にしようと思うことができました。具体的には、「鎌倉が拠点のオフィスは自分達と同じ考えを共有できる人材を集めるためのランドマーク」「組織が大きくなるほどに『心の共通言語』を持っている人が大切」といったことです。
採用成果を上げることに終始せず、カヤックに共感してくれる最高の仲間を見つける戦いをしようと、頭を切り替えることができました。
人事は他部署と比べて採用市場の調査等の情報を収集する頻度と必要性が高く、競合他社の成功事例や優位性の情報をキャッチアップする機会が多いです。ともすると、それが自社の強みを見失い他社に倣おうとしてしまったり、ジレンマを生じさせたりする要因にもなり得ます。
カヤックについて書かれている本ですが、自社での制度づくりや考え方の参考になればとおすすめしました。
自社での取り組み紹介
◆カヤックのユニークな人事制度の意味とは?
カヤックでは「リーダーが評価するメンバーの姿はその人間のごく一部にすぎない」という考え方に基づいて、四半期に一度360度フィードバックを全社員で相互に行って社内で公開しています。
給料日前には全社員がサイコロを振り、出た目をもとにした額を賞与にプラスする制度では、「そもそも人が人を評価することには限界がある」という考えから生まれました。
年に一度の「ぜんいん社長合宿」の中では、「月給ランキングワークショップ」を行います。これは評価基準や評価の正解を学ぶためではなく、評価は人によって異なるという多様性を知るための研修になっています。このような取り組みを繰り返し行っていく中で、結果的に「納得性の高い」評価になっていると感じます。
人事評価そのものが仕事へのモチベーションアップや成長を促すための報酬になるよう仕組化されているのが、カヤックの人事制度です。
◆独自の採用活動や人事の仕組みを取り入れてみたいと考える担当者へのメッセージ
カヤックでは新たな人事制度導入や採用キャンペーン企画を立ち上げる際、代表も加わり自分達らしいかそうでないかの議論を重ねます。
「カヤックが実施しても違和感なく、さらに自分たちの考え方や文化の発信にドライブがかかるものは実施する。それ以外はやらない」という意思表示がはっきりしているのが特徴です。
会社を擬人化して、その人の行動原理としておかしくないか否かが、キャンペーンに留まらないブランディングにつながるのではないかと思います。
TEXT:合戸 奈央
EDITING:Indeed Japan +ノオト